聖女の成長
――――順調に階層を下った俺たちは次にセーフティーエリアにやって来た。
「このダンジョンは全8階層。5階層目にこのセーフティーエリアがある」
「セーフティーエリアってアレよね……アレ」
「おいシェリー。アレじゃなくてちゃんと説明してみろ。タイヨウも分からないだろ?」
「そんなこと言ったって、初めてなんだから!」
「はいはい。セーフティーエリアってのは、簡単に言えば魔物の湧かない休憩スペースのあるフロアだ」
「そうよ、シェリーちゃん。みんなここで昼食を取ったり、休憩したり。怪我をしたらここで治療したり素材が足りなければほかの冒険者からもらったりするのよ。物々交換もよく行われるの」
さすがクルルたん。クルルたんともよくダンジョン来るもんなぁ。俺たちの場合は……セーフティーエリアよりもダンジョンの隠し部屋でイイコト……だが。
「ロイさん、ちゃんと解説してください」
「ダニエル!?ちゃんと解説してるっての!」
「……絶対またろくでもないこと考えてたでしょ」
「大いなる人類の叡知だ」
生殖、繁殖、子作り。これぞ人類……いや全ての生命の大切な理だ。
「いやアンタね……。まぁいいです。ヒーラーだとほかの冒険者と一緒に救援に来ることもあります。大怪我を負ったり自力で戻れなかったりする場合にこのセーフティーエリアで待つんです。ここで宿泊もできますから、難解ダンジョンの場合はここで宿泊したり助けが来るまで待ったりするんです」
「へぇ、お前もよく知ってんじゃん、ダニエル」
「これでも勇者用のヒーラーですので」
「ま、確かになぁ」
「おや……ようやっと認めて下さったのですか?」
「それとこれとは別」
「もう素直じゃないですね」
いや……まぁ昔からひねくれてるとは言われているが、看破すんな!
「そうだ、シェリーちゃん。せっかくですから研修しましょうか。怪我人がいれば治療させてもらいましょう。こう言う場では回復魔法もお互い様。助け合いも大切な心得です。ベテランがついているので安心ですよ」
「わ、分かったわ、ダニエル!」
シェリーが今まで以上に緊張した面持ちになる。普段イキッてはいるが治療に関しては真面目で勉強熱心なんだよな。ほんと……聖女にはちゃんと向いている。
早速ダニエルと共にシェリーが軽傷者の治療に取り掛かり始める。するとこちらに駆けてくる冒険者がいた。
「おい、アンタたちヒーラーか!?怪我人がいるんだ、来てくれ!」
「えぇ、もちろんです。シェリーさん、行きますよ」
「は、はい!」
シェリーはすっかりヒーラーの顔だ。
「この難易度のダンジョンで……やけに焦ってるな」
「そうね……私たちも行きましょう、ダーリン」
「あぁ」
俺たちもその負傷者の元へ向かうことになった。
「……シェリーさん。落ち着いて、少しずつ」
「はい!」
負傷した冒険者は苦しげだ。ダニエルがシェリーの手首を握り魔力量を調整している。腐っても勇者のヒーラーだな。
暫くして負傷者の傷は無事に癒えたようで今は眠っている。
「あ、ありがとう、本当にっ!」
「いえ、当然の務めです」
仲間と思われる冒険者の礼にダニエルが答える。
「一体何があった」
その冒険者に問うてみれば。
「あ、実は魔族が……ってっ。げ、品性下劣勇者!」
「うっせぇ殴んぞ」
「ひぃっ!」
「コラァ、ロイさん!怪我人増やさない!」
「……す、すまん」
ダニエルがいつも以上に恐いんだが!?うぅ……でも普段のほほんとしたアシェも治療現場では鬼になるからな。因みにシェリーはMP回復のためにユリーカにMPポーションをもらっていた。
「あの……今魔族って……」
ユリーカがゆっくりと立ち上がる。
冒険者がユリーカを見て驚愕する。魔族問題のようだし……ここではまずいか?
「お前ら。ユリーカの保護者は俺だ。何か問題が?」
「そ、それはその、アンタが保護者だったなら……」
「ふん、んで魔族が何だって?」
俺が冒険者たちに向き直れば、冒険者たちの顔色がガラリと変わる。
「実は……ここより下の階層でいきなり魔族が魔物を操って、その魔物に襲われたんだ。魔族も話が通じる風じゃなかった。俺たちは何とか撹乱アイテムを使って逃げられたが……もし探索に慣れてない冒険者ならアイテムもないだろうし……」
「……そうか。なら、ここから下は俺が戻ってくるまで誰も下るな。現状でここより下に潜っているものは……」
「いるはずだ。ここはそれほど高難易度ダンジョンじゃない」
「比較的誰でも最下層に行けるか」
とは言えそれほど階層はない。全部で8。ここから行っても3階層だけだ。
「念のため避難してきたやつらのために、ダニエルとシェリーはここに残れ」
「はい、ロイさん」
「それからタイヨウとユリーカもここでクルルたんと……」
「私も行くわよ、ロイ!魔族が絡んでいるなら私が行かなくちゃ」
「……お前が魔王の娘でも、話が出来ないかもしれないぞ」
「けど……私だって魔王の娘よ。もしかしたら何か困っているのかもしれないし、事情があるのかもしれない。だから私……ちゃんと話したいの!」
全く……どこまでもあまちゃんなのは相変わらずだ。けどだからこそ、周りがついてくるんだろうな。
ユリーカが魔王の娘だと言う話に周りが驚愕しているが、俺の前で口出しするものはいないだろう。
「なら俺も行きます、ロイさん!」
「タイヨウ」
できれば危険に巻き込みたくはないが……しかし。俺はそんじょそこらの魔族になんて負けやしない。
「なら、万が一戦闘となった場合はクルルたんの指示に従うこと」
「2人のことは任せて、ダーリン!2人とも、いいわね」
『はい!』
ユリーカとタイヨウが頷く。そして俺たちは急いで下層に急いだ。




