ダンジョンの魔物討伐
――――初めてのダンジョン探索の引率なんて、したのはいつぶりか。しっかし……。
「ダンジョンは魔物があちこちから湧くから注意してけよー」
やっぱ怠ぃー……。
「あのー……相変わらずやる気ないのはいつものことなんでいいですけどやる気出してください引率の先生」
「誰が先生だ、ダニエル」
「あら、でも陛下の時もしっかり引率したもの!ロイなら大丈夫よ!」
「いや、今あり得ない名前が聞こえたんですが、クルルさん。え……陛下!?陛下のダンジョン探索の引率やったんですか!?」
「そうそ。あの頃の坊はまだかわいくてなぁ……俺もウキウキで引き受けたの。今では小間使いとして同行させようと企みやがる。時には公務で時間ないからって俺に素材回収やダンジョンの見回りを命じる始末。あれは絶対ウチのギルドが坊に告げ口してるんだぁっ!」
「いや……普通の陛下は自分でダンジョン探索行かないですよ。まぁ陛下とお会いした以上はあの陛下ならと思いますが」
「むしろ陛下のダンジョン探索好きは国民の間では有名なのよ」
「マジですか!?クルルさん!!」
「カッコいいわよねー、陛下。いろんな伝説が庶民の中でも広まっているのよ」
とシェリー。
「……へぇ、よく知ってるな」
黙ってダンジョン探索に来たのもその影響か……?それらの書物には大抵『ダンジョン探索は冒険者ギルドの許可を取りましょう』って書いてるはずなんだがな。坊の初めてのダンジョン探索は……12かそこらで破格だったが、俺と一緒ならと許可が下りた。しかしながらあれは例外中の例外。坊の実力のこともあるし、竜族の先祖返りって事情もある。まだ14歳かそこらのシェリーたちには早い……と思っていたんだが。
「だって……アンタが一緒の話も多いし……」
「え?」
「な、何でもないわよっ!!」
いや、何でいきなりツンツンしてんだこのマセガキは。
「んもぅっ、ダーリンったら!複雑な乙女心なんだからっ!」
「クルルさんっ」
「やっぱりクルルさんは……最高」
いや、クルルたんがそう言うならいいけど、俺のクルルたんがシェリーとユリーカに取られたのは納得いかない。
「ロイさん!次はあの魔物と戦ってもいいですか!?」
一方でタイヨウは目の前に現れた大物の魔物を前にしていた。うーん……ここはまだ弱い魔物のテリトリーなのに何故あれが出てきた?まぁそう言うイレギュラーな事態はダンジョンではあり得ることだ。だからこそ、慣れないうちは先輩冒険者の引率も必要である。
「そうだなぁ……よし、俺が特別に手解きしてやる」
「え、ロイさんが!?」
腹の底から驚いたリアクションすんじゃねぇ!ダニエル!
「よぉ~~し、まずは……」
素早く竜鋼ランスを取り出し魔物の頭上に叩き付ける。
「これぞ強制土下座突きいいぃっ!!」
「技のセンス最低なんですけど」
今の時代はこう言うシンプルなのが逆に受けるんだよダニエルぅっ!!
「ギャアァァッ」
魔物の頭を地面に沈め、そして悠々と魔物を見下ろす。
「てめぇ……担当階層無視してこんな階層にやって来たんだ……レアアイテム泥しねぇと承知しねぇぞゴルラアァァッ!!!」
「ギギイイィッ」
「やっぱり品性の欠片もないですね」
「だってロイだもの」
諦めたように言うな、ダニエル、シェリー。お前ら引率の先生になんつー言いようだ。
「ロイさん!やっぱりここは正々堂々の方が……っ」
「タイヨウくんはまとも!やっぱり品行方正だ!」
タイヨウの言葉にダニエルが音頭を入れる。しかしながら……。
「ルールを破ってこの階層に来やがったのはコイツだろう?なら悪いのはどっちだ?」
「……魔物さんが悪いですね」
タイヨウはいい意味でも悪い意味でもまっすぐだ。見てみろ、救われたと一瞬希望の目を輝かせた魔物が絶望の目を向けている。
「精々レア泥しろやあぁぁっ!!」
竜鋼ランスを振り払い魔物をひっぺかえす。
「タイヨウ、コイツの弱点は鎧鱗の薄い腹だ!」
「はい、ロイさん!」
タイヨウの剣戟が魔物に命中する。お?少し攻撃が軽かったからやり返す気か?魔物の鋭い眼光がタイヨウを捉える。
「しかしそうはさせるかぁっ!引率の先生をナメるなよ!」
お前の敗因は……低階層で新米挑戦者を狙うつもりがこちらにも引率の先生がいることを予期できなかった点にある。
「ギャアァァッ!!!」
竜鋼ランスの攻撃が魔物の腹を突き破る。ダンジョンの魔物を討伐すると魔物は粒子のようになって消え、後にはドロップアイテムだけが残る。ダンジョンの外の魔物戦は倒した魔物の血抜き処理やら解体作業やらが必要だしアイテムドロップもしない。素材は全部自分で解体し回収するしら自分で処理できないのならギルドに回収や処理を頼まなくてはならない。魔物を討伐して適切な処理をしないと不要な魔物を誘き寄せたり、それにより二次被害が出たりする。
そちらはそちらで教えていかねぇとな……。ともあれ、ドロップアイテムだ。
「さぁて、ドロップアイテムは何かな~~」
アイテムは……あの魔物の鱗セットであった。
「わぁい、ロイさん!初素材ですよ!」
「そうかそうか、良かったな」
タイヨウは純粋だなぁ。でもその素材、高くも売れないしあまり役にはたたないハズレだ。下の階層であの魔物の仲間に会ったら……仕返しじゃぁっ!!
「……ロイさんがめちゃくちゃ悪いこと考えてますね、あれ」
何を言ってるんだ、ダニエル。これは……正当報酬を要求しているに過ぎない!!




