保護者だが、何か?
――――ここはドラゴニア王国のとある冒険者ギルド支部ダンジョン前。
「あぁ……怠ぃな」
「そんなこと言わないの、ダーリンったら」
「そうですよ、保護者」
「誰が保護者だ!それと!クルルたんは俺のマイスイートハニーだからいいとしてダニエル!何故お前までいる!」
「はぁ……あなたはもう。つくづくイレギュラー勇者なんだから。いいですか?古今東西、勇者にとって聖女、聖者とは……一般的に保護者を指します!」
「指すかぁいっ!それを言ったら何だ?タイヨウは……!」
「セイカ皇后陛下では」
いや、確かにそうだけど。合ってるけど。セイカはタイヨウの後見人で、しかも実の叔母なのだ。
「でもそれならアヤメは……」
旦那が付いているとは言え、旦那は聖職じゃないぞ。
「メイコさんが遠距離保護者です」
何それ遠距離保護者って。初めて聞いたんだけどそれはそれで合ってる……!
「アリシアは……しっかりものだもんな」
「でしょう?」
「でもシェリーは……」
「将来は立派な保護者キャラになるかもですよ」
「いやぁ……あり得ねぇだろ。アレだし」
俺たちが近付いて行けば、そこで言い争っている人影とひとりキャンキャンとやたら威勢のいい声を捉える。
「何よ!マナーくらいは守りなさいよ!」
「あんだと!?耳の短いエルフがっ!」
「だ……っ誰が耳の短いエルフよ!失礼ね!」
明らかにガラの悪そうな冒険者連中と、ひとりイキッているシェリー。
なだめようとしてるタイヨウとビビって泣き啜っているユリーカ。
おいおい、魔王が目覚めたらアイツら一瞬で燃えかすにされっぞ。
ユリーカを泣かすやつはなんとやら~~、何つってたっけ。長かったから途中でぶっ飛ばした気が……うん、だからよく覚えてないな。
「うっせぇっ!調子に乗りやがって!」
冒険者のひとりが腕を振り上げる。
「……きゃ……っ」
……ったく、局所的に威勢はいいが、肝心なところでビビるんだから。まだまだ保護者キャラには程遠い……てか、例外もあるだろう。アレは完全に保護者が必要なたちである。でもまぁ、大人の冒険者相手なら無理もない。そんな子ども相手に腕を振り上げるやからのほうが明らかに悪いよなぁ……?
「そこまでだ」
シェリーの顔目掛けて振り下ろされようとしていた腕をガシッと掴む。
「何ダァっ!?てめぇっ!」
「あ゛ぁ゛?コイツらの保護者だが、何か?」
「ロイ!私がピンチなのに何してんのよぉっ!」
助けてやったのに偉そうだな、お前。さすがはじゃじゃ馬聖女。
「ロイさん!来てくれるって信じてました!」
まぁ……タイヨウはまっすぐなだけだから……よし。
「遅いわよぉっ、バカロイっ」
だがユリーカ!お前は変な呼び方すんな!
そして俺の名を聞き、俺の顔をまじまじと見た冒険者たちは。
「……げっ、お前まさか……っ」
一斉に青ざめる。
「ろ、ロイだ……っ」
「品性下劣勇者の!?」
「勇者の持ち腐れ!」
「はいはい、三拍子見事に揃えてずいぶんといい度胸だな……?お行儀の悪い後輩にはキツ~イ仕置きが必要だなぁ?」
一応俺、これでも150歳を超えているわけだし。相手はたかだか20、30そこらの冒険者だ。
「イキがってる痛いやつらにはキツ~くお灸をすえねぇと……俺が保護者や何だでまた呼び出されんだろぉがっ!結構いいところだったのにぃっ!!クルルたんとのラブホタイムが台無しじゃぁいっ!!俺を偉大なる竜王子さま後生です許してくださいこの通りとひれ伏して泣きわめいても許してやらあぁぁ――――んっ!!」
「ちょっと感動しかかってたのに、相変わらず品がないわね!?」
せっかく来てやったのに何てこと言いいやがる、シェリーめ。
「昼間っからラブホ通いはいけないと思いますよ、ロイさん!」
相変わらず真面目だな!?タイヨウお前!でもお前らだって勝手にダンジョン来てんだからな!?
「えぇーと、そうだ!これでこそドラゴニアの品性苛烈勇者!」
ユリーカは違ぇっ!微妙にそれ違ぇから!お前は方向音痴のほかにも四字熟語音痴も身に付けたのか!?
「ま……ともかくだ」
手のかかるやつらであることに代わりはねぇんだから。
「お前らは……お仕置きだっ☆」
にっこり笑めば、冒険者たちがガクブルと震え上がる。
この俺の偉大さをよぉ~~く分かっているようで何よりだなぁ……?
「大丈夫、大丈夫。全治3習慣くらいにしといてやるから……な?」
そして繰り出す鉄拳制裁に、柄の悪い冒険者たちの哀れな悲鳴が響いた。
「まぁ、一応聖職者ですけど……うちの後輩を虐めたのでお慈悲はナシです」
そこで伸びてる冒険者たちに、ダニエルがさらりと言ってのける。
「お前も案外鬼畜か……?」
「さぁ?聖者や聖女と勇者はセットですから。どっかの鬼畜ドSが移ったのでは?」
「お前な」
でも何だかおかしいな。思わず苦笑を漏らす。それと……後は。
「コラァっ!お前らっ!」
『ひぃっ』
3人息ピッタリで仲良しなことで。まぁいいけど。
「勝手にダンジョンに行くなっつっただろうが!」
しかもシェリーはジジイからダンジョン禁止を言い渡されているってーのに。
「でも、私たちだってもっと……」
最初こそ威勢の良かったシェリーは、段々ともじもじし出す。
「ロイさん!俺ももっと強くなって、ユリーカを守れるようになりたいんです!」
「タイヨウ……っ」
いや、2人していいところなの申し訳ないのだが。ユリーカは守らなくても結構強いぞ。しかし……追い付きたいってのもあんのかねぇ。
「仕方がない。下手に挑まれて怪我でもされたら、シェリーには治せないからな」
「できるわよそれくらい!」
「加減の問題だ、加減の」
「まぁ、そこは私が教えると言うことで」
ダニエルが付いてんなら、教えつつできるか。
「よし、お前ら!ちょっくらダンジョン研修と行こうか」
『はーい!』
気合い充分、上出来だ。
「(やっぱりダーリンは面倒見がいいわね)」
そうこそっとクルルたんが耳打ちしてきたのは……アイツらには内緒である。




