ジャーマンスープレ
いきなり現れた男らに、視線が集中する。
「あ……?誰アイツら」
同じく昼飯食べに来た冒険者たちまで殺気だってんぞ。
「シャマイム……って聞こえたわよ?」
と、シェリー。
「うちの隣国のひとつね。海は挟むけど」
ユリーカが言うとおり、魔王国と国境を抱える国のひとつだ。アートルム帝国からは魔王国を挟んで反対側だからものっそい遠い。転移では一瞬だがな?
「あと……お母さまの故国ね……」
ユリーカのその渋い表情が色々と物語ってんな、オイ。
「そういや……使節団が来てたな――――……」
そういやって、おい、坊。使節団ほっぽいてこっち来たんか。そんなに俺のこと好きなの?仕事さしたいの?優先度の違い甚だしいな。
「我がシャマイム公国にお戻りを……っ!聖女さま……!」
青年が叫ぶ。
「いや、やっぱ聖女って……ロイさん!聖女だって!あの回復力何となく予感がしてましたけど……!」
「そうだぞ、ダニエル。メイコさんは召喚聖女だな。ほら、この異国の料理はメイコさんの故郷の料理だって……言ったろ?」
「まぁ……そうですよね……名前からして珍しいし!料理も何となく……タイヨウくんの驚き方からしても……決まりだとは思いましたけど……何で聖女3人もいるんですか」
「しゃぁねぇじゃん。増えちまったもんは」
「いや、アンタねぇ……誰が原因かは何となく分かってますよ、分かってますけどね」
「……は?いや、マジでよく分からんのだが。あとメイコさんの件は別に俺が原因じゃねぇよ。シャマイム公国の近くの国で米値切ってたら何かついてきたんだもん。ついてきたら何かダリルとくっついたんだもん」
「やっぱりアンタじゃないですか……!あれ、てか、メイコさんはシャマイム公国に召喚されたんですよね?それがどうして隣国に……?」
「あー……それはな」
「でも、絶対聖女じゃないと無一文で追い出したのはあなただった気が……」
メイコさんが青年を見ながら告げる。
「そのことはメイコから聞いているぞ……!それにメイコは俺の妻だ!渡さん!」
「ダリルさん……っ」
ほら、ラブラブじゃん。夫婦ラブラブじゃん。だから別に終わりよければすべてよしじゃん?
「いや……何を勝手に結婚してるんだ……!?あなたはシャマイム公国の聖女なのだから、シャマイム公国で婚姻すべきなのだ」
そう、青年が豪語した瞬間。
「そう言うのは、良くないと思います……!」
あれ、タイヨウが突っ掛かりに行ってら。
「こんなにラブラブ夫婦仲むつまじい2人を無理矢理引き裂いて、結婚を迫るなんて……っ!」
「いや、誰だお前……?あ、日本人か?」
「え……?」
「あのー……ロイさん。また衝撃の事実が……」
「あぁ。アイツも勇者だよ。シャマイム公国の召喚勇者」
召喚勇者か地産の勇者は各国にひとりいるかいないかだ。
ただ旧フローライトには多く生まれてたが。
あ……でもこの国には今2人だな?まぁ増えちまったもんはしゃぁねぇ。
「だからかな?使節団にくっついてきた。ロイは貸し出さねぇけど」
「貸し出されるゆわれもねぇよ、坊」
……てことはその話あったな……?容赦なく切ったようだ。
そう言う話は世界中から来るから坊もなれっこだろうが。あとまぁお使いのついでに隣国で女勇者に絡まれたこともあったな……充分強ぇだろっつって逃げてきたが……あの国に行く時は半ばあの女勇者に出会わないように慎重を期すことになった。
「……あ!むしろあいつ、女勇者に押し付ければいいじゃん!」
「そうか、ロイ。その手があったな……!じゃぁ本人に直接言っとけ」
「は……?」
恐る恐る、揉み合い現場を見やれば。
後ろおぉぉっ!!
「君はいつ召喚されたんだ」
「一週間前だが?」
早ぇな。そして短期間でよく方向音痴魔族拾ったもんだな。
「は……っ。召喚一週間のぺーぺー勇者だ。この世界の何足るかも分かっていない。君とは召喚された国も違うのだ。我が国の問題に首を突っ込まないでいただこう!」
「確かにそうだが……」
シャマイム公国の召喚勇者……確かイタルとか言ったか?今度はメイコさんを乱暴に突き飛ばしてタイヨウの胸ぐらを掴む。
「ちょっとやめ……やめ……やめな……さぃょ……」
加勢に言った魔王の娘弱あぁぁぁ――――……っ!?何、お前人見知りだったのか!?そうだったのか!?いや……ドラゴニアでは……竜族の自治区に放置したから、見てなぇな。うん。
「そうよ!年下と女性に暴力なんて最低よ!」
うちの国のツンデレ聖女は強ぇな。うん、気ぃだけは強いんだよ。すぐ泣くけど。
「君は……ハーフエルフ……!すごい、本当にいたのか、俺と一緒にシャマイム公国に来ないか!?」
あの召喚勇者はタイヨウの胸ぐら掴みながら何言ってんのぉっ!?あと、後ろ、後ろ。アイツは阿呆か。
「はー……はーふ?誰が半分よ、私は立派なエルフよ!!そして誰が行くか……っ!」
ほーら、怒ったぁ――――。ヒト族の血は入っていてもエルフ族として洗礼受けてんだから、そら怒る。
「てか、坊。ハーフとかなに。何でエルフにハーフつけんの?」
「あー……あれはな。ヒト族とエルフの血を半分ずつ受け継ぐと言う意味だ」
「半分じゃねぇじゃん」
「ほら、ドラゴニアだとややこしくなる」
「多種族国家ドラゴニアあるある――――」
てか、後ろ――――……。
「貴様ぁっ!!女を何だと思っているのだ……!」
「……え?」
あぁ、召喚勇者イタルがやっと気が付いた。
「は……っ!?年増勇者……!」
違う違う……っ!いや、まぁ俺の方が年上だけども。
「誰が年増勇者だ!」
そう告げたのはシャマイム公国の隣国、食材の仕入先のエスト王国出身の勇者アヤメ。因みに王妹。つーか、夫ほっぽいて何してんのあの女勇者。
「因みにダニエル。熟女だが既婚だ」
「何言ってんですか、藪から棒に。あと、私のストライクゾーンはもうちょっと上です」
何……っだと……!?
「どこに驚いてんだ、おい、ロイ」
「いや、だって」
ここにきて新たな新事実だぞ……!?
そして修羅場方面では。
「あなた私が召喚された時もそんなこと言ってたじゃない」
「話は聞いているぞ!召喚された時にメイコ殿が私と同年代だから年増だと捨てたと……!そして自分だけしれっとシャマイム公国の公女でもある聖女と結婚しただろ」
「いや……だってさすがに召喚されて聖女と結婚しろと言われても……この年齢だろ?」
「失礼すぎるぞ貴様ぁっ!」
「だが……!今度は年相応の嫁ぎ先を、公女が紹介してくれるのだ……!」
「知ってるぞ、それも。公女の聖女の力が大したことなかったから呼び戻そうって算段だろ!?お前もシャマイム公国も最悪だ……!公国との取引も考えさせてもらう。新たな販路ならあることだし」
あぁ、ドラゴニアと……多分今後はアートルム帝国もだろう。
つまり今さらメイコさんを連れ帰ろうとしたのはそう言うことか。
「公国との取引だと?後悔するのはそちらだぞ」
イタルが告げた途端、回りの取り巻きが『あぁ……っ』と崩れ落ちる。
「いい度胸だ。その言葉、忘れるなよ」
困るのは確実に鉱山と少ない漁獲物で儲けてる公国の方だな。まず主食すらエスト王国頼みなのにやるなぁ……?まぁ俺の知ったこっちゃないが。
「とにかく……っ!メイコ殿はここで夫君と幸せに暮らしているのだ。ちゃちゃを入れるな!」
そしてしれっとタイヨウの胸ぐらを掴む手を引き剥がす。
「この国には聖女が3人になったと聞いた……!だから1人くらい返したっていいだろうっ!?」
あぁ、それを持ち出したわけね。この国に聖女が増えたから。
「モノみたいに言うんじゃない!」
アヤメは面倒くさいしつこさを持つ女勇者だが、思考はまともなんだよな。
ロドリゲスが魔王国を攻めた時も反対してたし。
「うるさい!年増勇者!」
「女性に年齢のことを言うのは失礼だろうが!」
「そうよ!さっきから聞いてたけど、アヤメちゃんはとっても努力して強くなったすごいコなのよ?」
あれー、何かいつの間にうちのクルルたんも参戦してたんだけども。
アヤメも『そうそう、さすがクルルさんだ』とか仲良さげだし……いや、うちのクルルたんはだいたい誰とも仲良くなるか。
因みにユリーカは……しれっとクルルたんの後ろから威嚇してる。
「そろそろおさまり付かなくなるから行くか……」
「今さらかよ、坊」
その時だった。
「何なんだ貴様ら!」
イタルが腕を振り払おうとしたイタルの肘が……。
「きゃっ」
クルルたんのおっぱいに……っ。
「何しとんじゃワレェッ!!うちのクルルたんのおっぱいに触れていいのは俺だけだあぁぁぁぁ――――――――――っ!!!」
目にもとまらぬ早業とはまさにこのこと。
俺は素早くイタルの後ろに回り込む。そして腰をホールドすれば、女勇者がサッと場所をあける。さすが、分かってんじゃねぇか。
そして、一気に……。背をのけぞらせて後ろに倒――――――すっ!!!
「がはぁ……っ」
召喚勇者イタル、打ち取ったり……っ!
「あ……これ!ジャーマンスープレックス!」
タイヨウが叫ぶ。
ふ……っ。坊直伝の妙技だ……!




