魔王の娘
「……で、何でアートルム帝国から召喚勇者が来んのよ、しかも魔王のじゃじゃ馬娘付き」
「誰がじゃじゃ馬娘よ……!」
「あ――……ついにロイさんがぶっちゃけちゃいましたよ。――――と言うか魔王の娘と勇者の組み合わせってアリなんですか?ねぇ?」
「心配するなー、ロイが前科持ってる」
「またアンタか――――――いっ!」
「し、仕方がないじゃない。あの元クソ勇者のせいで魔王国が大変なことになっちゃったんだから……!」
「え……?元クソ勇者……?それってロド……」
「憎き仇です!」
「そうよ、できれば自ら叩きのめしてやりたかったけど……っ」
「え?何で品行方正そうな勇者タイヨウくんまで闘志燃やしてるんです?」
「そうそう……お前さぁ……てっきり乗り込んで行くと思ってたのに。皇帝も楽しみに公開処刑日わざわざ待ってたみたいなのに、結局来なかったから先にやっちゃったって言ってたぞ」
「いや、何でアートルム帝国の皇帝陛下が魔王の娘待ってるんですか」
「同じ仇を持つ同志って感じかな?でも……」
ユリーカを見やれば。
「……着けなくて」
「あ゛……?」
「迷って着けなかったのよ……!しょうがないじゃない……!マップアプリがあったって迷うのよ……っ!!」
「方向音痴?お前方向音痴なの?」
「いつもと違って……付き人がいなくて」
今までは付き人がいたから迷わなかったのか?コイツ。
「お前まさか黙って国抜けて来たんじゃねぇよな?」
「……」
ぷいっと顔を背けるユリーカ。……おいおい。
「ユリーカ」
「た、タイヨウ……?」
「黙って国を出るのはダメだと思う……!きっとご両親が心配している……!だってユリーカはまだ未成年じゃないか……!」
み、せいねん……?よく分からんが……この勇者は真面目ちゃんか――――っ!
「そもそもユリーカ、お前今年何歳だよ」
「は……はちじゅう……くらいかしら?」
見た目16歳かそこらだが。
「そう言えば魔族も長命種でしたね。それも青年期長い」
「いくつになっても……ご両親にとってはかわいい娘には代わりない……!」
「タイヨウ……っ」
いや、だからどんだけ真面目ちゃんだよ、この勇者……っ!
「でも……お母さまはヒト族だったから……既にお空のお星さまよ」
思えば……コイツもだったな。
「じゃぁきっとお空の上から心配している……!」
「お母さま……ヒト族だから飛べないんじゃぁ……?」
そう言う意味じゃねぇよ!?
お前はお前で天然かよ……!
「あー……ところで、お前の父親だが……何?もう目覚めたのか?あと、連絡はしとけ」
「あ……いや、まだ眠ってるけどもう少しで目覚めるわよ?まぁ、しとくけど」
「連絡いれてくれるのはいいとして……魔王復活するんですか!?大丈夫なんですかこの世界いいぃぃっ!確かウン十年前に、ロドリゲスによって倒されたはずじゃぁ……」
「いや……魔王第6形態まであるし。全部倒さねぇと復活すんだよ」
「そうよ。お父さま、第6形態まで倒されちゃったけど、実はこっそり第7形態残してあったから、そのうち復活するわよ?」
「それ……いいんですか!?魔王復活しますよ!?」
「そりゃぁさぁ、ユリーカが生まれる前……嫁と出会う前は結構荒れてたけどさ。あんまりウザいもんで、一回うちの親父が殴ったらちょっと大人しくなったから大丈夫だ」
「さらっと今すごいこと言いませんでした?ロイさんのお父さまって……竜王さま……!?」
「他に誰がいるよ。まぁ、アイツも昔は色々やってたけど、今では娘大好き親バカだっつの」
「だからって……娘の日記読むんじゃないわよ」
「それは魔王さまが悪いわよね」
「分かりますぅっ!?やっぱりクルルさんはこの品性下劣勇者の嫁だなんてもったいない女神ですうぅぅっ!私もおっぱいでかくなりたい……」
何かしれっと本音出たぞ!?出たが……っ!?
「おいコラ、ユリーカ。俺のクルルたんが女神なのは当然だが、クルルたんこそが俺の最高の嫁……!異論は認めんぞ!」
「くぅ……っ、こんの……っ」
悔しげなユリーカ。
因みにこんな時になんだが……ユリーカは……ぺたんこだ。
「アンタ!この品性下劣勇者……!今失礼なこと考えなかった!?考えたでしょ!?」
あからさまに自分の寂しい胸元とクルルたんのおっぱい交互に見ながら負け惜しみ言うなよ。
「あの……ユリーカ……。品性下劣とは、何だろう?」
「うおぉぉいっ!勇者くん知らなかったぁっ!まさかの品性下劣知らなかったぁっ!さすがは品行方正そうなまともな勇者ぁっ!」
「ドラゴニアではダメ勇者を称える言葉だ。覚えとけ――――」
「陛下も……っ!変なこと教えないでくださいよ。品性下劣ってのは、そのー……品行方正の逆、対義語ですかね」
「あぁ……そういう……」
品行方正勇者が頷く。
「でも、やっぱり真っ昼間からラブホは……っ」
「まーた、そのくだりに戻るんかい……っ!俺の勝手だろぉがぁ……っ!」
「――――と言うか、勇者くん。あんまりラブホラブホ言わないの。君何歳?」
「15歳です」
「ぶふぉっ」
ダニエル、吹いた?
「そうして少年はオトナになって行くんだぜ……?ダニエル」
「男子高校生なんて隠したって仲間内で言ってんだよ諦めろ……!」
「男子こう……なんですか?陛下。あとそれには個人差があると思いますよ――――。少なくとも私はラブホの存在を知ったのは……二十歳からです」
「お前……割りと真面目ちゃんだったんだな……?」
「私はいつでも真面目でしょぉがっ!!」
「あの……」
「どうしました?勇者くん」
「タイヨウです。こちらでは……タイヨウ・ハヤセですかね」
ハヤセ……?面影があったのは単に同郷だからってだけじゃなかったのか……?
「タイヨウくん、どうしました?」
「さっきから……へいかって呼んでますけど……」
「……ハッ!!そうですよ。ちゃんとこちらの紹介もしないと……!えっと、まずこちらの方は」
「バシレオスな。一応ドラゴニアの国王」
「一応って言わないでくださいよ、陛下」
「だってそうだろ?隣に竜王子がいる」
「おい、坊。都合のいい時だけ竜王子扱いすんなって……!」
「そんな竜王子のくせに品性下劣勇者、勇者の持ち腐れがロイさんですね」
「えっと……陛下と親子……?」
「逆だ逆……!こっちの方が年下!俺は坊がおしめの時から知ってんぞ……!」
「おしめ……」
「ダニエルと言ったか……?その話を出したが最後……お前の串カツをソース二度漬けにしてやるぅっ!」
「いやちょ……陛下何して……!?よく分かりませんが、それはそれでアウトな気がしますけど――――――っ!?」
「ならば自重せよ」
「ははぁ――――っ!!」
坊は二度漬けの直前で串カツを止め、そのまま串カツをはむり。結局奪いはするんかい。
「とにかく、勇者く……いや、タイヨウくん。このドラゴニアでは国を代表する国家元首はこちらのバシレオス陛下ですが……力関係としては、象徴王族の竜王家、次は国家元首を務めるドラゴニア王国王家です。細かいところを言うと……実は移住者のエルフの中にも姫いますね。だからと言って国政に於ける権限などは特にありませんが。うちの国の聖女のひとりです」
「エルフ……っ!エルフもいるんですか……!」
何でそこで目を輝かせるんだ……?
「ちょっと、タイヨウ!まさか魔族よりもエルフをとるつもりなんじゃ……っ!?」
ユリーカが慌ててタイヨウの両肩を掴む。
「だけどエルフは……一度でいいから見てみたい、異世界ファンタジーの定番なんだ……!勇者として召喚されたからには……一度でいいから……!ユリーカ……っ!!」
「勇者ってそう言うものなんですか?ロイさん」
「勇者の定番じゃねぇよ。あと俺はクルルたん一筋……!目ぇ閉じても視界に入って来ようとするエルフ聖女は進んで見たくはない……!」
「誰が進んで視界に入ってくるもんですか……!なぁーに、勝手言ってんのよ、このダメ勇者!!」
ほら、やっぱり入って来てんじゃねぇか。




