品行方正勇者
――――いつもの日常、いつもの食堂。そして見慣れぬ2人の男女。
「やっぱり……真っ昼間から……ら、ら、ラブホは行けないと思います……っ!」
「帰れ……っ!!!」
俺は間髪入れずに叫んだ。
「いやいや、待つてくださいよ、ロイさん……!」
慌ててダニエルが立ち上がったって構やしねぇ……っ!
「真っ昼間からラブホに行って、何が悪い……っ!ラブホだって昼間からやってるラブホもあんだよ……!昼間利用者向けと……それから夜間業種従事者と夜行性種族のために……!なら、使わねぇとラブホの売上落ちんだろぉが……っ!!冒険者だって不規則な生活だ……!真っ昼間にラブホを使うことだってあるううぅぅ――――――っ!!!」
これは多種族国家ドラゴニアならではの特色だ。
各国に軒並みを揃えるラブホチェーンも、ドラゴニアだけでは真っ昼間営業してるとこあるもん……っ!!
「で……ですが……ロイさんは冒険者の前に勇者ではないですか……!」
「俺ぁ勇者だの冒険者だの言う前に……己の性欲を優先する……っ!」
「あのー、ロイさん。子どもにする話じゃないです。あと読者の大半が私と、ロイさん……それから誰がおんねんって思ってますよ。さっきからロイさんとしゃべってるの誰だと思ってますよ。紹介させてあげなさいよ」
「はん……っ、何言ってんだ、ダニエル。誰だろうと構やぁしねぇ」
「構いますよ、ロイさん。せっかくアートルム帝国から紹介状まで持ってきてくれたんですから。遠路遙々来てくれたんですよ?」
「誰も来いとは言ってねぇ……!俺は行く……!俺はラブホでクルルたんとぱふぱふするんだぁ――――っ!!」
「んもぅ、ダーリンったら……っ!」
「えーと。この場にクルルさんももちろんいることは伝わりましたけど……!ラブホは夜にしなさあぁぁぁ――――――いっ!」
「やだっ!真っ昼間も夜もラブホに籠る……っ!」
「何で籠る方向に話が行ってんですか……!」
「おーい、お前ら……店ん中で騒ぐなよ。ほれ、これそこの勇者くんたちに食わしてやんな」
「あ、すみませんダリルさん」
「おいおいダリル、その食事誰持ちよ?」
「心配すんな……お前へのお客さまだ」
「は?俺への客?コイツらじらなくて?」
ダリルが勇者と呼んだ黒髪黒目の少年と赤髪の少女に目をやる。
「ほら、お目見えだ」
「は……?」
お目見え……?
「ロイ~~?お前真っ昼間から言い度胸だ。だが逃がすと思うか?」
「ぐぇ……っ、何で坊がいんだよ……っ!?」
「せっかくアートルム帝国から客が来たんだ。同席しても?」
「あ、どうぞ」
「こらダニエル!勝手に席を譲るんじゃないの!」
さっと席を詰めるダニエルに対し……。
「じゃー、俺はここな」
俺の右側にはおっぱいぱふぱふなクルルたんがもちろん座ってくれているが……その左側にしれっと座りやがったよ、坊~~っ!
「これで逃げらんないなぁ……?ロイ?」
がしっ。
腕までがしっと掴まれる。
「ふぐぅ……っ、昔はかわいかったのにいいぃぃっ!!」
「だから昔って何十年前の話だよ……っ!」
「あー……いいから、いや、いいんで……本題に入りません?」
「そうねぇ、ダニエルちゃんの言う通りだわ……!」
「く……クルルたんが言うなら……でも一瞬クルルたんのおっぱいぱふぱふしたいいぃぃっ!!」
「こらぁっ!お手々お膝の上えぇぇっ!!」
ひぐっ。でもぱふぱふはする……っ!
「隙アリ……!」
むにっ。
「やんっ」
クルルたんは……柔けぇな……。最高の感触だ。
ベシッ
すぐ坊に手ぇ叩き落とされたけど。
「えーと……あの、改めまして、ですけど。アートルム帝国に召喚された勇者さまと、あと……竜族……?の方が来てくださいましたので」
ダニエルが仕切り直して告げた通り、俺たちの前には2人の少年少女が腰掛けている。
ひとりは先ほど述べた通り、黒髪黒目の……異界の国特有の顔立ちの少年である。
そして隣には……黒く歪んだ角を生やした……赤い瞳の少女が座っている。
背中には竜の翼を隠し、後ろからは竜族に比べて小ぶりな赤い尻尾が伸び、太ももの傍らに沿って垂らしている……が。
「ダニエル、何言ってんだ。コイツ竜族じゃねぇぞ?全然違うじゃん」
「えぇ……っ!?どこがですか?」
「ほら、坊の角をよ~~く見てみな」
ついでに坊の頭をひっさびさぁ~~にぐしゃぐしゃ。うひょひょひょ……っ。俺の隣をとったことで油断してるであろう坊の頭をだなぁ……っ!これは一種の意趣返しなりいいぃぃっ!
「おい、やめろっつの」
ペチンと額に反撃を受けた。
「えーと……角の色……ですか?」
「違ぇ。黒い角の竜族くらい普通にいんだろ?」
「いや、見かけること自体が稀なので……え?違い……?」
「ほら、ダニエルちゃん。私たちの角には年輪……って呼ばれる、樹木の年輪みたいなのが刻まれているのよ。この輪っか状の模様ね。年上の竜はそれだけこの年輪が多いのだけど……」
クルルたんやっさしいなぁ。
そして優しく解説してくれるのめちゃまぶいんだけど。
「私たちの角の年輪って段にならずに列なってるのよ」
因みに俺とクルルたんの年輪の数は多めだが……坊は当然うんと年下なので年輪の数がそんなにない。
そして、目の前の少女は……。
「年輪の輪っか部分が段になってんじゃん」
「……あ、言われてみれば」
「あと、尻尾もちょっと違うでしょ?」
そうそう、抱き心地満点感なクルルたんの竜尻尾に比べて、目の前の少女の尻尾は細く、短い。
「じゃぁ彼女は……?」
「魔族」
「魔族!?」
「そうだったのか、ユリーカ!?」
何でおめぇまでびっくりしてんだよ、召喚勇者のガキ。
「そ……そうよ……悪い?」
「そんな……悪いだなんて……人間はみな、生まれた時は善だって何かで習いました……っ!」
いや、何それよく分かんねぇんだけど、知らねぇけど。
「魔族だから悪いだなんて決め付けるなんて、間違ってる……!」
召喚勇者が魔族の少女……ユリーカの手を握り、熱い眼差しで見つめる。
「タイヨウ……っ!」
どうやら召喚勇者の名前は【タイヨウ】らしい。
「あー、でもロイさん?魔族って、アリなんですか?ヒト族竜族エルフ、獣人、稀少種族もどんとこい多種族国家ドラゴニアだってのはもう充分分かりましたけど……魔族、オッケーなんですか……?魔王の出身種族ですよね?勇者って魔王討伐しますよね?」
「気が向いたら殴っけど――――……」
「コラ、ロイ……っ!アンタね!お父さまを殴ったら承知しないわよ……!」
「あの、さらにユリーカちゃんの口から衝撃発言が飛び出しましたが……」
「別に魔族の出入国を禁じる法はねぇよ。今まで表向きには入って来なかっただけで」
と、坊。因みにその言葉は秘密裏にはアリってことだ。
「だよなぁ……?国境接してねぇし」
だが堂々と入ってきてはいけないわけじゃない。
「いや……まぁドラゴニアってそうですよね。むしろ魔族の国はアートルム帝国とフローライト王国……はもうないのでアートルム帝国の隣国ですね……?まぁ、海は挟みますが」
だから国境線は海の上にある……が、魔王国領に入ると明らかに海域が変わるからよく分かるようになっている。
「でも……だとしたら何でロイさん……ユリーカちゃんと知り合いっぽいんですか?竜族って滅多にドラゴニアを出ないはずでは……?旧フローライト領には訳あって赴きましたが」
「いや……それはな……?魔王国のそのまたさらに先に用事あったし」
むしろ坊に無理矢理お使いに行かされたんだよ。ほんと人使い粗ぇわ。しかもそこで現地の女勇者に追いかけられるし。
「必要ならアートルム帝国にも行くぞ。両国間の許可が取れれば、例外的に一度行った場所ならロイは転移できる」
「なんなら空間ごと穴あけますからねぇ……」
因みに転移は遠距離、空間裂傷は近距離か直線距離に向いてる。
あと転移は行ったことがなければ出来ないが、空間裂傷は行ったことがなくても距離と方角が分かれば使える。
「だからって……」
「いいじゃねぇか。そのお陰でメイコさんのうまい飯も食える……!」
「あぁ、メイコさんの異国料理の材料の仕入先!」
「どーしてもここいらじゃぁ手に入らん食材もあんだよな」
「そうそう、そう言うこと。そして取りに行かされるのは俺」
そうこう言っていれば、早速メイコさんが料理の盛られた皿を持ってきてくれる。
「はい、どうぞ。せっかく陛下が来られたんですもの!おいしく召し上がってくださいな」
「おー、サンキューな」
とても国王と一国民のやり取りには見えないが……それを言えば織れも竜族の王子とだし……むしろ坊より立場上だし……まぁいいか。
メイコさんが並べた料理を見て、坊はご機嫌そうに箸をつけるが……、その時タイヨウが目を見開く。
「え……っ、ここってなんちゃってヨーロッパじゃないんですか……!?何で和食があるんですか!?」
「なん……よーろぴ……?何それ」
「気にすんな、ロイ。ごく普通に各国にラブホがある時点で結構違ぇから」




