竜王子祭
――――今日ほど、気だるい日はないと言うもの。
うん、だからこそついつい漏れ出る。
「あ――――……だりぃ……」
「ちょっと、一応アンタの祭りなんだから……!レックス竜王子祭!」
「一応で悪かったな。つーか、何でお前までいんだよ。今日は愛しいクルルたんと、ガキどもたちと来たんだが……あと、ついでにダニエル」
「ついでにしないでくれますー?」
「いいじゃない!その……アリシアちゃんとは聖女として、仲良くなったんだから……!」
シェリーがハルトと手を繋いでいるアリシアの隣にしれっと立つ。
「おーい、アリシア。ウザかったら言えよ?コイツひとり置き去りにするから」
「え……と、ロイさま……!あの……シェリーさんは、優しい方です……!」
「ほ、ほら!アリシアちゃんだって分かってるんだから……!」
「……ふーん……」
「何その全く信用してないような目は……っ!」
「まぁまぁいいじゃない。メイコちゃんも、2人は仲良くやってるって言ってたし……今日はダーリンのためのお祭りを楽しみましょ?」
「わーん、クルルたん、相変わらずまぶかわいい~~っ!」
クルルたんは俺の女神~~っ!
「はぁ……ほんと……何でアンタの生誕祭なんてあるんだろ」
「別に……俺個人へのじゃねぇだろ……慣例として、祭りやってるだけなんだから。みんなうまいもん食って、グッズやらなんやら買って楽しむのが目的なの」
「じゃぁ、お小遣いちょうだい!」
「んぁ?ジジイにもらってねぇのかよ」
「い、いいじゃない!誕生祭くらい奢んなさいよ……!」
「いや……普通逆じゃねぇの……?あぁ、アリシアとハルトには買ってやる。うちのコだかんな~~」
「ちょ、ずるい~~っ!」
「おめぇ年上だろうが」
「アンタ私の10倍じゃないのよ」
いや、そもそもこれは形だけでも俺の生誕祭だろ?何で自分の生誕祭で、生意気小娘に金出さなきゃなんねぇんだ。
「わぁったよ……ちょっとだけだぞ」
「やたーっ!」
「ロイさんも意外と優しいんですね~~。いつもは金にがめついのに」
「あら、ダニエルちゃん。あれでも嬉しいのよ。お祭り」
「わっ、ツンデレですか?いや……ツンではないですかね。クズデレ」
「いや、おい。何縁起でもねぇ造語作り出してんだ。お前らも早く行くぞ」
「はーい」
「美味しいものたくさん食べましょうね、ダーリン!」
「ん……そうだな」
このドラゴニア王国で10年周期で行われる祭り。時代にもよるが、今の竜王の子は俺だけだから、竜王と俺のための祭りが開かれる。
10年周期の竜王の生誕祭の3年後毎に行われる……竜王子生誕祭。
所々から聞こえる「レックス・ドラゴニアの誕生を祝して」と言う乾杯の音頭。大半は祭りを楽しみたいだけだ。あと、国中で行われるものの、王都なら国が、自治区なら竜王が、各地は領主たちが予算を出して大々的に執り行われる。
毎年行われる竜神祭や坊の在位を祝う祭りや建国祭などもあるが……やはり10年に一度と言うのは特別なのか……盛り上がる。
「ふっふっふ~~!見なさいロイ!」
「んだよ。言っとくが酒はダメだぞ」
「心配しなくてもいいわよ。ドラゴンジュースよ。アリシアちゃんとハルトはきっと初めてでしょ?あれ買ってよ」
「……まぁいいけど」
露店で電子マネーにて支払いを済ませれば……
「ロイさん、レックス・ドラゴニアの誕生を祝して」
露店には冒険者が店番してることもある。街の人が出店してることもあるが、冒険者ギルドも街の一部として商人たちと共同で祭りの委員会を勤めていたりするのだ。
「ほう?本人に言うたぁいい度胸だ。俺の誕生を祝してしごいてやろうか?」
「いや、勘弁してください、ロイさん」
そしてジュースコップを受け取ったシェリーたちが乾杯の音頭を取る。
「レックス・ドラゴニアの誕生を祝して!」
「えっと……レックス・ドラゴニアの誕生を、祝して!」
「祝して!」
シェリーに続いてハルトとアリシアまで。
「シェリーちゃんが自発的に言うなんて……!」
ダニエルお前、驚きすぎ。
「だってダニエル。ロイのことはいけすかないけど……これでもSS級冒険者の勇者よ?武勲や守護の恩恵にあやかるためにも使われるの。これはあくまでも、ロイの生誕を祝うんじゃなくて、恩恵を受けるため!」
「お前もそうとうがめつくね?」
それだけ持ってこうとするたぁ。
「いいじゃない。普段は……その、言いたくないけど。でも10年に一度のお祭りなんだから、お祭りの時くらいは言わせなさいよ!」
「いや、わけわかんねぇ。絶対祝うかって合言葉決めたの誰だよおめぇ」
「それは……その、生誕祭以外の年の普段の話よ」
「いや、普段言われても困るんだが」
「仕方ないじゃない……!10年前、私まだ5歳よ?その……幼かったからあんまり覚えてないのよ。だから……レックス・ドラゴニアの誕生を祝して」
「はぁ……」
「あの……ところでさっき気になる言葉を聞いたんですけど」
「何だよダニエル」
俺たちもフードを買い、俺の分はクルルたんがあ~~んしてくれる。うん、クルルたんのあーんで100倍美味しい。
「ロイさんって……SS級だったんですか?」
「最初に言っただろ」
「いつぅっ!?」
「つーか、調書。調書ちゃんと見ろよ。むしろ神殿の調書ほんとに大丈夫か」
「いや、あの調書そもそもロイさんの本名載ってませんでしたし。私もまだまだドラゴニア国民としては未熟者ですね」
「……ほう?じゃぁおめぇにひとつ、ドラゴニア王国至極の知識を授けてやろう」
「え、何です?知りたいです」
「じゃ、おめぇ。後ろ振り向いて、俺のこと呼んでみ?」
「はい?後ろ向きでですか?」
やっぱ知らねぇのか、ダニエルのやつ。シェリーなんて吹き掛けたな。
「あら、ロイったら」
「いいじゃねぇか。ドラゴニアジョークみたいなもんだろ?」
「まぁ確かに」
「えぇと……どういうことなんですか?」
「ほら、ダニエル。やってみなさいよ」
「シェリーちゃん、何か今、悪戯仕込む大神官長みたいな顔してますよ」
まぁ……孫娘だかんな。エルフって父娘でも兄妹みたいに見えることがあるから、似てると結構気が付くんだよな。……ジジイと孫娘でも。
「ダニエル、頑張って!」
「アリシアちゃんも応援してくれるなら、頑張りますね!」
アリシアも多分知らんだろうが、無邪気な応援が胸に染みるぜ。
そしてダニエルは後ろを振り返り、祭りの雑踏に向かい、叫ぶ。
「ローイさーんっ!!」
あんな大声で。そして次の瞬間。
くるっ
くるっ
くるっ
くわわっ!!
「ひいぃっ!いや、何で!?」
今10人に3人くらいのペースで振り返ったな。
「ハッハッハ――――ッ!!!」
「ちょぉー、ロイさん!?一体何なんですか!?」
ダニエルが再びこちらをみると、人違いかと散っていく者たちを見送りながら……。
クツクツと苦笑する。
「いいかー?ダニエル!」
「は、はいっ!?」
「レックス、レクス、普通にロイ、ロイド、この手の愛称が【ロイ】になるような名前はな……っ!この150年で一気に増えた……っ!!」
「えぇっ!?150年って……あ、ロイさんの年齢?」
「そう言うことだ。竜王子の名前にあやかって増えたんだよ。因みに竜王のグラディオス……ラディやらディオ系の愛称になるも不動の人気だな」
元々ドラゴニア王国のオーソドックス名だったのだが、同じ名前の竜王族が生まれると増える傾向にある。
「マジですか……!?わぁ……すご……でもアンタ、品性下劣勇者じゃないですか」
「まぁそれでも強いし武勲の象徴みたいな感じなのよね」
クルルたんは俺のイイトコ分かってるもんねぇ~~!さすがは俺のクルルたんっ!
「大丈夫よ。あやかってるのは竜王子であって、この品性下劣勇者じゃないものね!」
言うなぁ、おい、シェリーめ。
「まぁ、その、考え方次第ですかね……?でもアンタ同名の国民のためにちょっとは品良く振る舞いなさいよ」
「それはだりぃ嫌――――」
「でも……」
「ん?」
「いざと言う時は頼りになりますから」
「特別に許してあげるわよ」
ダニエルはともかくシェリーはおめぇ上から目線だな?おい。……後でジジイにチクるぞ。
「あと……グッズ欲しい!グッズ」
「はぁ……?何の」
ドラゴニア王国の象徴……竜がモチーフのグッズやら飾り……あとは神殿のチャームなんかが売ってたと思うが。
「あ、あれ……!」
シェリーが指差したのは……。
「ありゃぁ……」
「え?あれはどういうものなんですか?」
ダニエルを初め、アリシアとハルトも知らないようだ。
「あれはロイの……竜王子を象徴する武勲や守護の御守りよ!」
クルルたんが告げた通り、あれは俺を象徴するものだ。
「お前アレ欲しいの?」
ぜってぇ毛嫌いするかと思えば。
「その……聖女ですもの……!守護の御守りが欲しいだけよ!」
「あぁ……なら」
「私も、欲しいです!」
「武勲の御守りもあるの?」
アリシアとハルトも興味あんの?
「まぁ、いいけど」
竜王子の御守りの場合は……。
「守護が盾、剣や槍、弓なんかは武勲の御守りだな」
エルフは弓の御守りも好むが……シェリーは盾の方か。アリシアにも盾。それからハルトには剣の御守りを買ってやる。
「ロイさんの聖剣と同じだ……!」
まぁこちらでは俺の聖剣の刀身は漆黒で知られてるから、御守りも自ずとそうなったんだよな。
「ありゃぁもうお前の聖剣だろ?」
ハルトの頭をぽふりと撫でてやれば。
「それでも、ロイさんからもらった聖剣です!」
「……ふぅん。ま、いいけど」
生誕祭も……10年に一度なら……。いいかもしれねぇな……。




