継承されるもの
「おっ待たせぇ~~、クッルルたぁ~~んっ!」
「あら、ロイ。聖剣は打ち直した中かしら?」
「そうそうそゆこと~~」
子どもたちと寛いで待っていたクルルたんの隣に腰をおろせば。
「俺も手伝ってきますね。ここはお願いします、兄さん」
「あぁ、リック」
ほら、リックも鍛冶に関しては目がねぇんだよ。特に聖剣は……ダリルが冒険者として駆け出したお陰で跡取りだかんな。ダリルは今では飯屋やってるし、リックも好きでやってるから別にいいが。
「そうだ、それ磨いてやろうか」
「いいんですか?ロイさん」
ハルトからペンダントを受け取れば。
「磨いてやんのか?珍しい」
「ダリルさんの言葉でロイさんのがめつさが際立ちますよね」
「失礼だなお前ら。待ち時間の有効活用だ……!」
「そうそう、お茶も追加で入れたから、みなさん召し上がって?」
「さすがはメイコさん。物語を正常な方向に戻してくれますね」
ダニエルの言葉はよく分からんが……。
「そう言えば……シェリーちゃんはまだフローライト王国にいるんですよね」
「あー……そういやそんなのもいたな」
「そんなのもってねぇ……」
「アイツも留学早々アレだが戻ってきてもらわねぇとな」
「やっぱりそうなるんですか?」
「……ん、そうだな。いろいろやらかしてきたからフローライト王国との関係もいろいろと、な……」
「そろそろ呼び出しかかるかもしれないわよ?」
「うっわー……それい~~や~~」
――――でも、そろそろあっちの処理も終わる頃だろうし……アートルムもアートルムで……準備は着々と進めているだろうからな……。
そうこうしつつ……
「ほら、終わった」
「ありがとう……!ロイさん……!」
ハルトにペンダントを返してやれば、さっそくアリシアと見せあっこしてらぁ。
「ロイさーん!」
「おう、ロイ、終わったぞ」
いろいろと話をしていれば、工房からリックと親父が顔を出す。
「早かったな」
「それほどのもんでもねぇよ。ほらよ」
親父が持たせてきた聖剣は……。相変わらずいい黒だ。
さて、直ったからには……。マジックボックスに手を突っ込み中を探れば……あぁ、あった。さっと取り出した黒い鞘もまた、俺の鱗を素材に組み込んである。そして磨きたての漆黒の刃を鞘に納めれば……。
「ほら、ハルト。これはお前にやる」
「へ……っ!?ロイさん!?」
びっくりしているハルトに聖剣を差し出せば、壊さないようにしているのか?慎重にそれを抱き締める。落としたとしてもびくともしないだろうが……。
「いや、ロイ……それは」
「別にいいだろ?親父。ハルトも勇者ならそのうち聖剣は持つだろうしな」
「……それは、そうだし。お前が目をかけてる勇者なら、安心だろう。新たに作ってやってもいいが……」
「俺、ロイさんの聖剣がいいです……!」
「ほう?分かってんじゃん。でもいたずらに振り回したりしたらげんこつな」
「お前容赦ないな……だが……最初は軽い子ども用からだろうなぁ……?そいつは大切にしろよ。何せこのがめつい勇者がモノを……それも聖剣をくれるなんて青天の霹靂だからな」
ダリルが呆れたように告げる。
「だいじに……します……!」
ハルトはにっこりと笑み、頷く。
――――はぁ……そんなところまで似るもんか……。
「へぇ……ロイさんったら……剣教えてあげるんですか?優しいんですね」
「何言ってんの、ダニエル。俺に軽い剣なんざ扱いにくい。折れるし面倒だ。ダリルにやらせるに決まってんじゃん……!」
「おーい……ロイ、お前な。俺だって店が……んまぁ空き時間に見てやるくらいはできるか……?リック、子ども用の剣は何か余ってないか?」
「今用意しますね、兄さん。あと、柄も合わせないと……聖剣はもう少し大きくなってからですが」
リックはそう言うといくつか子ども用の剣を持ちより、ハルトの手に合わせてさっそく柄の調整を行っている。
「……ロイさま」
ん?アリシアが俺の服を引っ張ってる……?
「お前も欲しいのか……?別にクルルたんみたいに強く美しい女神になりてぇんなら反対しねぇけど」
「あの……聖女の……お勉強がしたいです……!」
「……兄ちゃんと別れて神殿に行きてぇのか?」
「……それは……」
「聖女の勉強ってのはそう言うもんだ」
必要な家族や兄妹の時間すら強制的に奪う。
「……だが……おーい、ダニエル。お前は?」
「もう、当たり前じゃないですか!フローライト王国であんなに見てきたのに、神殿にあげるわけないじゃないですか!これでも勇者の担当神官を任された身ですから。アリシアちゃんは私が見ます。だから安心してください」
ダニエルがアリシアの傍らに腰を下ろし、その頭をぽふぽふと撫でる。
「ですから!これからもあの家に住みますからね!アリシアちゃんとハルトくんも!」
「それは好きにしな」
「……あぁ、そうそう、お前……やっぱ嬢ちゃんたちもあの家で預かるんだよな……?フローライト王国のことは大丈夫なのか?」
ダリルが心配そうに問うてくる。
「この俺さまが面倒見てやるんだぞ?どこの誰が反対すんだよ」
「ものっそい人任せだが!?まぁ、しかし……お前がそうするのも珍しいな」
「気が向いただけだ」
「ハルトの時もそう言っておらんかったか?」
「どうだかね」
親父にそう返せば、ちょうど子ども用の剣の調整を終えたらしい。
「ハルトも勇者だかんな……マジックボックスでも開設すっか……」
自分で身に付けるってのもあるが……勇者である以上、身に付けるスキルは充分にあるのだ。
剣を持って帰るのは大変だし、持っておくと何かと便利だ。
「ステータス、出してみ?」
「……ステータス」
ハルトがそう告げれば、半透明の画面が表示される。マジックボックスは個人のステータスに紐づけられるから、端末ではなくステータスなのだ。
「えっとぉ?」
ハルトのステータスからマジックボックスの開設を行えば。
「……もう、あるのか?」
しかしまだ開かれていないようだし、あのロドリゲスがご丁寧に開設してやるとも思えない。
「ハルト、触れてみ?お前が触れることで展開されるから」
「うん」
ハルトが恐る恐るマジックボックスに触れれば、その鍵は完全に解錠される。
しかし誰が鍵をかけたんだ……?しかしその疑問はすぐに分かった。この世界の文字ではない、模様のような文字。
【隼瀬 陽大】
……やっぱり、お前か。まさか残っているだなんて。そしてその名前は、ハルトによって解錠されたことで、ゆっくりとこの世界の文字に変化し、【リーンハルト】の名を映し出す。
「これでいい。剣はそこにしまっておけ」
「ここに……?」
「入れようと思えば入る」
「うん」
ハルトもそう念じたのか、聖剣と子ども用の剣がマジックボックスに吸収されていく。
「取り出す時は念じるか、ステータスからマジックボックスを開けば一覧が出るし、整理もできる。暇な時にいじって慣れときな」
「うん、ロイさん」
「よし、マジックボックスはこれでいいな。そろそろ帰るか」
「えぇ、また来てくださいね。剣も定期的にメンテが必要ですからね」
「あぁ。ロイは滅多に来ねぇが、剣に心配事があるならダリルに連れてきてもらえよ。ダリルならメンテの周期も分かってるだろうしな」
リックと親父も勇者のハルトには……相変わらず甘いな。やはり重なりあう部分もあるんだろうけど。
そして工房を出て、さて帰ろうと言うところで……まさかの事態が起こった。
「ロイ……っ!」
「げぇ……っ」
聞きたくなかった声を聞いて思わずそんな声が漏れ出た。




