漆黒の聖剣
――――王都・商業区
「ここら辺は久々だなぁ」
「そうねぇ。最近はラブホばかりだったものねぇ」
「あぁ、思い出したらまた、ムラムラしてきた……っ」
「あん……っ、ダメよ、ロイったら!こんなところで……っ!」
「あの、開始そうそうに品の欠片もない会話やめてくれませんか?」
「うん、さすがに俺もそう思うぞ。子どもたちいるし」
「せっかくいい雰囲気になってただろうに、ダニエル!ダリル!俺のアソコが一気に萎れたわっ!」
「それはいっそのことその方がいい気がするぞ」
「同じくー」
「でも……アリシアちゃんとハルトくんなら、メイコさんにおやつ買ってもらってるから平気よ?」
あ、本当だ。
「なら、見てない隙に……!」
「いや、ここ公衆の往来だかんな!?とっとと行くぞ!親父たちも待ってるんだからな!?」
「……ったく、ダリルはせっかちだなぁ~~。そう言えば、鍛冶屋にも行くんだったか」
「それが本題だぞ、ロイ」
※※※
「おーい、親父、リック。来たぞー」
ダリルに続いて訪れたのは、商業区の一郭にある鍛冶屋である。
「あぁ、兄さん。いらっしゃい」
鍛冶屋の中から現れたのは、一見すれば鍛冶職人には見えない温和そうな青年である。
そしてそのセリフの通り、ダリルの弟。ダリルに全く似ていない。
ほんと似ていない。
「おい、ロイ。何か失礼なこと思ってないか?」
「は?そんなの毎回思ってるに決まってる!」
「決まってんのか、コラッ」
ゴツンとダリルのげんこつが落ちるが。
「ってぇ、竜の角出たらどうすんだよ」
「いっそのことその方が勇者の仕事も捗るんじゃないのか?」
「あ、その手がありましたか!」
「ダリルもダニエルもやめろよ……!確かに戦闘本能もあがるが……ベッド上の捌きも上がるのだ!俺ぁ迷わずクルルたんとのベッドインを選ぶ!」
「まぁっ!」
「ロイさん。またあなたは相変わらず……。今日は何故かお子さん連れみたいですが……まさかクルルさんが産ん……っ」
リックが驚愕の表情を見せる。
「何言ってんだおめぇは」
「だって、クルルさんとロイさんならあり得なくもないじゃないですか……隠し子がいても……!」
まぁ、竜族は長命種だかんな。
「あ――――……、その、リック。この子たちは訳あって今ロイの家にいるが……詳しくは中で話すよ」
「そうでした……!兄さん。父さんは工房にいますから。どうぞ中へ」
そしてリックに連れられて工房の奥に進めば……。
「おう、いたいた、親父!」
「父さん、兄さんとロイさんたちが来たよ」
ダリル兄弟が呼べば、鍛冶屋の親父……つまりこの兄弟の父親が作業から顔を上げて立ち上がる。
「おう、ダリルにロイ。今日はメイコちゃんとクルルちゃんまでいるのか?しかも新顔に子どもまで……」
「いいのいいの。とりま、これな」
マジックボックスから黒い刀身の聖剣を抜き取る。
「歯こぼれしたから、直せ」
「ぎゃ――――――――っ!!?」
親父が絶叫した。
「おんま……っ、またか!?」
「んー、そだなー。でも今までにしちゃぁましだろ?さっすが素材が違うかんなぁ」
「あぁ……代々の聖剣職人の最高傑作が……」
まぁ俺が直々に素材を分けてやった特製だかんな……!
「だが折れてはいない」
「たりめぇじゃん」
「でも何たって歯こぼれなんて生易しい……さすがにブレスじゃねぇんだろ?」
「んー、あれはさすがにな。竜鉄鋼じゃなきゃムリだ」
時には竜の鱗をも破壊するもんだからな。
「じゃぁどうして……」
「聖剣折った」
「聖剣ってお前……まさか……ハルトの聖剣か」
「……はると?」
その名にリーンハルトが顔を上げる。
「あぁ、俺の知り合いの勇者の名だ。そういや、お前とお揃いだったな」
ぽすんとリーンハルトの頭を撫でる。
「妙な縁だな……お前とクルルちゃんの子か……!ハルトとつけるたぁ……」
「いや、あなたもですか、違いますよ!?」
と、すかさずダニエル。
「そういや神官の兄ちゃん……新顔だな。そっちの嬢ちゃんも」
「ロイさんの担当神官のダニエルです。こちらは聖女のアリシアちゃん、リーンハルトくんは勇者で、アリシアちゃんのお兄ちゃんですね」
「……こんな子どもなのにか……?神殿ってやつぁ、またこんな子どもを親元から引き剥がしやがる!」
「いや、今回はフローライトの神殿の仕業で、ドラゴニアの神殿はノータッチですよ」
「フローライトから来たのか……?何たってわざわざ……親元には……」
親父が言った途端、アリシアとリーンハルトの顔色が暗くなる。
「……何となく分かったよ。あの国にゃぁ……あの男がいる」
「そうそう。でも、聖剣は叩き折ったし、本来あるべき場所へ……アートルムの聖女に送ったよ」
「そうか……ロイ……迷惑かけたな」
「別に。気が乗っただけだ。ほら、これ素材」
親父に打ち直しするための素材を手渡す。
「ロイさん、なんですか?その黒いピカピカの……鱗みたい」
「あ?俺の鱗だっつの」
「ろ、ロイさんの竜族モードの時の!?」
「そうそう。竜族の鱗だかんな~~!そりゃぁもう頑丈のなんの。並みの聖剣は手も足も出ねぇよ」
「まぁ、実際折りましたからね~。でも……気が乗ったってことは、お仕事を受けたんですか?ロイさんが珍しい……」
「あー……、それはな……俺たち父子は……昔、フローライトに住んでたんだよ」
と、ダリルが口を開く。
「えぇっ!?ダリルさんたち、フローライト王国民だったんですか?」
「ダニエルちゃんもそうよね」
「そうですけど、クルルさん。今はもうドラゴニア王国民です」
「……お前さんもなのか……?そういやその見事な銀髪に青い瞳……」
「いえ……もう国籍も変えて縁もゆかりもないので」
ダニエルはそっと顔を背けたが……やはりフローライト王国で聖剣職人をやっていた親父だ。あっちの教皇の顔は知ってたか。
「そうそう。実は教皇の知られざる秘密を知ってだなぁ……?」
「いいですロイさん!それはいいですから……!今はダリルさんたちに何があったかを知りたいです!」
「んー……んじゃぁクルルたん、メイコさん、ちびどもそっちで見てて。リック」
「はい。皆さんはこちらへ。お茶菓子お出ししますよ」
「ロイさまは?」
「いいのよ。ロイたちはオトナのお話があるの」
「分かった、あんなことやこんなことのお話……!」
「あら……っ!」
和やかに工房を後にするクルルたんの今の驚いた顔……かわいいな……!
「……ロイさん、アンタ。違いますよ、多分ですけどソコじゃないです……!子どもの方が察してるって何なんですか、違う話ですけど」
「アリシアは……賢いな」
「そこは賢くならなくていいです。あとそう言う話じゃないでしょ」
「そうだな……俺たちはフローライト王国で暮らしていた。代々うちの家系は聖剣職人の技を受け継いできた。そんでもって勇者の聖剣もこしらえてきたんだが……」
ダリルが何かを諦めたように語り出す。
「十中八九アンタのせいですよね?」
「まぁいつものことだ、お前も諦めろ、ダニエル」
「ダリルさん――――――っ!?」
「そんで、話の続きだが」
「……うぅ……諦めるべきなのか……いやでも……。まずはお話の続きですよね、はい。分かってます」
「親父はアートルム帝国の依頼で、アートルム帝国の召喚勇者・ハルトの聖剣を作ったんだ」
「アートルムの……そう言えば召喚勇者がいたんですよね、あの帝国。国交があまりないので私はよくしりませんけど……あれ、もう亡くなってる方では……?」
「そうだよ。声を大にしちゃぁ言えないが……」
「もういいんじゃねぇの?アイツの聖剣は折ってやったし、恐らくプライドも何もかもズタボロだろう?」
「まぁ十中八九アンタのせいでしょうが、でも今回はよくやったと思います」
「だろう?だからさ……もうみんな分かってるこった。ロドリゲスは、召喚勇者であるハルトの召喚されたことで受け取ったチートステータスに嫉妬して、ハルトを殺して聖剣を奪ったんだ」
「……やはり……ですよね」
ダニエルもそれは察してたみたいだな。
「そして奪った聖剣をさらに強化するために、ダリルたちの母親を殺して、ダリルたち兄弟を人質に親父に強化させた。さすがに俺の聖剣の素材なんて親父たちは普段持ってないし、ロドリゲスも黒い聖剣なんぞ邪道だと思っていた。だからありとあらゆる強化素材を加えて……な」
「何でそんなことが今まで表沙汰になってないんですか……!有り得ないでしょう!?」
「揉み消されたんだ。勇者の加護を理由にな。教皇だって知らない訳じゃねぇと思うぜ」
「……」
もう国籍も変えたとはいえ……ダニエルとしても複雑だろうな。
「まぁ、それで、親父は剣を打ち直したが……ロイの助けで秘密裏にフローライト王国を抜けて、ドラゴニア王国に亡命したってことだ。その後は聖剣職人であることは限られた連中しか知らず、この商業区でひっそりと鍛冶屋をしてる。ま、俺は冒険者になったが……」
「そうそ。まぁ報酬は聖剣のメンテってことにしてやったんだよ」
「そうだな……後は……あの聖剣を破壊し、あるべきところへ……アートルム帝国へ返還すると言う依頼だ。それが達成されたんなら……それで充分だ」
と、親父。まぁこの父子がドラゴニア王国にいることは、アートルム帝国のトップも把握している。知らぬはフローライト王国のみだったってことだな。
「あ……でも全然足りてねぇから、この聖剣のメンテは今後もしろよ?」
「……ほんとがめついな、アンタ」
ダニエルはそう言うが、親父だってリックだって、この漆黒の聖剣のメンテは大喜びでしてんだぜ?何せ世界にふたつとない最強の聖剣なんだから。




