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血塗られた聖剣


対峙する視線に緊張の色が混ざる。まぁ……俺にとっちゃぁこれくらいは慣れたもん。だてに長生きはしてねぇしな……?


「まさかこのような場所まで……。偶然ではあるまい……?」

ロドリゲスが腰に携えていた聖剣を抜く。つまり、ここを見られた以上は生かしてはおけねぇってことか……。

そして聖女であるアリシアでさえも、手にかけようとしている。その、訳は……。


「……ったりめぇだろ?これ、見覚えあんだろ?」

アリシアから受け取ったペンダントを見せれば、ロドリゲスは一瞬ハテナを浮かべるが、すぐにハッとした表情を見せる。


「それは……勇者リーンが持っていた……そのような色ではなかったはずだが」

勇者……リーン、ね。


「それって……お兄ちゃん?リーン()()()のこと……!?」

アリシアの口から出た名を聞いた瞬間、ロドリゲスがカッと目を見開く。


「なるほどねぇ……そう言うことか……」

分かっちゃったんだよなぁ……?コイツが恐れてること。やっぱり変わんねぇな。


「何が言いたい……!フローライトの新たな勇者は、リーンだ」


「でも、お兄ちゃんのことでしょ!?()()()お兄ちゃんだよ!」

「黙れ……!」


「ひっ」

アリシアが喉をひゅんと鳴らすが……。


「大丈夫よ、アリシアちゃん。ロイの方が強いもの」

すかさずクルルたんがフォローする。あぁ、クルルたんのそう言う優しいとこ大好き。……ラブホ行きたく……。


「ならないでくださいよ!?」

え、何で分かったんだダニエルうぅぅっ!?声に出してねぇぞ!?


「分かりやすすぎますよ、アンタ!」

……そうだろうか?ロドリゲスほどじゃねぇ気がするんだが。


「どいつもこいつも……この世界に生まれた勇者をバカにする……!」

「てめぇは何の話をしてんだよ」


「もう……どうでもよい!この場所を知ってしまった以上、生かしてはおけまい!私をバカにした貴様も、聖女も、お前の仲間たちもこの場で死ぬがいい!」

「ふぅん……?お前に俺がヤれんのか?」

アリシアを生かしておく気はないのは知っていた。アリシアが大神殿から逃げなかったら……いや、むしろ逃げたからこそ、どさくさに紛れて処分しようと思ったか……?

さすがに神に使える神官が神の加護を持つ聖女を始末しようとするわけがない。

聖女は貴重な存在。国にひとりいればそれでもありがたいと言うもの。

――――では同じ神の加護を受けた勇者はどうか……?


勇者は勇者でも……この男ならあり得るか。


「この世界の勇者の実力を、貴様に見せつけてくれよう……っ!」

俺だってこの世界の勇者なんだが……今のこの男には何を言っても届かないだろうな……。


「しゃぁねぇなぁ……特別にコイツで相手してやる」

マジックボックスから引き抜いたのは……。


「ロイさんの聖剣……っ!?……あれ、でも刀身が……真っ黒?」

「おうよ。紛れもなく聖剣だぜ?ただ折れるから素材変えさせただけだ」

金色の柄に鍔は聖剣のそれだが、刃だけは闇夜のごとく、暗い。でもこれはこれでいいと思うんだがな?ブレスそのものの媒介にするとどうしても折れるが。


「はんっ、勇者に到底相応しくない貴様らしい淀んだ聖剣だ。聖剣と呼ぶにもおぞましい色をしている」

「ハァ……?んな血にまみれた聖剣よりゃぁマシだろ」


「勇者の聖剣は歴戦の勝利の証!血にまみれていてどこがおかしい……!減らず口もここまでだ……!長年の屈辱を晴らす時が来た……!今日こそは貴様を……殺す……っ!!」

倒すではなく……殺す、ねぇ……。


「はあぁぁぁぁぁぁ……っ!!!」

ロドリゲスが聖剣に風を纏わせながら突っ込んでくる。


「馬鹿馬鹿しい」


バキン…………ッ


甲高く虚しい音が響く……。


カラン、カラン……と、砕けて冷たい地面に転がったのは、バキリと折れた刃。


「な……何故……」


パックリと折れた聖剣を未だに握りながら、ロドリゲスが震えている。


「これは……最高の聖剣のはずだ……っ!聖剣職人に、打たせて、仕上げさせた……っ!私の聖剣……っ!」


「てめぇのじゃねぇだろ」


「……っ」


「俺が何も気付いてねぇと思ってたのか?」


「何故……()()()は……気付いていて……何故……っ」


「言ったろ?俺は気が乗らねぇとヤんねぇの。てめぇは殺すことを選んだが……アイツらはそうじゃない。せめてもの()()()への手向けを望んだだけのこと。俺は気が乗ればそれを引き受ける。ただそんだけのことだよ」


「いつの……間に……っ!貴様、まさか聖剣職人を、隠していたな!?」


「はぁ?俺ぁ何もしてねぇよ。アイツらもお前じゃなくて、ドラゴニアを選んだってだけのこった」

「……何故……何故だ……っ。貴様は全て持っているのに……っ」

んまぁ、確かに?金、名声、美人のお嫁さん・クルルたんに、各ラブホチェーン店のVIPカード!!


「この世界の勇者だって……召喚勇者に勝てる……!魔王だって討伐できる……国の騎士の頂点にだって……っ!それを見せつけようとは思わないのか……!」


「んなことしてどうする。俺ぁ自堕落にテキトーに生活してラブホ通いできればいーの。騎士になんてなったら毎日仕事鍛練めんどくさいあとラブホ籠りできねぇだろうが……!ならば不定休、ラブホ籠りたいだけ籠れる冒険者最高……!!」

「アンタ冒険者何だと思ってんですかぁ――――――っ!」

後ろからダニエルのツッコミが聞こえてくるが……それがないなら冒険者なんてやってられっか……っ!!


「貴様のような勇者が……何故全てを手にするのだ……!あの時と変わらぬ老いない身体、永遠のごとき寿命……!」

「竜族だって、緩やかだが老いるし、寿命くらいはある。たとえ短命種だって、欲しいもんを手にしてる勇者も冒険者もいんだろ」


「では何故私には……っ、神の加護を持つ私には……何もない……っ!!」

コイツだって……魔王討伐に行くだけの実力はある……が。


「盗んだもんだからだろ」

「私は何も……っ、全て実力で勝ち取ってきた……!」


「召喚勇者もか……?」

「……っ」


「悪ぃが先を急ぐんでね。俺ぁお前と同じことをするのはやめておく。決めんのは加護を与えし神。あと単純に勇者殺すとめんどいことになる。その盗んだ聖剣は置いていけ。きっちり反省すんなら今度こそ……神の赦しを」

ニヤリ、と笑えば。

ロドリゲスの震える手が、残っていた剣の土台をカランとこぼれ落とす。


「貴様……神など、信仰しているのか……?」

「さぁ……?それは俺に加護を授けた神に問うてみりゃぁ教えてもらえんじゃねぇの?偉業を成し遂げた勇者には……神はひとつだけ、願いを叶えてくれるそうだぜ……?真偽は知らねぇけど」


「その権利を……貴様ごときに使えと……っ」

「……てこたぁ……お前はその権利を得ていないのか……さて。どうしてだろう?ひとりで頭冷やして来いよ」

ロドリゲスの頭に向けて、手をかざす。


「強制転移」

「ま……っ」


「もう待たねぇよ。俺ぁ散々待ったんだから」

ロドリゲスの姿はその場から、フッと消え失せた。


「え……?そのー、ロドリゲスさま……さま付けるべきかも怪しいんですが……どこ行っちゃったんですか?」

「んー、フローライト王国内の……どこか?飛ばし先は俺も知らねぇドキワク転移だ」

「……アンタ相変わらずえげつないことしますよねぇ……まぁ、あのロドリゲスさんもえげつないとは思いますが」

でも一応【さん】付けなところは真面目ちゃんだな。


「で、ダーリン、その聖剣どうするの?」

「クルルたーん!あのおっさんとのターン長すぎて、久々のクルルたんとの会話に喉が潤される……!」

「あん……っ、もう、ロイったら……っ!」


「いや、その、イチャイチャはあとにしてくださいよ。それとその砕けた聖剣は……」


「んー?あぁ、あれの送り先は決まってんだ。国際便だが、これは許可とってある」

砕けて真っ二つになった聖剣の成れの果てを拾い上げれば、小さな転移魔方陣を生じさせ、そのまま送り付ければ完了っと。


「どこに送ったんです?」

「ん……あぁ……アートルム帝国」


「は……?アートルム帝国うぅぅぅぅっ!?それ、えと、フローライト王国の敵国……あー、あれ?ドラゴニアとの関係は……」

アートルム帝国はドラゴニアからフローライトを挟んで向こう側にある国である。つまりフローライト王国にとっては、いつ隣から侵略してくるか分からない国だが、勇者ロドリゲスがいたため長年手を出して来なかった。


「あんま関係ねぇけど……」

たとえアートルム帝国がフローライト王国を手に入れたとしても、ドラゴニアには直接関係はない。なんせうちの国には竜族がいる。やつらは手を出してこない。フローライト王国の今後は知ったこっちゃない……まぁ、シェリーくらいは回収してこにゃならんが……さすがにあの帝国も聖女に手は出さない。ロドリゲスじゃねぇんだから。


そして……。


「この手土産送っておきゃぁ、ドラゴニアにも感謝してきて関係は良好になるんじゃねぇの?もともとあの聖剣は、アートルム帝国のもんだから」

「それって……」

ダニエルも先ほどの会話から、答えを導きだしたのか、押し黙る。


「さて、もう1人、勇者を迎えに行かなきゃぁなぁ」

「お兄ちゃん……!」

「そ。随分ときな臭いとこだが……お前はクルルたんたちと待っていいんだぞ」


「……行きます……!お兄ちゃんに会います……!」

「……」

どいつもこいつも聖女ってのは……。


「分かった。付いてこい」

「……っ、はい!」

さて、向かうか……。迎えに、な。




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