A woman who favours the Ransom.
かっこいいと憧れた人との再会ーー、新しい侍女が配属されたのはピーテルに襲われてから三日後だった。
「キャリリーでございます。本日より聖女さまのお世話を承ります」
動作のきびきびとした女性はかつて狩場番人だった。侍女らしくスカートを身につけている。アキがヒールを履いていたとしても優に越す背丈だが、腰を低くして挨拶してくれる。
「アキと申します。この度はありがとうございます、キャリリーさん」
一礼をして、笑顔を作った。
「おそばにいるよう命じられておりますが、もしや聖女さまのご希望でしたか」
「はい。私が指名しました。職場を移っていただくのは心苦しいですが、キャリリーさんのことは信頼できそうでしたので。お強そうですし」
「日中の護衛を、というお話でしたね」
「私も不本意な形で襲われたくはないので」
聖女の身に起こった話を簡略にして語るも、キャリリーの表情は凝り固まったように動かない。もともと感情が出ないほうなのか。
「先日、王家の森にいらした経緯は理解しました」
服がピーテルによって破かれていたため、ルアンはなだめてくれていただけ。もうそういったことを繰り返したくはない。
「私が聖女である間、長くて二年ほどになるでしょう。一時期のことと割り切って私の護衛となってくださいませんか?」
護衛となることはほとんど反論不可だっただろうが、もしアキからの説明を聞いて嫌だと言われれば狩場番人に戻すつもりではあった。彼女に納得して仕事に就いてほしかったから。
「銃を没収されないのであればわたくしは部署や役職の変更に異存はございません」
一般の使用人にはない、腰につけたベルトは幅が広いが、正面からは妙なところはなくきっちりと美しい制服姿だ。多少デザインが異なるが風紀を乱すほどのものではないというだけ。キャリリーは背面から短銃を取り出してみせた。森では銃身の長い猟銃だった。扱う銃の種類にこだわりはないらしい。
「では、どうぞよろしくお願いします」
「御身を預かるは誉れにございます。万が一わたくしに席を外してほしいときは遠慮なくおっしゃってくださいませ」
わかりました、とアキは頷く。離れてくれと命じることはないだろうが。
「なにかご指示はございますか」
「できたら、アキって名前を呼んでもらえませんか」
「それは……いえ、はい。アキさまとお呼びします」
絶対的上位の立場から頼まれて、無下にできなかったと見える。
「本当はさま付けでなく、呼び捨てにして欲しいんですけど」
「お仕えしている以上、敬称略はできかねます。わたくしには『さん』も不要です」
「不公平です……私もさん付け続けます」
侍女は二言目には「おおせのままに」と受け入れた。本心では不服なのか喜んでいるのか、堅苦しい顔はひとつも教えてくれない。でも、アキの味方でいてはくれそうだった。
「明日ルアンさんへ相談ごとに行きますが一緒に来てくれますか?」
「ついてまいります。ルアンさんとは良好な仲なのですね」
破れた衣服で王家の森の中にいたところを保護したのがルアンだった。アキと二人で立っている場面だけ切り取ればルアンが加害者だと勘違いされても仕方なかった。キャリリーは冷静に対処してくれたけれども。
「友達になれたら、とは思いますが……。とても親切にしてくださいます」
取り乱したアキを宥めて帰りを送り、翌日も相手をしてくれた。
「キャリリーさんとルアンさんは友人ですか?」
あの時いかにも被害者といった格好だったアキの横に立つ、ルアンの言葉を信じてキャリリーは構えていた武器を下ろした。
「王族に仕えるという括りで職場が同じ、というくらいで挨拶はしても深い話はしません。森に魔術の材料が豊富だそうで森へ入るための申請は頻繁に受けますし、真面目に働く方だとは存じてます」
キャリリーは就任初日からおしゃべりに興じてくれた。
言葉遣い。振る舞い。お茶のお点前。付け焼き刃ではない。胆力もある。銃の扱いは一般的な手習いでないだろうから、キャリリーは規格外のお嬢さまなのかもしれない。
その日は業務をそつなくこなしてキャリリーは夕方に部屋から下がった。
A woman who favours the Ransom.
(聖女の味方をする女性。)