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Are we on the same page?

 アキを呼び捨てにするのだからルアンのことも敬称なしで呼べ、と押し切られたのはキスの直後だった。


「僕のほうが年下ですから、呼び捨てでいいんですよ」


 ぽかんとするアキ。


 彼にマリックの話をするときにアキの年齢が二十六だと教えたことはある。ルアンの年齢は気にしたこともなかった。顔つきも、精神年齢も同じくらいだと思い込んで尋ねたことはなかった。


「……私、ルアンの歳知らない」


 盲点だった、と頭を振る。もしも、うんと年下だったのなら。すでに終えてしまったキスを取り消したい気持ちになった。


「ふふ。僕の年齢はどうでもよかったんですね」


 夢の中にいるようにふわふわ笑っている。


「何歳ですか?」


「ふふ。年齢知らなくても恋してくれたってことですよね」


「ねぇ、何歳?」


 (つや)やかな頬に手を添えて、アキはルアンを覗き込む。彼は圧に屈しない。下から見上げているのではなおさら、脅しにはならなかった。


「ふふ。もっと僕に夢中になってください」


 年齢とか、肩書とか、外見も関係なく、好きになってしまった。だから、もしもを考えると身がすくむ。


「やだやだ怖い〜〜!」


「教えてほしかったらアキからキスしてください?」


 逃げないようにと腹を中心に体重を乗っけられた。


「キスしても許される年齢……?」


 寸前でためらうアキの唇を奪って、自己申告してきた。


「二十四です」


「よ、よかった……!」


 二十歳を過ぎての二歳差なんて誤差と言えよう。心置きなく抱きついた。


「僕が未成年だったらキスしてくれないんですか?」


「しません! 恐ろしい」


「ずいぶんはっきり答えるんですね」


「地球では未成年とのごにょごにょ……は反社会的行動とされているから。猥褻罪だから。でも、ルアンが未成年だったら……大人になるまで待ってたと思います」


「待たなくていいですよ、とっくに大人ですから」


 表面で触れるだけでは終わらないキスをした。


「それで、アキは僕のこと好きですか?」


 キスしてから訊くことではないですけど、と付け加える。「私のために言ってるならやめて」さらに「どんなふうに好きだというのか」などとさんざん(なじ)るような口の利き方をしてしまったあとで、反撃の質問が返ってきた。これに正直に答えられないのであれば、アキはルアンに思いを寄せる権利などない。


「す……好、き……です」


 逃れようもない状況で、アキは自白せざるをえなかった。


「いつから僕のこと意識してたんですか?」


「えっと、たぶん。たぶんなんですけど」


「はい」


「はじめて、か……って、言ってくれたとき……」


「聞こえなかったのでもう一度」


 上に乗ったまま、圧力をかけてくる。


「だから、かわ……いいって……」


「え? それは手を握ったときではないですよね」


 あれ? とアキは見上げる。思い出せたのは、目の色を変える魔術で遊んだときに筆で手の甲に魔術陣を描き合いっこしていたときだ。握るという表現よりも上に乗せたというべき弱い触れ合いではあるが、アキが「かわいい」と言われたのはその時点よりも前になる。ズボンを履いて外でベンチに座っていたときがそれだ。


「私がズボン履いていたときには、手を握ったりはしてないですけど……」


「いえ、僕がアキは異世界人だから眼鏡で顔の認識を歪めているのに、魔術が効いていないのではとなったときに、」


 目の前のご尊顔を彫刻だとか呼ばわったときだ。眼鏡をかけるルアンのよさをオタク語りしてしまった。


 ぺちんと音が鳴るほど強く両手で自分の目を隠す。


「ああああのときのことは忘れるお約束ですよ!」


 忘れてくれ、なんてお願いしていないけれど。己の気持ち悪い部分を晒してしまった恥ずかしさでなかったことにしたかった。


 ルアンに手首を掴まれて、目尻にキスを落とされる。アキの余計な思考と身動きが止まった。


「……それから聖女以外にも魔素の浄化をできないかという相談になって」


「あ、はい……。ああ」


 聖女だけに頼らない手段を探してます、と言ったルアンに応援してます! とその場の勢いで手を握ったのだった。


「さすがに初対面では言ってなかったと思うので……」


 悩みだしたルアンは記憶を辿っているようである。

 いったい、彼の中ではどの瞬間にアキを「かわいい」と感じたのか。


「初対面で思うはずないですよね。……ルアンこそいつから私のこと好きだったんですか?!」


「いやぁ。前からかわいいとは思ってたんですよ。楽しそうにインク作るの手伝ってくださったときにはすでに、だったかと」


「……へぅうえぇぇぇ?!」


 それは出会って二日目のことだった。完全に予想をはるかに外れた。


「はじめてアキを見たときからあなたのことが頭から離れなくて。キスをしたときにやっと、僕はアキのぜんぶがほしいんだと理解したんです」


 両思いになれてよかった、とルアンは額を合わせてきた。衝撃的な出会いで忘れ難いのは肯定するが、思った以上に彼は自分を女性として好いてくれている。アキは何も言うことができずにいた。





 好きになることは止められなかったけれど、思いを伝えてしまってよかったのだろうか。かろうじて好きと伝えただけで、これからどうなりたいのか、などは決めていない。なにより聖女の存在は期限付きなのだから。


「……将来的な話していいですか」


 ぎゅっとされてから、横に座り直した。


「ルアンは、私でいいんですか?」


「アキがいいです」


 答えは嬉しいけれど、気持ちを軽くはしなかった。むしろさらに凝縮する。


「……わかってます? 私、依代なんです。いつかはここからいなくなります」


 作り物の体に魂だけ入っている状態で、時が過ぎれば劣化する。失われるもの。魂を定着させても、世界の浄化を終えれば地球に帰されてしまう。猶予は二年。恋をするにはじゅうぶんでも、愛を交わすにはとうてい足りない。


 手を重ねつつも、ルアンの瞳は静かだった。


「僕が、アキの魂降ろしのために魔法陣を作ったんです。わかってます」


 濃い茶色の髪を空いた片手でいじる。


「どうすればいいのか調べています。必ず道はあります」


「私にもできることがあったらいいんですけど」


「普段通り過ごしていてください。殿下に見つからないように」


「王子がなにか?」


「僕は殿下に嫌われているので。それ以上のことは……いまはこの余韻に酔わせてください」


 体を味わうように抱きしめられる。声音は切なく耳朶を通して腹の底まで染みていく。


「アキこそ、いざとなればソイルスの世界で生きる覚悟してくださいね。依代の問題が解決したら、そのときは……」


 言葉の続きを待って、アキはこくりと喉を鳴らした。


「そのときは……?」


「楽しみにしててください。不安を感じる暇もないほど、そばにくっついていますから。朝も昼も夜も。『やっぱりなし』は聞きません」


 その台詞だけでくらくらしてしまう。アキだってルアンを男性として好きなのに、そばにいるだけで物足りるわけがないのだから。


Are we on the same page?

(わかってる?)


とっくに無自覚にあばたもえくぼ状態だったので当時「美形の眼鏡はご褒美」とオタク的興奮を見せるアキにもルアンは引いてなかったのです。

ヨカッタネお互い恋愛スキルゼロ(かつ異性から褒められ慣れてない)でダメージ通りやすくて。


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