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2-8-2

「おかしいな……神経に至るような傷もないはずなんだけど……」

と、人の薬指を弄り回した結果、首を捻る沖田さん。


まあ、傍目には木刀で長時間打ち合いをした名残の、摩擦で皮膚がズタズタになった、かさぶただらけの手でしかないだろう。


「それ、斎藤さんが首を落としてくれた天使に、奇妙な赤い鎌で斬られたんですけど、まあ嘘みたいな話、皮は切れずに、皮の内側だけを斬ることのできる、とんでもない鎌だったらしくて──。神経、綺麗に切断されちゃったので、きっともうそのままですねー」


事実をあっさりと告げただけ──なのだが、斎藤さんと沖田さんは何やら沈んだような、暗い表情になってしまった。


──おや。もしかして気にしてらっしゃる?


私自身は、むしろそれだけの怪我で、天使とアレスの猛攻を捌き切ったのだから、充分とすら思っているのだが、彼らにとってはそうでもないらしく。


言葉を失う彼らに、私は努めて明るく声を掛けた。


「ほらほら、年越しのお祝いなんですよ? 私が気にしていなければ、それで良いのです! 陰気臭い顔なんてせずに、景気よく飲みましょうよ!」


左手を『離せ』と言わんばかりにくいくいと引き、沖田さんが離したそれを引っ込める。


すると、斎藤さんも覗くものがなくなったからか、身体を引き、元の座布団へと戻った──のだが──。


──左右が、やたらと静かになってしまった。


怪我のことは伏せておけばよかった、と今更ながらに後悔する。


「あ、のー、皆さん明るく行きましょうよ? これくらいでは、私の戦闘能力に翳りはないんですから……」


左右をチラチラと交互に見返しながら、大根を齧る私の頭に、諌めるように沖田さんの手が一度軽く落ちた。


「誰もそんな心配はしてないよ」


「……はあ」


じゃあ楽しく飲みましょう、と言える雰囲気でもなくて。


困ったので、周囲を見回すと、ふいに斜め後ろの席にいた藤堂さんと目が合った。──刹那、藤堂さんの目が小さく輝く。


──何だろう、今『そうだ、コイツがいた』みたいな期待の目で見られた気がする。


「なーなー、安芸ィ〜。副局長に断られたんだけどさぁ〜」


「あ、やっぱりそういう系ですか……って、藤堂さん真っ赤ですよ!?」


どれだけ飲んだのか。真っ赤になった藤堂さんは潤んだ子犬のような瞳で、背後から四つん這いで寄ってくる。


「ああ、藤堂くんはお酒苦手だよ。お猪口一杯でそうなっちゃうね」


苦笑ではあるが、ようやく笑ってくれた沖田さんをチラリと見やり──私は、ほっとしながら、再び藤堂さんへと視線を戻した。


「よ。よーしよし……って、あれ? コレって子供、もしくは犬にする扱い……?」


藤堂さんの頭を両手で挟んで掻き回し──はたと、何やら扱い方を間違っているのでは、と気付く。


「んあ? 今お前、子供って言ったか?」


酔っていても、そこは変わらないらしく。


据わった目で見つめてくる藤堂さんの頭を、私は知らん顔をしながら搔い繰り続ける。


「な、何も言ってませんよー。ほーら、よしよし。で、何を断られたんですかぁ?」


「あ〜、それがさ〜、副局長、膝枕してくれねえの〜」


──は?


一瞬手がぴたりと止まった。


藤堂さんを膝枕する土方さんをうっかり想像しかけ──頭を振ってそれを掻き消す。


「そ…それは、難しいですね……」


私は仕方ないので、斎藤さんの膝を指差した。


「ほ、ほら、斎藤さんの膝なら空いてますよー」


私の誘導に、藤堂さんは何の躊躇いもなく、斎藤さんの膝にころりと転がる。


「うへ……」


何やら沖田さんから、引いたような声が上がるが、知らない。


斎藤さんは相変わらずの無表情だし、別に気にしていないのだろうから。


と、その時だった。


「よー、沖田、斎藤、安芸ー。飲んでるかー」


酒豪なのだろう、徳利を指で挟んで六本も持ちながらやって来た原田さんは、顔色一つ変わっていない。


「あれ!? 平助死んでるやん!」


原田さんは斎藤さんの膝枕でうつらうつらしている藤堂さんに驚きの声を上げる。


「さっき土方さんに膝枕を求めて、断られたようですよ……」


私の言葉に、原田さんは当然ながら頬を引き攣らせた。


「よりによって副局長に膝枕求めたんか……。まあ、怖いもの知らずなところは、平助の取り柄でもあるんやけどねー」


そんなことを呟きながら、徳利を一本直飲みし、一瞬で空にした原田さんは、斎藤さんの膝で転がる藤堂さんの肩を揺する。


「起きろ平助ー」


「るっせえ、山猿……」


──へ?


今、藤堂さんから、何かやたらと低い声で暴言が聞こえた──気がした。


「あ…の……、今……」


「あーあー、平助は怒り上戸なんよ……」


藤堂さんが怒り上戸ならば、原田さんは底抜け上戸か。


更に一本徳利を空け、原田さんは斎藤さんの膝から藤堂さんの肩を掴んで起こす。


「ほら、斎藤に迷惑掛けるんじゃない。膝なら貸してやっから」


「るせえよ、山猿の膝なんかノミだらけで寝てられるかってんだ」


──中々に、辛辣だ。


酒が入って原田さんに暴言を吐いている時に限り、なのだろうか、彼の声はやはり低い。


面白い、続きが気になる!


と思ったら星5つ、


つまらない……。


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