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2-7-2

名残惜しそうな斎藤さんの迷いを断ち切るように、その背をそっと押す。


彼の過保護は今に始まったことではないのだが、やはり何度見ても苦笑してしまう──。


彼らを送り出すと、ようやく自分の出撃の番となった。


「ええと、私は単身で出撃したので良いんだろうか……?」


今回は三番隊としての出撃ではないため、一人で発っても良いものか、視線を彷徨わせていると、整列した一番隊の先頭から、沖田さんの声が飛んでくる。


「アキリア。こっち──」


その声を無視する必要もないため、たたたっと沖田さんの許へと駆け寄り、私は己を呼んだ美丈夫の顔を見上げた。


「斎藤くんとは今回別行動だもんね、どうせなら一緒に行こっか」


一人ぼっちになった私を一番隊に紛れ込ませてくれた沖田さんは、ふいに目を瞬く。


「あれ? アキリア、キミ着込み忘れて……あ。何でも──」


途中で自己解決したのか、沖田さんは言葉を止めた。


自身の三割ほどの重さとなる鎖帷子が、私にとってはかなりの弊害になることを何となく察してくれたのだろう。どこぞの天才とは大違いだ。


「へっへー、さすが沖田さん、若いのに察しが良いですねえ。……重くて疲れたら私のとこ来てもいいですよ。護ってあげますから」


ニッと笑んでみせると、額へと指弾が飛んできた。


「誰に向かって物言ってるのさ……ほら、行くよ──」


歩き始めた沖田さんの横についた私は雪を踏みしめながら、池田屋へと向かう。


まあ、彼が本当に自分を頼るようなことになるとは思っていない。


巷で『猛者の剣』と呼ばれるその腕は本物なのだから──。


「しかしねぇ、この大一番でもまだ木刀担いでるとは……」


道中で、沖田さんがそんなことをポツリと零した。


「えへへ、こればかりは……」


まあ、傍目に見れば、かなり異様な光景だろう。


彼も、私が刀よりは、なまくらになることのない木刀の方を気に入っていることは、分かっているのだろうが……。





池田屋の近くの路地裏に辿り着くと、そこには既に近藤さんや土方さん、八番隊、十番隊の皆が到着していた。


「お。きたきた。これで全員揃ったなー」


平時と変わらぬ様子の藤堂さんは、後頭部で手を組み、呑気に身体を揺らしている。


まるで、これから茶屋にでも行くかのような気楽さだ、と私は少しだけ苦笑した。


「いいか、なるべく前線は俺達組長格で切る──。お前達は、まずは旅館の者を見つけ次第保護し、それから座敷へ来い」


土方さんが一番隊の平隊士へと小声でそう命令しているのを聞き流しながら、私は気持ちを落ち着けるように一度大きく深呼吸をする。


そして──。


原田さんが八番隊と十番隊で池田屋を二重に取り囲んだのを確認し──、私達は路地裏を飛び出した──。






池田屋の正面から乗り込んだ私達は、どよめく従業員を隊士達に保護させつつ、二階へ繋がる階段へと迅速に向かう。──と、運悪く、階段へと差し掛かったところで、丁度、階段を中ほどまで降りかかっていた浪士とばったり出会してしまった。


「ひいっ!?」


浪士は此方を見て、すぐに新撰組だと気付いたのだろう。彼は、ばっと踵を返す。


「待て!」


土方さんが怒鳴るが、勿論浪士が待つはずもなく。


このまま逃げられて、座敷にいる仲間に、私達が踏み込んで来たことを知らされるワケにはいかなかった。


──なるべく敵は座敷で叩きたい。


私は懐から、餞別にと南雲から譲られた短刀を取り出すと、素早くそれを浪士の後頭部へと投擲した。


空を斬り裂きながら一直線に飛ぶ短刀は、浪士の後頚へと深々と突き立ち──彼は重い音を立てながら、階段を転がり落ちてくる。


一階まで落ちた浪士の左胸に、沖田さんが無言で愛刀の菊一文字則宗を突き立て──、その死亡を確かなものとした。


恐らく沖田さんは、私の負わせた傷では、もうその浪士が生き長らえることはできないと踏んだのだろう。


短刀を回収した私は前を駆ける土方さん達の後を追い、階段を駆け上った──。





「御用改めである!」


鋭い声とともに、土方さんが座敷への出入口である襖を踏み破る。


横の座敷との襖を取り払った、広い座敷には三十名ほどの浪士達が集っており、皆一様に、こちらを驚愕の表情で振り返った。


集う浪士の誰からともなく「新撰組だ!」という声が上がる。



そして──すぐに座敷内は戦場と化した──。






「甘いッッ!」


刀を振り上げ斬り掛かってくる浪士が、その刀を振り下ろすよりも早く、その鳩尾(みぞおち)に木刀ルディスの先端をめり込ませる。


できる限り殺しはしないが、意識を失った浪士には念の為、四肢の骨を叩き折らせてもらう。


と、背後からまた一人、浪士が襲ってきた──のだが、彼は急に硬直すると、その肩口から銀の鋒を生やした。


「はい、大人しくしててね」


肩口を押さえてがくりと膝をついた浪士の背後に立っていたのは沖田さんだった。


私は膝をついた浪士へと駆け寄ると、ルディスの柄でこちらも四肢を叩き折り、意識を飛ばさせる。


一瞬視線を走らせ、辺りを見回す──と、襖から逃げ出す者や、二階の肘掛窓から逃げ出す者が続出していた。


──二重の陣を組んでいて正解ということか。


面白い、続きが気になる!


と思ったら星5つ、


つまらない……。


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