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2-7-1



十二月二十五日──。


その日の昼はずっと雪が降りしきり、視界まで白く染まるような、そんな天気だったのだが、夜にはそんな雪も止み、澄んだ夜空に冷たい星々が煌めいていた。



「最終確認だ。桂の行方はようとして掴めないが、奴が京にいる以上、かなりの数の浪士が集ってきていると見て、まず間違いない」


討ち入りは二十二時。


出撃前に、道場に集められた一から十番隊の隊士達は、床に正座し、近藤さんの隣に立つ土方さんの声に静かに耳を傾けていた。


「目標は池田屋、明保野亭、そして──四国屋だ。四国屋は外れの可能性が高いが……桂がいる以上、敢えて一度襲撃に失敗した四国屋に浪士達を集めていても、何もおかしくはない」


朗々と響く声に、私はふとアレスを思い出す。


──アレスは、その三箇所のどこかにいるんだろうか。


「当然、こちらの戦力は分散させねばなるまい。……明保野亭には二、四、七番隊。四国屋には三、五、六番隊──」


読み上げられるその振り分けは、何の規則性もないように思われるが──。


──なるほど。新撰組で最強と謳われる三角の組長、永倉さん、沖田さん、斎藤さんをそれぞれバラバラに配置している、ということか。


私は一人納得したように頷く。


「一番混戦が予想される池田屋には、一、八、十番隊と、俺と近藤さん……では足りんだろうからな。安芸は今作戦に限り、池田屋の討ち入りに加われ。外れの可能性が高い四国屋には尾形に井上、服部、斎藤がいるからな。戦力は充分だろう」


確かにその方が合理的ではあるだろう。


勿論異論はない。


「九番隊は分散して、各隊の情報共有に当たれ──」


九番隊は学問に長けた者の多い隊だ。


どの道、隊同士の連携を取るために、伝令係が必要であるならば、九番隊を伝令係にした方が良い、という判断だろう。


土方さんは「一度しか言わねえ、よく聞け」と、隊士達の視線を集める。


「明保野亭の斬り込みは永倉率いる二番隊がやれ。四、七番隊は明保野亭の外を二段構えで囲んで、なるべく逃走者を出すな。四国屋も同じだ。斬り込みは斎藤の三番隊が、周囲は五、六番隊で固めろ。もし外れなら、池田屋と明保野亭へ応援に向かえ──」


急に襲撃を掛けられたら、逃げ出そうとする者が多いだろう。


それを見越して、浪士達を逃がさないための二段構えの陣形のようだ。


──しかし、斬り込みが一隊しかいないとは。


一隊は多くて五番隊の二十人。三番隊や一番隊のように十人ほどしかいないところだってあるのだ。


浪士達を逃がすワケにはいかないとはいえ、斬り込みを担当する隊の、かなりの負傷者、戦死者が予想されるその配置には、物申したい気持ちがないワケでもないが──。


──今更議論している時間はない、か。


「池田屋は本命だ。斬り込みは俺と近藤さん、沖田率いる一番隊、それから安芸、藤堂。この面子で行く。原田は大変だろうが、藤堂が斬り込みに加わる分、外で討ち漏らしを叩く、八番隊の面倒も見てやってくれ──」


土方さんに八番隊を任された原田さんは床に正座したまま、静かに頷いた。


「いいか。浪士どもを斬り殺すことも許可はする。だが、方針はできる限り捕縛だ。では、行くぞ──」


音もなく立ち上がった土方さんに続くように、隊士達が一斉に素早く立ち上がる。


ぞろぞろと道場から出ていく隊士達に紛れ、私もその場を後にした。


そして──。


積もった雪を踏みしめ、門へと向かう──と、屯所に居残る、諸士調役兼監察方の隊士や、勘定方の隊士、国事探偵方の隊士などが少数、提灯を提げ、出撃する同志を見送りに来ていた。





当然、馬の嘶きなどが夜の町に響いて、浪士達を警戒させてはいけないため、徒歩での移動になる。


一番遠い明保野亭に向かう永倉さん率いる二番隊と四番隊、七番隊が静かに門を潜って出ていくのを──少しだけ沈んだ気持ちで見送った。


激戦が予想される以上、きっと帰って来られない者もいるのだろう。


新撰組という組織に所属する以上、仕方のないこと。


そう自分に言い聞かせ、頭を横に振る。


剣闘士であった頃は人との繋がりが希薄であったため──、


「久しく忘れてたな……こんな感情──」


胸に去来する虚しさのようなものに、懐かしさを覚えた。


全てを護り通すことはできなくても、それでも──。


「人三倍働いたら、他の隊士達の負担は減る──」


たとえ、どんな乱戦状態であろうとも。


誰よりも、敵を多く捕らえれば、味方の負担は減る。


そうすれば、命を落とさずに済む者もいるはずで──。


「……アキリア」


と、ふいに聞き慣れた声に背後から名前を呼ばれ、私は努めて明るく振り返る。


「次は四国屋の方々の出発ですね。斎藤さん……は、大丈夫だとは思いますけど、ご武運を」


そんな私の声に、斎藤さんは冷たい星明かりの下、顔を曇らせた。


「すまない……俺はお前を護るために、此処に入隊したのに……またお前の傍で戦うことが叶わない……」


本気で言っているのだろう、苦々しげな口調の彼に、私は白い息を吐きながら一度俯き──、


「じゃあ、代わりに三番隊の皆を、護ってあげてくださいね。私は大丈夫です。何と、山崎さんに叱られた後ですので、今回は無傷の帰還すら狙っているんですからね!」


ぱっと笑顔で顔を上げる。──と、星明かりのせいで若干青白い顔の斎藤さんの後方から、こちらへと駆けてくる、三番隊の隊士達の姿が目に映った。


「安芸さん。どうかお気を付けて! それと──斎藤さん、三番隊揃いました!」


斎藤さんの許へと辿り着いた隊士達は私へと挨拶をすると、斎藤さんへと出撃準備完了を告げた。


面白い、続きが気になる!


と思ったら星5つ、


つまらない……。


と思ったら星1つ、思ったままでもちろん大丈夫です!


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