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2-6-5

それから十分ほど。


「……なあ、何やってんの」


「何って……拷問です」


私は屯所から持ってきた筆を片手に、南雲の足裏をくすぐっていた。


「……バカなの、アンタ?」


こちょこちょと筆でくすぐり続けるのだが、南雲は僅かも笑う気配がない。


「必死で耐えるフリをしたって無駄ですよ。これの効果は私が遙か昔に、体験済みです」


「体験済みとは、そりゃご愁傷さまなこって」


くすぐられ続けるというのは実は結構な地獄である。


笑いすぎて腹は攣るし、笑い続けた結果、呼吸までできなくなるのだ。


昔、ご主人様に買われる前──本当にまだ自分が幼かった頃。寝る間もないほどにギッチリと組まれた様々な勉強に耐え兼ねて逃げ出した時に受けた、その拷問の苦しさは良く知っている。


「さあ、吐くのです!」


牢屋の中に正座し、足裏をくすぐり続けること三十分。


南雲は壁に背を持たせかけ、大いびきをかきはじめた。


「あ……あれれ?」


──まさか、本当に効果ない?


かといって、痛みを与えることが無駄だと分かっている以上、他の手段を試みる気にはなれず──。





それから何時間経っただろう。


「ふあ……って、何、まだやってたのアンタ?」


反対側の足裏をしつこくくすぐっていた私は、起きた南雲を睨みつけた。


「スッキリお目覚めしたところで、いい加減吐いて下さいませんかねえ! 私ココで何時間あなたをくすぐり続けていると思ってるんですか! いい加減、腕は引き攣るし、指は痛いし、大変なんですよ!」


自分でも思うのだが、それは立派な逆上である。


「あのさあ、方法変えれば?」


まさかの敵からダメ出しをされた私は、意固地になって筆を動かし続けた。


「うるさいですよ! 私に真剣に拷問させたら、これ以上は本当にえげつないことしかできないんですから!」


 苛立ちのままに、くわっと牙を剥く私に一度目を瞬かせた南雲は、


「なるほどなあ。それを平然とやるのが坊っちゃん。やらないのがアンタ、か」


 と、しきりに頷いている。


まあ、確かにアレスなら他者を甚振(いたぶ)るくらい、何とも思わずやってのけるだろう。


私ですらあまり何とも思わないのだから、同郷、同業者──の上に、性格まで破綻している彼がそれを厭うはずがないのだ。


「割と冗談でなく、私もやりますよ。……ただ、今回は対象があなただから、やらないだけ。私があなたをどれだけ酷な方法で、死ぬまで痛め付けたところで、絶対嘘を吐いてくるのが目に見えていますからね。あなたには痛み以外の拷問が要ると判断したまでです」


つん、とそっぽを向く私に、南雲は「よう分かっとるなあ」と感心した風で。


「でも、くすぐりは通用せんなあ? なら、次はどうするつもりだ?」


 真顔でそう言われてしまうと──困る。


「それが、痛め付け以外に、他に何も思い付かないから、こうしてくすぐり続けてるんじゃないですかぁ……。むしろほら、逆に何か良い方法思い付いてくれると助かるんですけど、何かないですかー?」


「え……、アホなの?」


 哀れみすら込めた目で見つめられ、私は少しばかり心が傷付いた。


そんな時だった──。


「はあ……あまりにもアホすぎて可哀想になってきたから、一つだけ、自白したるわ」


ふいに、南雲がそんなことをポロリと零したのだ──。


「え……!? 本当ですかぁ!」


 私は拷問官の立場であるはずなのに、ついうっかり、手放しで喜んでしまう。


「大抵のことは古高が自白するやろ。……それでもまだ足りん情報を聞きに来たらええわ」


「しかも、今じゃなくて良いんですか!?」


 それはこちらとしては、とても有難い話だった。


「じゃあ、私、ちょっと組長達と話し合って、また来ますね!」


いそいそと立ち上がる私に、南雲は手でしっしっ、と追い払うような動作を見せる。


「おうおう。なんなら帰って来んでええからな」


そんな声に、檻にしっかりと鍵を掛けた私は、


「また夜中に叩き起しに来てあげますよ。組長達が揃うのは夜も遅いですからね──」


と、少しだけ意地の悪い笑みで返したのだった──。






 その晩、といってもほぼ深夜だが、見廻りの隊も戻って来たところで、近藤さんは組長格を局長室に集めた。


私がそれを求めた──のではなく、丁度、古高の自白内容を伝えるとか何とかで、招集が掛かったのだ。



「以上、古高の自白により、浪士どもが来たる十二月二十五日に池田屋に集まり、会合を開くことが明らかとなった。ちなみに会合の内容は、御所に火を放ち、天子様を連れ去る計画という……まあ、此方からしてみれば、前代未聞の阿呆な計画についてだ──」


土方さんの言葉に、局長室に、組長達の息を飲む音、驚愕に身動ぎする衣擦れの音などが静かに響き渡る──中、斎藤さんだけが驚いた風もなく頷いた。


「……天子連れ去りのための会合、か」


「どうした、一?」


近藤さんの声に、両手をそれぞれ襦袢の、左右反対側の袖に入れた斎藤さんは表情を変えることなく、言葉を紡ぐ。


「世の流れが大きく変わりつつある……。俺の見立てでは、それはいずれ行われるだろうとは踏んでいたが、浪士側の準備が整うのは来年の……それも、梅雨頃から夏にかけての予想だった……」


そんな斎藤さんの言葉に、私は脳裏に蘇る声があった。


面白い、続きが気になる!


と思ったら星5つ、


つまらない……。


と思ったら星1つ、思ったままでもちろん大丈夫です!


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