幕間2-1
幕間 アレス
──ずるい。
僕は沸き上がる隊士達を冷たく見やりながら、内心でそうボヤく。
あちこちの隊士達から「やべえ、一瞬で二刀使いこなしたぞ! 斎藤さんといい安芸さんといい、三番隊の天才すげえな!」やら「逆手持ちで戦うとかめちゃくちゃカッコよくね!?」やら「大立ち回りの後でも綺麗だよなぁ」やらと、アキリアを讃える声が上がっている。
「ふん……」
……別に、アキリアなんて天才じゃない。……まあ、見てくれに関しては本人は筆頭剣闘士に入れる、程度にしか思っていないようだけど、アレ以上の者を見たことがない。それくらいには良い。そこだけは業腹だが認めるしかない。
臈長けた美貌も、欠片の無駄も無い薄い身体も、凛然とした鶴のような声も。僕には一切ないものだ。
でも、僕は知っている。アレは呪いそのものだ、と。アレを構成する全てが、人を油断させ、取り入り、憑き殺す──そんな破滅へと導くものだと、呑気な奴らは考えもしない。
まあ、僕には奴らが呪われようが毒されようが知ったことではないけれど、それよりも、何よりも──。
「ローマ帝国にいた頃、闘技場で二刀闘士と闘いになることも多かったし、アイツが二刀での闘いに慣れてるのは当然なのにさ──」
まるで初見で勝ちました。といった風な雰囲気を、アイツが場に持たせていることに腹が立った。
まあ、それにまんまと乗せられている呑気な観衆にも腹が立つけど。
『いやぁ、ホントに勝っちゃった。まさか二刀をああもあっさり使いこなすとはねえ』
ふいに聞こえた声に、吐き気にも似た不快が込み上げる。
少し離れた、境内の一角に集まった出場者の一団で、一番隊の沖田組長がそう面白そうに話しているのが耳に入った。
『武士というか……最早、大道芸人の域だなあ……』
沖田組長の声に反応する、感心したような近藤局長の声も聞こえてくる。
「大道芸人なんかじゃない。アイツはただの道化なのに……何でみんな、そんなに盛り上がってんのさ……」
──つまらない。実につまらない。
『服部くん。負けちゃいましたねえ』
『すみません尾形さん。まさか本当に二刀を……しかもあのように使ってくるとは』
アキリアなんかに負けた、五番隊の組長と、負け犬の言葉に心が苛立った。
──アンタ達さえしっかりやれば、アキリアに恥をかかせられたのに。
もう何も聞きたくはなかったが、どうしても耳が奴に関する言葉に反応してしまう。
それも──、
『おいおい、平助。なーにポカンとしてんだよ。もしかしてアレか、惚れたか?』
なんていう、自隊の組長の下らない話にまで、である。
『ふざけんな左之助。オレに変な趣味持たせんじゃねえ』
オレは慎ましやかな女が好きなの。と続ける藤堂組長に、一言だけ思う。
──まかり間違ってでも、変な趣味ででも良いから、アイツに惚れて、無理心中でもしてくんないかな。
悪趣味すぎて大笑いするだろうが……その時はきっと感謝もするから。
ふいに辺りに響く、落ち着いた、威厳のある声は松平容保公のもの。
アキリアが彼からお褒めの言葉を賜っているのを、ざらついた気持ちでじっと見つめる。
「見事であった。そなたの──宙を華麗に舞う姿に、京の五条大橋で武蔵坊弁慶を翻弄してみせたという、かの神童、牛若丸を見た思いであったぞ──」
──牛若丸が誰かは知らないが、アキリアと同じにされるなんて、その者に対する風評被害も良いところではないか?
「僕なら自害するね。あんな奴に、似ているなんて言われたら──」
ボソリと独りごちる声は誰に聞かれるでもなく、風が攫ってゆく。
全ての演目が終わり、締めくくりの言葉が松平容保公より述べられて、今回の上覧試合は終了となった。
引き上げていく隊士達を後目に、尚も腹の虫がおさまらず、イライラとしていると、
「あ。そーだ」
僕はふいに名案を閃いた──。
寺を出た後、僕はこっそりと屯所へと戻る隊士の群れから離れる。
そして僕は『とある店』に向かったのだった──。
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