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2-3-3

続く三戦目は言わずもがな。


最強の剣と呼ばれる永倉さんに平隊士が束になったところで敵うはずもなく。


二十人の隊士達を、それぞれの流派に合わせながら、死んだ目で捌いていく永倉さん。


永倉さんくらいになると、勝者が賜るお褒めの言葉にも、感謝の言葉こそは返せど、目は死んだままで。


──うん、平隊士の皆さん。お疲れ様でした。



四戦目は、原田さんと谷さんの槍術仕合い。


二人の実力はほぼ拮抗しているとのことなのだが、谷さんと原田さんは師弟関係にあるらしく。


言葉巧みに師匠である谷さんは原田さんを翻弄し、今回は谷さんの勝ちとなった──。


──最後はほぼ、互いの悪口の応酬……いや、白熱した舌戦だった気がするけど、まあ良いや。



五戦目は土方さん、藤堂さんの組み合わせだ。


見た目通りというか何と言うか。藤堂さんはガンガンと真っ直ぐに打ち込んでいく戦い方なのだが、土方さんは冷静に搦手(からめて)を使う戦い方をするようで。


長時間に渡る仕合いの末、全力で打ち込み続けた藤堂さんの体力が消耗しきったところで、土方さんの一撃が藤堂さんを捉えた──。すごい。



休憩を挟んでの六戦目は総長の山南さんと沖田さんの勝負だった。


「ゴメンね、山南くん。ボク今日調子良いから、一瞬で終わるかも」


そんな沖田さんの挑発に、かつて負ったらしい怪我から、左腕をだらりと垂れされた山南さんは右手で刀を構え、はは、と覇気のない笑みで返す。


そして──。


「ほ……本当に一瞬だった……」


踏み込みとともに、沖田さんが一瞬で山南さんの喉に刀の鋒をぴたりと当て、仕合いは終了した。


「ほう。アレが噂に聞く三段突きか」


自身の仕合いが終わったため、私の横にやって来て、他試合を観戦していた斎藤さんが無表情でそう呟く。


「凄かったですねえ」


足を一歩踏み込む間に、本当に神速の──三段の突きが相手を襲った。


山南さんは総長。総長は軍師のような立場であり、腕の立つ隊士ばかりが集められた一番隊を纏める沖田さんの実力の前に、後方で作戦を練ることの方が多い彼が敵うはずもなく。


──沖田さんと仕合う日がくる前に、あの三段突きとやらの対策を用意しておかねばなるまい。


相手が猛者の剣と呼ばれる剣豪であろうとも、私は負けるワケにはいかないのだ。


余談だが、その後、容保公は、沖田さんへは勝利者への褒め言葉を掛けるのではなく、持病持ち同士だからだろう、病の近況についての言葉を交わしていた──。頑張れ。



七戦目は井上さんと、鈴木さん。


井上さんは四十くらいの、真っ当にコツコツ努力を重ねて組長になったという、努力の人。


決して強くはないが、弱くもない。努力を重ねて平均以上に何でもできる、そんな人だそうだ。


問題は──。


「可哀想に、鈴木くん」


観覧席に戻ってきた沖田さんが苦笑いする。


「尾形さんみたいに代役を立てられれば良かったんだろうけど、九番隊だけは組長から平隊士まで、全員が学問に優れた者なんだよね……」


「あらら……」


案の定、鈴木さんは努力の人──井上さんに、簡単に一本取られてしまったのだった。



そして──。




「次は八戦目ですねえ」


私は観戦が楽しくてつい、己が出場することをきれいさっぱり忘れていた。


「いや、次キミだから……」


と、冷静に沖田さんに言われ、私は慌てて駆け出す。


私の相手──服部さんは既に位置についていた。





私達がやるのは剣術ではない。模擬戦だ。


相手から一本取れば勝ち、であることは変わらないのだが、そこに至る手段は何でも構わない。


ちなみに何故私が模擬戦出場になったかというと、私には流派がないからである。


まさかローマ流などと言うワケにもいかないので、異色の二刀流、という服部さんとの模擬戦が良いだろうと、仕合いを組んだ近藤さんが考慮してくれたらしい(沖田さん談)。


「三番隊副組長。お主の強さは知っている。だから手を抜かずにやらせてもらおう」


服部さんは三十代半ばくらいの、大柄な男だった。


かなり剛力なのだろう、肩の筋肉が羽織の上からでも丸く盛り上がっているのが見て取れる。


右手に本差の打刀を、左手に脇差の打刀をそれぞれ持った服部さんは私を威圧するように鋭い眼差しで睨んできた。


「ではではこちらも──」


私は笑顔で腰から二本差(にほんざし)していた、二振りの打刀を引き抜き──、それを逆手に持つと、眼前で横に構える。


と、服部さんが苦い表情でこちらへと苦言を呈してきた。


「これは遊びではないのだぞ。待ってやるからとっとと刀を一刀捨てよ。……二刀流はそんな『使ってみよう』くらいの感覚で使えるものではないわい」


「まあまあ、打ち合ってみれば良く分かりますよ──青二才さん──」


自信満々に頬に笑みを貼り付ける私が、全く引かないからだろう。


服部さんは「どちらが青二才だ」と言わんばかりに大きくため息を吐くと、


「二刀流の真の恐ろしさ、見せてやろう」


と、両の刀で風を斬った──。


アヴェ インペラトル(皇帝万歳、死にゆく) モリトゥリ(者達より) トゥ サルータント(敬意を捧げます)──」


捧げるは剣闘士として今日も忘れぬ、皇帝様への敬意と祈り──。



そして、仕合い開始の角笛の音とともに、先に攻撃を仕掛けてきたのは服部さんだった──。





「ぬんっ!」


右手の本差で力強く斬り込んできた彼の刃を左の刀で受け止める。


私があっさりと刃を受け止めたことに、服部さんは目を見開く──が、すぐに左手の脇差で、私の腹を狙ってきた。


だが、彼に左手の脇差があるのなら、私にだって右手の刀があるのだ。


鈍い音を立てながら、私は迫り来る白刃を受け止める。


「むうっ!? さてはお主、二刀を使ったことがあるな!?」


「大正解でーす、(ヒヨ)っ子くん」


私は刃を滑らせながら、後方へと引く。


私には刀を逆手で持っている、きちんとした理由があった。


片手ずつでは、彼のような屈強な者の斬撃は受け止めきれず、押し切られるのだが、私は刀を逆手で持つことによって、自身がその攻撃を受け流せるようにしている。


順手では純粋な握力と腕力だけが、降ってくる刃を受け止める要になるのだが、逆手であれば、腕で(みね)を支えることができるため、強力な一撃にだって耐えられるのだ。


だが、二刀闘士と対戦を組まれた時のために最低限、二刀を扱うことを叩き込まれた私であるが、別段それが得意というワケでもないので、相手に立ち回りを読まれる前に、早急に決着をつける必要があった。


私は利き手ではない右手に握った刀を、若干身体を捻りながら、身体ごと前方へと刃を押し付けるようにして斬り掛かる。


と、当然ながら、その一撃は服部さんの脇差に阻まれてしまった。


逆手持ちは攻撃する際に、刀身よりも自身の柄を握る手が相手に近付かねばならず、鍔迫(つばぜ)り合いにも当然ながら、動作が大きくなるために滅法弱い。


反撃には非常に有用である反面、攻撃にはとことん不向きであるため、防がれたところで特に何も思うことはないのだ。


「よし、間違いない。右だ──」


私が確認したかったのは──彼の利き手。


通常は、利き手に本差を、反対の手に脇差を持つことになるが、それを敢えて入れ替えていないかの確認だった。


──決めにいこう。


私は小さく後方へと飛び退る。


と、その後退を好機と取ったのだろう。服部さんは本差を振りかざし、一気に間合いを詰めてきていた。


だが──。


「掛かった──!!」


私が大きく後方へと下がらなかったのは、もう一度後方へと跳躍するため。


最初から全力で飛び退ってしまうと、二度目の動作はどうしても遅れてしまうのだ。


再び後方へと跳ねる私は、左の刀で、僅かに腕を捉えかけた刃の(きっさき)を滑らせるようにし──、


「よっと──」


鋒で自身の身体が捉えられなくなった瞬間に、彼の斬り込みの力を後押しするように、その刀を右手に握った刀の柄を立て、上から殴りつける。


「ぬっ──!?」


もちろんながら、地を斬ることとなった本差──の(みね)に、私はひょいと飛び乗った。


当然ながら、想定外の出来事に、目を瞠る服部さん。


刀越しに、彼が利き手で本差を振り回し、私を振り落とすか、脇差で峰に乗る私を斬るか逡巡するように、一瞬身体が強ばったのを見逃すはずもなく。


一瞬の逡巡の末、結局本差から振り落とす、という選択をした彼だが、その一瞬が命取りだった。


私は既に前方へと跳ねており、彼の肩に両手をついて、半月の弧を描くように彼の背後へと、背中合わせになるように着地し──、


「はい、取りました──」


私は逆手持ちの利点を最大に生かし、己の脇の下へと刀を素早く通して、己の羽織ごと服部さんの背を、軽くではあるが、突いたのだった──。


面白い、続きが気になる!


と思ったら星5つ、


つまらない……。


と思ったら星1つ、思ったままでもちろん大丈夫です!


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