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2-2-3

「はぁ!? 二十──」「──おっとぉ!」


素っ頓狂な声を上げかけた私は、急に口を原田さんに掌で塞がれる。


「がもっ!?」


何をするのだ、と原田さんの顔を目だけで見上げるも、彼は知らん顔で。


──と、ふいに、左隣から向けられる、並々ならぬ視線が肌に突き刺さった。


「安芸ぃ、お前、今何か言おうとしたかぁ?」


私は、そろり、とそちらへと目を向け──何故、原田さんが言葉を遮ったのかを瞬時に理解する。


──あ、これは間違いない。


藤堂さんは(こじ)らせてしまっている。


彼はどう見ても二十歳には見えない己の容姿に、かなりの劣等感を抱いているようで──。


彼の身長と可愛らしい容姿については口にしてはいけない。そんな不文律が隊内に存在したことを知らなかった私は、見事にそれを破ってしまったらしい。


瞬き一つしない、見開かれた混沌とした目でこちらへと藤堂さんは詰め寄ってきた。


「な……何もぉ?」


原田さんの手を引き剥がし、私は、恐怖の視線から逃れるべく、すっと斜め上へと視線を逸らす。


「本当の本当にか?」


「ホントモホント、ホントニデスヨォ──」


──まずい。微塵も声に心が籠らない。


これ、もしかして私、殺されてしまうのでは?


グッサグッサと突き刺さる視線に、そんなことを思った時だった──。


「原田様!」


明るく可愛らしい声とともに、たたっ、と駆けて来るのは、うら若い一人の町娘。


「お。今日も元気そうだな、まさ──」


まさ、という名なのだろう女性の許へと歩み寄って行った──雑踏の中の原田さんを眺めながら私は、助かった、と胸を撫で下ろす。


藤堂さんの意識が、そちらに逸れたのを肌で感じながら、私は話し込む二人を視界に収め──ほっとした気分で茶を啜った。


「仲……良さそうですねえ?」


「まーな。アイツら、そーいう関係だからなー」


こちらへと詰め寄るのをやめた藤堂さんは、悪い顔でそんな二人を見やりながら、咥えていた団子の串を回しながら齧る。


とうやら串に残った団子の欠片を剥がしているようだ。


「ふぅむ。見たところ、商家のお嬢様、って感じですし、良いじゃないですか原田さん」


──若くて、初々しいなあ。


良きかな良きかな、と私は生暖かい目で、楽しそうな若人二人を眺めやる。


我ながらジジくさい心境だとは思うが、実際のところ、見た目はどうあれ、私は一五〇〇歳を軽く超えているのだ。


その自覚があると、何故だろう、町を歩くご老人にすら「まだ若い」と思ってしまう自分が確かに、己の(うち)のどこかにいた。


──あ、そうだ。


私は原田さんの分の皿から団子を二本強奪すると、一本を藤堂さんに手渡した。


幸せのお裾分けを少しくらいもらってもバチは当たらないだろう。


「藤堂さんにも誰かそんな人がいるんで……あ、いえ、なんでも──」


──いくら顔が良くても、見た目が子供なのだ。


言い寄ってくれる人は後十年は見つからないに違いない。


「おい、安芸。お前今何考えてる。コッチ見やがれ──」


咄嗟に口を噤んだのだが、失礼なことを考えているのが顔に出ていたのだろう。


私はそっぽを向いて、口笛を吹く。


と──。


「人殺しだ! 人殺しィ!」


一人の男の声に、にわかに町中が騒がしくなった。


原田さんが即座に叫んでいる男の許へと駆け出すのを視界の端に収めながら、私達もすぐさま立ち上がり、そちらへと駆け寄る。


「オッサン! 場所はどこだ!」


原田さんの声に、男は、


「あっちだ! あっちの五条通りからすぐ入った路地で人が斬り殺されてる!」


と、一つの方向を指差した。







「これはまた、派手な太刀筋だな……」


目撃者の男性から情報を得た場所で、藤堂さんが町人だったのだろう屍の傍に片膝をついた。


私は藤堂さんの頭の上から、もう血の広がらない、胸から腹にかけて一文字に深く刻まれた屍の傷を見やり、眉を顰める。


──即死、か。


周囲にのたうち回ったような痕もないことから、そう判断する。


「あれ? 得物、落ちてるやん」


隣で屍を見下ろしていた原田さんがふいに落ちている凶器に気付き、路地の隅へと向かうと──すぐに打刀を拾い上げて戻ってきた。


と──。


「「うっわー、ないわー」」


その刀をまじまじと見つめ、原田さんと立ち上がった藤堂さんが同時にボヤく。


「ええ……と?」


──はい、私には何のことかさっぱり分かりません。


同じように刀を覗き込んでいるはずなのに、何となく置いて行かれたような気分になる。


「え。安芸お前コレ見て何も思わねえの!? ……もーちょい、きちんと勉強した方がいいんじゃねえか?」


藤堂さんにそんなことを言われてしまい、私は苦い顔をした。


──打刀の文化圏にいなかったもので。


内心そうは思いつつも、勉強不足であることは否めないため、その反論を口にすることはできず──。


「これ、めちゃくちゃ良い刀なのに、一太刀でなまくらに変えてやがるんだよ」


苦い顔のまま黙りこくった私に、藤堂さんが説明をしてくれた。


その顔には、こちらを馬鹿にしたような感じも、蔑むような感じも見られない。


「こりゃもう打ち直さないと使えねえな……」


勿体なさそうに原田さんが呟く。


そう聞いてから、改めて刀を見ても……やはり、よく分からなくて。


──打刀って、難しい。


私は刀のことを頭から追い出し、他を調べることにした。


面白い、続きが気になる!


と思ったら星5つ、


つまらない……。


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