2-2-1
二
天使に死の宣告をされてから二日──十二月六日。
「お。いたいた、安芸。出掛けるぞー」
ふいに名前を呼ばれ、廊下を歩いていた私はくるりと背後を振り向く。
「えーと、原田さん……と、ああ、藤堂さん」
こちらへと歩いて来ていたのは、十番隊組長 原田左之助と、八番隊組長 藤堂平助だった。
原田さんは扇状に大きく広がる癖毛の黒髪を膝ほどまで伸ばした、頬や腕に大きな古傷を持つ筋骨隆々の陽気な青年で、宝蔵院流槍術の免許皆伝の腕を持つ。
そして、藤堂さんは──まあ、こちらも原田さんと同じく陽気ではあるのだが……、
「そのまま見た目通りというか……」
栗色の大きな瞳に、瞳と同色のざんばら髪の彼はどう見てもまだ子供なのだし、陽気なくらいが丁度良いだろう。
藤堂さんは、背丈は私より少しだけ高いくらいの、かなり小柄な──武士としては恵まれていない体格なのだが、北辰一刀流の剣術をきちんと修めているらしい。
大柄な原田さんの隣にいる上に、彼の愛刀、上総介兼重は、彼の半身ほども長さがあるため、余計に彼が小さく、可愛らしく見えてしまう。
これから大人になるにつれて、どんどん大きく立派に成長していくのだろうけど……私としてはそのままの、親しみが持てる身長のままでいて欲しかったり、やっぱり大きくなって欲しかったり。……複雑だ。
一人、つらつらとそんなことを考える。
「お前んとこの組長からの伝言だ。ちょっと人手が必要で、八、十番隊の奴ら連れて行くけん、代わりに俺らと見廻り行ってこいってさ」
だいぶ矯正したのだろうが、どこか故郷の訛りの残る原田さんの言葉に、何故自分が名を呼ばれたのかは理解した。
「はあ、なるほど。これからそこの道場で弛んだ声を上げながら、打ち合いをしている隊士達に稽古をつけに行こうと思っていたところでしたが……、そういうことでしたら見廻り、行きましょうか」
見廻りは京の治安維持のための大切な隊務。
稽古よりは間違いなく優先度は高いだろう。
「ははっ! アイツら命拾いしたなー。オレのとこの隊士達が十二月に入った瞬間、復活したお前に稽古つけられて、泣き言と文句を言ってたからな。お前の稽古は『鬼畜の所業』だ、って」
腹を抱えて藤堂さんは陽気に笑っているが──私は苦虫を噛み潰したような顔になる。
──ほうほう。鬼畜の所業、と。
「誰かは知らないけど、八番隊隊士、か……」
今度、八番隊隊士達に稽古をつける時はもっと厳しくするとしよう。
人のいないところで悪口を言う方が悪いのである。
これでもかなり手心を加えて稽古をしていただけに、何やら陰で鬼畜呼ばわりされていた私は、憤懣やる方ない思いで、屯所の門へと向かう。
と、その道中──、庭石に腰を掛け、陽の光を全身に浴びている沖田さんを遠くに発見し、私は小さく目を細めた。
「ふふ、早速……日光浴、してるんだ──」
彼のいる、だだっ広い庭の奥までは距離も遠い。あえて今、邪魔をしに行く必要もないだろう。
そう思った私は彼に声を掛けることもなく、そのまま踵を返して、立ち去ろうとした──のだが、どうやら彼の方も私に気付いていたようで。
穏やかに微笑みながら、沖田さんに胸の前で小さく手を振られた私は、どう返したものかと逡巡し──結局、彼によく見えるように、深くお辞儀をしたのだった──。
門の外へと出た私は、入隊して初めての少数精鋭での見廻りとなった。
──少数、精鋭?
「……うん、精鋭というには無理がある、か」
私は横目で、後頭部で手を組みながらのんびり歩く藤堂さんを見やり、小声でボソリとそう零す。
「とりあえず、きちんと見張っていましょう……」
新撰組は組織の性質上、敵が多い。
のんびり歩く藤堂さんがならず者に襲われでもしたら大変だ。
彼の隣を行く私はこの時、彼が一組長であることをすっかり忘れていた──。
藤堂さんと町の様子に注意を傾けつつ、往来を歩く私は、前を行く原田さんを見上げる。
「あの、原田さん。うちの所の組長さんですけど、そんな大人数が必要なお仕事行っちゃったんですか?」
「あー、尊王派の浪士に資金を融通している疑惑のある奴がおるけん、ソイツの屋敷を改めに行っとんよ」
原田さんの言葉に、私はぱちくりと目を瞬かせた。
「え、ソレ限りなく尊王派の浪士の可能性大なワケですよね? 戦闘になるかもしれないのに副組長である私を置いてくなんて……」
──全くもって酷い話だ。
私は不機嫌になりながら、頬を膨らませる。
「まあまあそう言うな。なんせ大きな屋敷やけん、どうしても人手だけは要るんやけど、隊士全員、根こそぎ持ってかれたら此方が戦力不足になるけんね」
原田さんが私を宥めるように、そう弁明すると、藤堂さんが「そういうこった」と、話に割り込み、彼の言葉を継ぐ。
「斎藤から『戦闘能力と良からぬ者に対する嗅覚、後は死に急ぐことについてだけは折り紙付き』だから安芸置いてくって言われたんだよなー」
「解せない……!」
悪戯っぽく笑う藤堂さんの姿に、私は今きっと、面白くなさそうな顔をしているのだろう。
戦闘能力とならず者に対する嗅覚は認めよう。だが、私が死に急いでいるというのは、一体どういう了見で言った言葉なのか、一度かの組長を良く問い糾さなくては──。
と──。
「おや……?」
ぶすっとしていた私はふいに、往来をぶらつく、十歳を過ぎたくらいだろうか、それくらいの年頃の少年に目をとめた。
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