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2-1-4

「へ? どういうこと?」


私は幼女の言っている言葉の意味が分からず、何度か目を瞬かせる。


以前も何も、ローマへと帰れるかどうかが大切な私にとって“それ以前”なことなどあるはずもなく。


「ローマに帰れる帰れない、その件以外で、今頃になってあなた、私に何の用なの? 私がココに飛ばされて、初めてあなたを見るワケだけど……」


──そう。私がこちらに来てからというもの、彼女は一度たりとも私の前に姿を見せたことはなかったのだ。


それが、何故また急に──。


気まぐれなどではないはずだ。……となると、彼女には勘違いでココに連れて来られた前歴があるだけに、彼女の返答に、どうしても身構えてしまう。


と、そんなことを考えていた。次の瞬間──。


「──え?」


幼女が、恐ろしいほどに表情の抜け落ちた顔で──口元だけでニンマリと不気味に笑んだのだ。


そして──小さな唇が、ゆっくりと、私の理解の範疇を軽く越える言葉を紡いだ。


「今日はあなたにお別れを言いに来たのです」


「……は!?」


急に告げられたその言葉に、私は困惑に、ただ眉根を寄せる。


「あなたは、十二月二十五日に死ぬことになるでしょう」


どこまでも平淡な瞳で言い渡される、その死の宣告に、しばらく硬直し──数瞬の後に、ようやく頭が思いついたのは、童でも考えつくような一言。


──そんな急に死の宣告をされても。


当然、その宣告を「はいそうですか」と、受け入れられるような聖人のような精神は持ち合わせてはいなかった。


かといって、つまらない冗談として一笑に付せばよいのか、反抗すれば良いのか、そこは、ひたすら反応に困る。


反応に悩む、私のそんな思考などお構い無し。幼女は無機質な声で言葉を続けた。


「その日は不運が、あなたを死に向かわせるでしょう」


「な、何でまた不運!?」


不運で死ぬのは、既に一度ローマで体験済みである。


二度目なんて冗談じゃない。心底そう思った。のだが──。


「願いの上書きです。私はかつて、あなたから『未来に行きたい』という願いを受け、それを叶えました。ですが、今回、その願いがある者によって上書きされたのです」


幼女はどこまでも淡々とした声で。


「その者の願いは『あなたを殺してローマへと連れ帰る』というもの。私はその者の願いを叶えさせるため、あなたのいるこちらの世界へ、その者を連れて来ました」


残念ですが、と幼女は、どこが残念と思っているのか全く分からない口調でそう呟く。


演技でも、もう少し残念がる素振りを見せてほしいものだ。


「……願いが上書きされた以上、あなたはその者にはどう足掻いても勝つことは出来ず、十二月二十五日に、不運が重なり、あなたは殺されることになるでしょう」


そこまでハッキリと言い切られると、私は言葉も出なかった。


「それは、人がどうこうできる運命ではありません。だから、こうして、せめてもの情けで伝えに来たのです。あなたは死ぬ。だから、最期に思い残すことのないよう、残り僅かな日をお楽しみください──」


そう、一方的に告げると、幼女は濃くなる闇の中へと溶けてゆく。


──私が、また不運で死ぬ?


その突き付けられた『最期』に、茫洋とした不安がぬるりと、音もなく襲ってくる。


「……冗談じゃない」


ぽろりと自らの口からついて出た言葉に、私は己の意志が天使の宣告を認めていないのだと気付く。


──そうだ。冗談じゃない。


そんな、願いだか何だかが上書きされただけで簡単に殺されてたまるものか。


そう思う自分を、冷静な自分が「諦めろ」と諭す。


人がどうこうできる運命ではない。


それを私は、身をもって知っていた。


何故なら、他でもない自身が、人知を超えたチカラによって、一五〇〇年先のこの世に飛ばされた身であるから。


無理だと、どう抗っても覆しようのない運命だと諦める心の声が聞こえる。一方で──。


どうしても消えない、運命に逆らう声が、確かに自分にはあった。


私は、どうやらかなり、負けず嫌いなのかもしれない。


──人智を超えた存在。


それほど大きなものが自身の障害となるならば。


「……剣闘士冥利に尽きるってものじゃないか」


──そうだ。剣闘士とは、己よりも遥かに強く逞しい猛獣も、勿論人間も。自身の前に立ち塞がるものは、全て踏み越えねばならないのだ。


ならば──


──良いだろう。


「邪魔する者は全て粉砕して、あなたの決めたその未来、書き換えてやるだけの話なのだから──」


私はローマの剣闘士──の中でも最上位に位置する、筆頭剣闘士なのだから。


「相手が強かろうが人外だろうが関係ない。敵として立ち塞がる者は全て、打ち砕いて進むだけ。それが困難であればあるほど、打ち勝った時に鳴り響く喝采は、さぞや大きなものとなるでしょうから、ね──」


諦めて己の不幸を嘆いて一体何になるというのか。


生憎と、私はそんな可愛げのある生き物ではない。


徐々に意識が浮上していくのを感じながら、私は無理矢理、「それでも」と弱音を吐く心を捻り潰したのだった──。


面白い、続きが気になる!


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