表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/238

8-5

総勢で六名での討ち入りのため、思っているよりも静かではあった。


まあ、完全に静かなワケではないが。


「ひいっ!?」


突然の乱入者に、平間の隣で眠っていた糸里さんは飛び起き、恐怖に顔を引き攣らせる。


布団との位置からして、私の方が斎藤さんより僅かに彼女に近かった。


私は一足飛びに糸里さんへと距離を詰めると、少し乱暴ではあるが、彼女を拘束し、


「暴れないで下さい。助けるために来たのですから」


と、その耳へと至近距離から告げる。


助ける、という言葉に、糸里さんが一瞬、ぴたりと動きを止めたのを、私は見逃さなかった。


「そう。大丈夫だから……そのままこっちへ──」


彼女を興奮させないよう、掛け布団を握らせたまま、私はゆっくり糸里さんを下がらせる。


目の前では、泥酔もいくらかは落ち着いたのだろう全裸の平間に斎藤さんが、打ち直した鬼神丸国重を抜き、ゆっくりと壁際へと追い詰めていた。


「……ひいっ、た、助けてくれ!」


恐怖に顔を強ばらせる平間の言葉に、斎藤さんは、


「お前達、生糸問屋が燃やされた日、何処へ行っていた?」

と、短く問い掛ける。


「町だ! 京の町を見廻りしておったのだ!」


「……そうか。てっきり長州(ちょうしゅう)藩の者と内通でもしていたのかと思っていたのだが」


 斎藤さんのあまり抑揚のない声に、平間は「待ってくれ」と騒いだ。


「正直に言う! 言うから! 確かにあの日、我らは長州藩の者と会っておった! だがそれは、奴等を説得して、此方側へと付けるためのものであり──」「──もういい」


 それは飛燕の一閃だった。


 骨などまるでなかったかのように──豆腐のように簡単に、平間の首を胴から斬り離した斎藤さんは、


「これ以上、醜態を晒さなくて良かったな」

と、転がる首へと呟く。


 廊下へと出ると、沖田さんが丁度隣の部屋から出てくるところだった。


「沖田さん! そちらはどうでしたか!」


 ばっと駆け寄る、と、彼は非常につまらなさそうに、


「どうもこうも、アホらしい。醜い命乞いばかりで話にすらならなかったよ」

 と、疲れと呆れが混じったたような声で呟いた。


「……でも、近藤さんのところは一筋縄では行ってないようだよ。隣からずっと芹沢の声がしている」


 そんな沖田さんの言葉に、耳を澄ます──間でもなく、確かに芹沢の声が松の間から聞こえてきていた。


「うーん……」


「どうかしたの、アキリア?」


 私の浮かべているであろう複雑な表情を見下ろし、沖田さんが首を傾げる。


「いや……平間はまだ良いですよ。筆頭局長のあの太ったお腹はあまり直に見たくないなーって思っただけです」


「毎度思うけど、呑気だねえキミは」


 沖田さんはやれやれ、といったように肩を竦めた。


「さすがに素っ裸で首を刎ねたりはしないから、安心しなよ」


「え? でも平間さん、見事に全裸で首を飛ばされましたけど?」


 私の言葉に、沖田さんは渋い顔で斎藤さんを見やる。


「わお……さすがのボクでも最期に身支度くらいはさせてあげるというのに……」


 斎藤さんはそんな沖田さんの言葉には知らん顔で、先頭に立ち、松の間へと踏み入った。



 そこには、壁際で土方さんに護られる形となったお梅と、近藤さんと睨み合う、きちんと寝間着は着させてもらえたらしい芹沢の姿があった──。



「おお安芸君! よくぞ来て──……と言いたいところだが、そうか、君はそちら側、か」


 芹沢から明らかな落胆が伝わってくる。


「ああ、すみません。こちらへ付いてますね!」


 ヤケクソの笑みで小さな灯りに照らされた室内に踏み入り、私は芹沢へとそう告げた。


 芹沢は死期を悟った故だろう。狂気の抜けた目で、じっと私を見つめてくる。


「ままならんものよ。百の雑兵よりも、儂は心底からそなたを臣下に欲しておったというのに……」


 そんな、戦慄(わなな)くような声に、私は首を傾げた。


「あらら。本気だったんですか」


 しかし、何がそんなに気に入られる要素になったのか。


 その考えは、表情から芹沢へと伝わっていたのだろう。彼は吐き出すように笑った。


「偶然、ではあったわい。そなたが入隊した後、谷君と道場で打ち合うのが、歩いておったら、たまたま窓から見えたのよ。木刀で真剣と打ち合うなど、並の者のすることではない。儂は鉄扇を愛用する身として、そなたを一目で気に入った……」


「ああ。そう言えば木刀がどうとか、最初に呼び出された時に、言われてましたっけ……」


 その時のことを思い出し、一人頷く。


「そなたを呼び出した時、会話をしてみて、恭順の態度こそ見せど、好き放題言いおるそなたに、やはり儂は惹かれて仕方がなかった」


「はあ。それはどうも」


 褒められているのか良く分からないが、とりあえずは褒めている、と取っておこう。


「外道なようで、狂っているようで、そなたの目は純粋な光で澄んでおったわ。……まるで、この国の未来を変えると息巻いていた時の、純粋な自分を見ておるようだった」


 ……やはり、貶されていないか?


 少しだけ、渋い顔をする私である。


「今からでも、そなたなら信じよう。儂に、平間や平山のように仕えんか、安芸君」


 それはきっと、間違いなく彼の本心だろう。


 だが──。


「すみませんねえ、私、先約が……というか、正直、皇帝様一筋なので!」


 私はその誘いを、後腐れも未練もないように、バッサリと切り捨てる。


「……そうか。それは残念だ」


面白い、続きが気になる!


と思ったら星5つ、


つまらない……。


と思ったら星1つ、思ったままでもちろん大丈夫です!


励みになりますので、作品への応援、お願いいたします。


ブックマークもいただけると更に励みになります。


何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ