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8-1

    八



私が快癒したその日、芹沢は約束通り、新撰組全隊士を呼んでの宴会を開いてくれた。


芹沢は筆頭局長ということもあり、さすがの財力の持ち主で。


再び嶋原の角屋で開かれたその宴会は、豪勢にも、芸妓総揚(そうあ)げの宴会となった。


「ははは! どうだね安芸君。この前の(わび)しい宴会とは規模が違うだろう」


すっかり出来上がった芹沢は、宴会中、上機嫌で私へと「快癒祝いだ」と酒を注いでくれる。


いざ戦闘、という時に足が千鳥足……なんてことにならないように、私は芹沢に怪しまれないよう、注がれた酒を飲むふりをしながら、あらかじめ用意しておいた手巾に染み込ませたり、厠で吐き捨てたりと何とか注がれた酒を減らしていく。


今回の芹沢誅罰については事前の打ち合わせで、組長格の隊士のみでの作戦決行となった。


隊士の雰囲気から勘づかれないように、との計らいであり、隊士達に存分に楽しんでもらうことで、少しでも組長達が酒を飲んでいないのが気取られないようにとの計らいでもある。


ちなみに沖田さんと近藤さんは来ていない。沖田さんは持病を理由に床に伏しているとし、一人でも万全の状態で芹沢達と打ち合えるよう、後からこっそりとこちらへと向かうとのことだった。


近藤さんはそんな伏せっている沖田さんを一人で屯所に残しては楽しめない。という、いかにも彼らしい理由で宴会への参加を辞退したが、そこは彼の普段の言動故だろう、芹沢は怪しむこともなく──。


ふいに、こそりと芹沢が、私に耳打ちをしてくる。


「安芸よ。実はな、お前と……いつもの平山、平間(ひらま)、そして儂の四人に、もっと豪勢な宴を壬生の八木邸に用意するつもりでな」


「わぁーやったー」


咄嗟にそう返しながらも、私は内心焦った。


そんな予定外のこと、しないでほしいところだが、彼が動くと言っている以上、下手に引き止めて、怪しまれるのだけは避けねばならず。


「つもりということは、まだ用意してはいないのですよね?」


「ああ。今から向かい、準備させよう」


私は逸る心臓を宥めながら「じゃあ」と口を開く。


「私、ここを出て皆さんのご希望される遊女を集めてから行きましょうか? そしたら八木の者に呼ばせるよりも、早く宴が開けると思うのですが」


私は最後の単独行動を賭けて、そう打診してみる。


「うむ。そうだな。実に合理的だ。では儂は吉田屋のお梅を。平山は桔梗屋(ききょうや)吉栄(よしえい)を気に入っておるでな、そいつを。平間は輪違屋(わちがいや)糸里(いとさと)をいつも呼んでおるでな。そいつを頼む。お前も気に入った者をあちこち見て回り、存分に吟味(ぎんみ)してよいから、連れてくるといい」


「ありがとうございます。ではではそのように──」


ゆっくりと立ち上がった芹沢は平間と平山を連れて、宴会場から出ていく。


組長達の視線が、何事か、とチラリとではあるが、こちらへと注がれていた。そんな中、


「──厠か?」


と、ごく自然な様子で近付いてきたのは、土方さんだった。


「あ。土方さんじゃないですかぁ。……筆頭局長、酒豪ですねえ。ずっと付き合っていたら、もうふらふらですよ。厠なら私が行きたいのでー、土方さん肩貸して下さいー」


辺りには残された水戸派の隊士達がいるため、私は怪しまれないように、土方さんへと手を伸ばす。


「阿呆か。飲みすぎだ……ほら」


さすが、頭の回転が早い。


私の意図をすぐに読み取り、土方さんは私に肩を貸して立ち上がった。







「八木の邸でまた宴会、か……」


厠で私達は大幅に狂ってしまった作戦を練り直していた。


「とりあえず遊女を集めるという名目で、こうして解放されていますが、私はまたすぐに捕まります、ねえ」


「仕方ない、隊を半々に割るぞ。宴は終わりだ。水戸派の隊士は数にして三十ほど。芹沢がお前にだけ移動先を伝えているのが幸いだな。芹沢の隊士はまだ芹沢が揚屋にいると思っているからな。奴らは他の座敷に、芹沢が呼んでいると流して集め、一気に討ち取る」


私は土方さんの言葉に頷いてみせる。


「八木の邸は……芹沢と平山、平間の三名か……」


「じゃあ私が三人とも殺しちゃいます! と言いたいところですけど、一人と打ち合っている間に他に逃げられるのはまずいですね……。こちらも三人ほど用意しますか?」


一対一であれば、と思ったのだが──。


「そう簡単な話でもない。一番討ち取り易い寝込みを襲うにせよ、同衾している女が厄介だ。部屋中を逃げ回られた挙句、部屋は暗いからな。うっかり刃の前に飛び出しでもされたら適わん」


「それは…そうですね……」


これから呼ぶ遊女達はそれを知らないのだから、騒ぎ回るのは当然だろう。


「局長、俺、一、二、三番隊……は二名。仕方ない。この六人で討ち入りするぞ。二人ずつに別れ、一人が女の確保。もう一人が奴らのうち、一人を討つ」


私にも、それが最善のように思われた。


局長と一番隊組長は端から宴会場にいない。ならば、永倉さんと斎藤さん、土方さんの三名だけがここの揚屋から抜ける。その方が絶対に怪しくないだろう。


「お前はさっそく遊女を迎えに行け。伝達が出来次第、俺達も合流する。……どこから向かう?」


「そうですね、とりあえず吉田屋、輪違屋、それから桔梗屋へと向かいます」


土方さんは「分かった」と短く返すが早いか、踵を返し厠から出て行く。


私は土方さんを見送ると、急いで揚屋から飛び出した──。


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