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幕間1


幕間 沖田総司



アキリアが眠ったのを確認し、ボクは斎藤くんへと静かに目を向ける。


彼はボクの視線に気付いて……のことではないと思うけど、音もなく立ち上がった。


そっとアキリアの部屋を後にし、ボク達は局長室へと向かう。


道中、彼と会話することはなかった。


……というよりは、彼は基本的に、一名を除き、他者と言葉のやり取りをする気がないのだ。


彼の気分でも乗らない限り、すぐに会話が終わるため、ボクが一方的に言葉を投げ掛け続けるハメになる。


 そして言葉を投げ掛け続けたとしても、無視されることもある……というのは聞こえが悪いか。……彼の意識にはボクの言葉は届かないことが多いのだから。


 ──そもそもが。


「彼女だけ、なんだよねえ……」


 彼が必死に感情を読み取ろうと努力するのも、自ら会話をしようとするのも、アキリアだけだった。


 彼女が望むから、彼はココに馴染むように振る舞っているだけ。


恐ろしい話だが……まず彼女はそんなことはしないだろうが、もし今アキリアが近藤さんの首を望むなら、彼は迷わず近藤さんを殺めに掛かるだろう。


この嵐を手懐けたのが攘夷側についた彼女でなくて、本当に良かった。



ボクは辿り着いた局長室の前で足を止める──と、障子に人影が映ったからだろう。


中から「入れ」と土方さんの声がした。







「芹沢は?」


ボクと斎藤くんは座布団に座り、近藤さんと土方さんと向き合う。


「部屋で酒を飲みながら、続々と屯所に訪れる京の商人から隊の資金を融通してもらってる」


土方さんは皮肉を込めているのだろう。やたらと『隊の資金』を強調している。


昨日の一件があったから──。


商人達は、殺されるよりは遥かにマシだと思っているのだろう──芹沢の許へと列をなして金を運んで来ているらしい。


「誰かネギでも一緒に持ってくるくらいの度胸のある商人はいないんだ?」


「芹沢鴨だけに、鴨葱(かもねぎ)、ってか? 阿呆。んなことが出来る奴らなら、端から屯所に金出しに来てねえよ」


土方さんの言葉に、ま、それもそうか、とバカバカしい気分になる。


ボクはため息を一つ吐くと、近藤さんと土方さんに、ココを訪れた本題を切り出した──。


「今度の討ち入りは、アキリアは外した方が良いんじゃない? 彼女、芹沢が何やらご執心のようだしさ、彼女と芹沢はこう……戦闘に臨む根本の姿勢が似ている。万一アキリアと芹沢が打ち合うことになったら──」

「──正面切って愚直なまでに突貫するだけの戦闘狂同士だ。それが奴の強みとは言え、体格差の大きい芹沢が相手だと分が悪い、か?」


ボクの言いたいことは、途中で土方さんに言われてしまった。


さすが副長、話が早い。


 ──問題は。


ボクはチラリと斎藤くんを横目で見やる。


彼はアキリアのやりたいことを全力でさせてあげたい、そう思っているはずだ。


戦いを好む彼女を今作戦から外すことには反対するだろう、と思っていた。のだが──。


「沖田殿とは別理由だが、俺もアキリアは外すべきだと思う」


意外にも、彼はボク達と同意見だった。


珍しいこともあるものだ。と、心底驚く。


「生糸問屋の一件で分かった。……アレは、根っからの戦闘狂でも、狂人でもない」


「は!?」


そんな斎藤くんの言葉に、ボクは目を見開いた。


人の感情には疎い、ぶっ飛んだ頭の持ち主──だが、あれほどアキリアを理解しようと努力していたというのに、ここまで人を見る目がなかったとは。


「いやいや、生糸問屋の一件を見たからこそ言えるだろう! アレのどこが狂ってないって!?」


別にボクも、首を抱えて、赤い池の水を顎や髪から滴らせながら笑っていた彼女の──その狂ったような満面の笑顔が本心からのものだとは思っていない。


あれは、芹沢を屯所に逃げ帰らせるための演技だったのだろう。


だけど──。


「本物だよアレは。ホントに狂っている。……普通は燃え盛る問屋に、いくら苦痛に咽ぶ者がいたとしても、そうそう簡単に飛び込んだりはしないよ。常人なら必ず立ち止まる」


立ち止まる心境は我が身可愛さかもしれないし、飛び込むことに対する害が益を上回ることなどないと理解しているからかもしれない。


「普通はそう。……だけど、アキリアは止まらなかった。迷うことなく炎に飛び込んだ。苦しませるくらいなら殺そう。後先考えず、それだけであのバカは火の中に飛び込んだんだよ──?」


狂ってでもいなければ、到底できることではなかった。


そう思っていたのだが──。


「アレは狂った者に──そして戦闘狂に『なろうとしてなった』者だ。間違いない──」


斎藤くんは一歩も引かなかった。


 彼の地頭の良さを考えると、つい「そうなのだろうか」と流されそうになる自分がいる。


「……まあ、ワシも薄々そんな気はしていたが、一、お前はどうしてそう思うんだ?」


と、ふいに今まで黙っていた近藤さんが、まさかの斎藤くんと同じことを言い出した。


近藤さんは人の良い面を見つけることに長けている。


だからこそ、彼の周りには人が集うのだ。


──反面、人の粗探しは苦手だけど。


そんなことを考えていると──。


「ああなってしまった理由は分からぬ。アレが昔仕えていたという主人が絡んでいるのかもしれんし、アレが執着する皇帝とやらが元凶かもしれん。そこは分からんが、アキリアは敢えて戦闘を求めているだけだ」


 斎藤くんは静かに、そう呟いた。


「あのさそれ、根っからの戦闘狂じゃ……?」


 敢えて戦闘を求める。それのどこが戦闘狂でないというのか。


ボクは斎藤くんをジト目で見やる。


「む。言い方が悪かったか……。──ええとだな、アレの根は『屍に施しを与え』、『他者の苦痛を見ていられない』そんな、優しさで出来ている、戦闘狂とは程遠いものなのだ。だが、本人はそれを隠している……というよりは、それを良しとしていない」


斎藤くんは記憶を手繰るように、己の顎へと曲げた人差し指を宛がった。


「アキリアは興奮すると理性を本能が上回り、自制が利かなくなると言っていたが……多分それは『自己暗示』の行き着いた果てだ」


ボクは彼の言葉に首を傾げる。


 正直、言っている意味が全く理解できなかった。


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