7-2
「一つ、言えることは、私の故郷は、ここまで取り繕われた社会ではなかった、ということ。人の本質がとてもよく顕れる、生も死も、愛も憎も、全てが剥き出しの世界でした」
つまり、と私は続ける。
「その『人』というものの始まりのような地で、人の取り繕わない本性を、底辺の底辺から散々見てきた私からの、多分こうなるであろうという忠告というか、ご参考までに、というか、私の言葉は、まあそんなところだとでも思って頂ければ──」
最後に決めるのは、ここの世界の人達だ。
そう告げたのだが──。
「おいおい、水くさいこと言うなよ。安芸……お前も、この世界の大切な一員だぞ」
寂しげに笑う近藤さん。──と、何やらグスッと聞こえたような気がして振り向くと、七番隊組長の谷三十郎が目頭を押さえて泣いていた。
──何で!?
ポカンとする私に、谷さんは泣きながら口を開く。
「安芸よ……全くワケが分からんが、お前が嘘を吐いていないことだけは判る。そして、もう一度言う。全く! さっぱり! 微塵もワケの分からん内容だが、こう、感覚的にグッとくるものがあったぞ……!」
……とのことで。
「あーあ、泣ーかせた。谷さん涙脆いんだぞ? 責任取ってよね、アキリア」
場の空気を和ますように、沖田さんが冗談混じりにそう告げてくる。
「そうだ。谷殿のこともだが、その、何かんやの責任も取って、此処は自分の世界ではないなどと、つまらぬことは言うな……えと、アキリア……」
何やら珍しく饒舌かと思いきや、内容はスカスカな斎藤さんが私の本名を呼んだ。と──。
「あ! 斎藤くんどさくさに紛れてマネしたな!? アキリアって呼ぶの、ボクの特権だったんだけど!」
「……」
すかさず沖田さんが反応するも、斎藤さんは知らん顔である。
「都合が悪くなったからって無視はないよね!?」
沖田さんの声に、場の緊張は完全に解れたようだ。
眉を下げながら、微笑む近藤さん──と、相変わらずの仏頂面な土方さんが、皆に紙を手渡していく。
「では、皆で芹沢の処遇を考えようか。誅罰、信用、中立。どれでも良い。一票を入れてくれ。どれが悪くてどれが良い、というものもない。皆の、一意見として、皆で決めよう」
近藤さんの声に、各々が筆を滑らせる。
私の答えは決まっていた。
──もう、過ちは繰り返さない。
投票し、それから十分ほど──。
「……結果が出た」
と、集計した土方さんが、近藤さんへと紙を手渡した。
近藤さんはそれに目を落とし──困ったように一度、目を伏せる。
「結果を伝えよう。中立──四番隊、八番隊、九番隊、浪士調役、総長、以上五票」
中立は結果には響かない。
問題はここからだ。
「信用──局長、五番隊、六番隊、七番隊、諸士取調役兼観察方、勘定方、会計方、以上七票。誅罰──副局長、一番隊、二番隊、三番隊二名、十番隊、国事探偵方、以上七票。……同票だ」
それは一番困る結果となった。
「あの……やっぱりココは、私はなしで……」
そうすれば、膠着は解けるのだ。そう思ったのだが……。
「お前もこの世界の者だ、と言ったばかりだろう──」
と、珍しく口を挟んできたのは土方さんだった。
もしかしたら鬼の副長と呼ばれる彼は、芹沢を誅殺したいがために票数を減らしたくないとか、そんな理由では、と疑ってしまうくらいには彼が口を挟むのは珍しい。
「うーむ、下々の意見も取り入れたいところだが、下手なことをして、水戸派の隊士から芹沢の耳にこの件が入ろうものなら、大変なことになるだろうしなあ……」
「近藤さん。次の手を考えるにせよ何にせよ、一旦この場は解散した方が良い。今は全員芹沢に連れられて屯所を出ているとはいえ、何かの拍子に組長がこぞっていないのが、奴の隊士達に気付かれるのはまずい」
土方さんは時計を見上げながら、そう零す。
「そうだな……。皆、この場は一旦解散としよう。ワシもこの件については、もう少し考えてみよう」
近藤さんのその言葉で、場は解散となった。
「あの、筆頭局長、お出かけなんですか?」
局長室から出た私は前を歩く斎藤さんへと声を掛ける。
「ああ。今朝の幹部会では、何やら新撰組にとって大切な仕事だなどと言っていたが……まあ真相は謎、だな」
「ふぅむ……」
別に構いはしないのだが、芹沢から私に声は掛からなかったのだな、と気になりはする。
「そんな顔をするな。お前に芹沢から声が掛からないよう、お前は昨日の要人警護の際に、空腹に耐え兼ねて落ちていた物を拾い食い、腹を下して今日一日は厠から出られん、と芹沢には先に流しておいただけだ」
「な……!? 何とんでもない嘘流してくれてるんですか斎藤さんッ!?」
組長達は皆、もちろん幹部会に参加しているため、そのことを知っていたのだろう。
前を歩く肩がたくさん震えているのを見逃せるはずもなかった。
「皆して笑わないで下さい──!!」
嘘にしても、あまりにも酷い内容である。
「まあまあ、斎藤くんの、ほら、優しさ……だし、ね? くくっ……」
「沖田さん。笑ってますよね? 纏めようとしているようですけど、笑ってますよね?」
猫のような瞳を半眼で睨み上げる──と、
「おう。斎藤、ちと早いが、そろそろ行くか」
と、谷さんがふいに声を上げた。
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