3-4
「いました──!」
私は隊士達の掲げる複数の提灯に気付き、沖田さんの襦袢の袖を掴んだままそちらへと走る。
「あれ? 永倉くん。みんな揃ってる感じ?」
駆け寄った灯りの下で、沖田さんが永倉さんへと声を掛ける。
「一班が怪しい男達が路地に集まり始めているのを見かけたというのでな。全員を集めていたところだ。……お前達は二人なのか?」
目を瞬かせる永倉さんへと沖田さんが事の顛末を説明した。
「なるほどな。では集まりつつある浪士達は安芸が追い立てた浪士達が呼び集めている、と見たので間違いなさそうだ。……ところで、その羽織については聞いた方が良いのか?」
永倉さんは何やら憐れみすら浮かぶ目で私を眺めている。
「うん、なんか外套どっか行っちゃったみたいで、秋の夜風が寒いって零してたから貸してあげたの。この世で一番似合わないでしょ、永倉くん」
隣から聞こえた心を抉る声に、まさかの永倉さんは同意した。
「なんというか……安芸、お前にその羽織は絶望的なまでに、似合ってないぞ」
「永倉さんまで絶望的とか言うのですか……!」
普段言いそうにないことを彼に言わせるあたり『絶望』の真実味がすごい。
「事実だからな……まあ良い、行くぞ」
歩き始めた永倉さんについて、私達は列を成して進む。
浪士達が集う路地までの距離は遠くも近くもなかった。
「御用改めである!」
そんな永倉さんの声とともに、急に現れた私達に、路地に集っていた尊王攘夷派の浪士達は驚愕の表情でこちらを振り返る。
今更ながらに、先程の墓場でもそう声を掛ければ良かったのだと気付かされた。
まあそう声を掛けなかったからこそ、まさか私が壬生浪士組に入隊したとは思ってもいないのだろう男達から、壬生浪士組の情報は伝わっていなかったのだろうが。
「さ、神妙にお縄につこうか? 抵抗する者は、容赦しないよ?」
どこまでも口調こそは軽い沖田さんだが、その身に纏う雰囲気は、まるで触れれば斬れる、刃そのもののようで。
「く、クソッ! 相手は少ないぞ! 殺せ、殺せえええ!」
一人の浪士の声を皮切りに、二十人近くの浪士達がわっと腰から刀を引き抜いて駆けてくる。
「わぁ。血気盛んですねぇ──」
私はルディスを引き抜くと、死番の権利を獲ているため、遠慮なくその殺意の渦中へと飛び込んだ。
真っ先に私へと刀を振り上げた男の、雄叫びを上げる口にルディスの先端をめり込ませ、喉をぶち抜く。
そしてそのまま両手でルディスを引き抜く勢いを殺さないように振り返り、迫ってきていた浪士のこめかみを横殴りに殴りつけ、その頭蓋を砕いた。
「よっと──」
左右から斬りかかってきた者は、ギリギリまで引き付けて身体を引き、同士討ちさせる。
更に一人、二人ととどめを刺す頃には、だいぶ敵の数も減ってきていた。
「仕方ない……」
相手が少なくなれば、一応これでも隊士なので、彼らの推奨する捕縛へと移るしかなく。
加減をしながら、浪士達の四肢の骨を砕いていく──と、私の前から敵という敵が消え去った。
「いやだ! オレはああなりたくねえ!」
「どけ! オレが先だ!」
私の近くから逃げ出す者たちの怯えた視線の先には、私に四肢を全て砕かれて、苦痛の呻きを上げる数多の浪士達がいた。
「大丈夫ですよ。殺しはしませんから──」
逃げ出す残党達を安心させるように、満面の笑みを浮かべながら、私は一歩浪士達の許へと踏み出す──と、彼らはまさかの他の隊士達の前で地に額を擦り付け、武器を手放す。
「た……助けてくれぇ! アイツ…アイツにだけは捕まりたくねえ!」
「早くオレを捕まえてくれよ! アイツが来る前に!」
隊士達へと懇願する浪士達を私はポカンとした表情で見つめる。
──何やら、とてつもなく恐れられている?
血の滴るルディスを握りしめた手を垂らす、と、それだけの動作で恐怖を顔に貼り付けていた浪士達の肩がびくりと跳ねた──。
そんなこんなで、乱戦から十五分ほど──。
残党の捕縛も終わり、沖田さんが呼んでいた屯所からの応援を待つ私達は、倒れた浪士達の中に生き残った者がいないか確認していた。──その時だった。
私の耳に、人生で一度も聞いたことのないような、小さな爆発音のようなものが聞こえた──。
「へ?」
爆発音というよりは何かが破裂する、破音だろうか。そんな小気味よい音とともに、空気を切り裂くように耳の横を何かが掠めていく。
隊士の誰かが「銃だ」と叫び、その声に、周囲の隊士達が一斉に倒れた。
「え、え?」
私は倒れた隊士に駆け寄ろうとし──、
「バカ! 伏せろ──」
そんな沖田さんの声が耳に届くのと、二回目の破音が上がるのはほぼ同時だった。
何が起きたのかを理解する暇もなく、私は肩に強い衝撃を受けて、横倒しに倒れる。
「あだあっ!?」
地で右半身を擦りむいた私は、痛む左の二の腕に、ばっとそちらを見やり──、
「何コレ……」
二の腕には小さな穴が貫通していた。
そして──。
「命は…助かったか……!」
いつの間に倒れていたのだろう、私のすぐ側で倒れていた、パサパサの黒髪を無造作に束ねた、見知らぬ優男が無表情でそう呟く。
私はその間違いなく端麗者である男に、全く見覚えがなかったのだが、彼が隊士でないことは、浅葱色の羽織を羽織っておらず、そこら辺で買えそうな外套を纏っていることから判断できた。
どうやら私は飛び出してきた彼に突き飛ばされ、その衝撃で倒れたらしい。
「ってアレ? その外套──」
私は男の纏う外套に見覚えがあった。それは──
「さっきの屍の方ですかぁ!?」
そう、己が先程、行き倒れた屍へと手向けたもので──。
「む? 屍ではない。俺は──」
男が口を開いた刹那、再び破音が響いた。
次いで、私達の転がる近場の地で、何かしらが跳ねるような音がする。
「……ん?」
私は急に暗くなった視界を慌てて振り払う。と、先程の屍が私を庇うように、半分だけ覆いかぶさっていた。
「なるべく身体を平らにして伏せろ!」
その男の指示に、私は地にぺたり、とうつ伏せに伏せる。
「あの攻撃は、何なのですか……?」
「銃を知らん者がいることに驚いているが……まあ目の前にいるのだから仕方ない。あれは銃といってな、遠距離から人を殺す、小さな弾を撃ち出す武器だ」
自らも伏せながら、手だけを伸ばし、器用に私の貫通した二の腕……よりも何故か肩寄りに、どこからか取り出した布切れを巻き、縛り上げる男の言葉に、ようやく私は銃というものの存在を理解した。
といっても、矢よりも断然早く目標に刺さる武器、くらいの感覚なのだが。
「ふぅん。ま、それだけ分かれば充分です。ありがとうございました」
私は身体を跳ね起こす──が、男によって無理やり地へと、再び頭を伏せさせられた。
「分かっていて、頭を上げる奴があるか!」
「うん。まだ試してはいないけれど、でも、多分私は大丈夫だと思いますから」
そんな私の言葉に、男は驚いたように目を見開く。
「何を根拠に」
「根拠? そんなの──」
再び、破音とともに近場の地が跳ねる。
それは私にとって好機そのものだった。
私は素早く身を起こすと──
「死番には関係ないですね!」
と、真っ直ぐ路地の奥へと突っ込む。
「バカ!」
少し離れた場所で、そんな声とともに、草履が地を擦る音が聞こえた。
恐らく沖田さんが同じように飛び出したのだろう。音から、なんとなくそう判断する。
腕を抉った弾の角度から、敵の大体の潜伏先は理解した。
そして、相次いで撃ち込まれる地の跳ね具合からも、その推測は恐らく間違っていないだろう。
ならば──。
私が脚力を活かして大きく横へと跳ねた瞬間、先程まで私の胴体があった場所を通過したのだろう弾が、破音とともに地に跳ねた。そして──。
「へえ、それが銃ですか」
次の弾を込めないと撃てないのだろう。慌てた手つきで銃をガチャつかせる、寺で見かけた三人の男へと微笑み──死なない程度に、今正に銃を手にしている男の頭をルディスで殴りつけ、その意識を失わせる。
と、追いついたのだろう。沖田さんが残りの二人の頭部を鮮やかな手つきで殴りつけ、こちらもしっかり昏倒させた。と──。
「ええっ──!?」
それは急な衝撃だった。
沖田さんに頭へと拳骨を落とされた私は、頭を押さえながら、彼へと「何するんですか!」と牙を剥くが──。
「びえっ!」
次いでやってきた永倉さんにまで、押さえた手の上からかなりの力で頭を殴られた。
彼に至っては拳骨なんかじゃない、殴打だ。オマケに──。
「ひっ……!?」
二人の横に、薄い表情の、仮名、屍さんが立っており、私は絶対彼にも殴られるのだと身構える。
が、彼からの拳骨は一番軽かった。コツン、くらいの衝撃で済んだのだ。
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