婚約者である王太子の命を救った侯爵令嬢は、功績を奪われて婚約破棄される
語り部も聞く側も性格は良くありません。気持ち良い展開は無いです。
ん? 黒歴史みたいな失敗談を集めてる? 趣味が宜しくねーな。ま、それはコッチもか。……そうだな、じゃあ、割と最近起こった話をしてやるよ。と言っても俺の話じゃねーけどな。これはとある国の、とある侯爵令嬢の話だ。名前は……、ん? 名前は要らないって? 縛り? ふーん、よく分かんねーけどそれならまあ良いか。そんじゃ始めるぜ。
とある時代、とある国の王太子と婚約していた侯爵令嬢の黒歴史を。
侯爵令嬢と王太子の婚約は元々政略に依るものだった。しかし侯爵令嬢は王太子に恋していた。だからーー、王太子が病に倒れた時、彼女は懸命に治療法を探したんだ。
王太子の病は「魔力漏洩症」。知っての通り、魔力は生命力に通じている。生命力は生命維持に必要だが、人間は必要とされる量よりも多く持っている。その余剰分が魔力と呼ばれている訳だ。
そんな魔力は魔法を使う力となる。魔法の基本は生活魔法になる訳だが、大抵の人間はそれ以上の魔法を使えない。そこまでの余剰分は無いからだな。けど稀にその余剰分が多い奴がいる。そう言う奴らは支配者になっていき、支配者同士争ったり、手を組んだりして、結果、国が生まれ、国を導く王族と国を支える貴族が生まれた。だから貴族や王族ってのは、上に行けば行く程、魔力が多くなる傾向が強い訳だ。
けど「魔力漏洩症」になると、文字通り魔力が体内から勝手に、魔法を使用せずともドンドン流れ出て行ってしまう。おまけに魔法を使用しても、減った分の魔力は回復するのに、「魔力漏洩症」で出て行った魔力は回復しねーんだ。
そして酷ければ「魔力漏洩症」は生命維持に使われている生命力まで流しちまう。最悪、罹患者には死が待ってるって事だわな。
で、この「魔力漏洩症」には治療法が無い。流出をゆっくりにする事で、遅滞させるのが精々だ。何処まで流れるかは人それぞれだが、生命力を漏洩し出すと例え死ぬまでは流出せずとも、後遺症は残る。勿論、回復する事は無い。
先にも話したが、侯爵令嬢は王太子に好意を持っていたから、懸命に「魔力漏洩症」の治療法を探っていた訳だ。そして侯爵令嬢の運命はその努力を実らせる道へと進んだ。
侯爵令嬢の尽力に依って、王太子は倒れる前よりも余剰を、魔力を遥かに多く所持した状態で回復した。けどな……、それで侯爵令嬢の魔力は、すっからかんになっちまったんだよ。そう、まるで侯爵令嬢が「魔力漏洩症」に罹患したかの様に、綺麗さっぱり魔力は失われ、回復しなかったんだ。生命力そのものには問題無かったんだけどな。
元々を言うとな、確かに侯爵令嬢の魔力は多かった。ハッキリ言って、国王よりも遥かに多かったんだ。だからこその政略結婚だった。けどそれが喪われたら?
そうーー、婚約解消待ったなし、だ。
酷い話だろう? けど話はコレで終わらなかったのさ。新しい婚約者は公爵令嬢だったんだかな、元々彼女も婚約者候補ではあったのさ。魔力も侯爵令嬢と同等でな。只、使う魔法のジャンルには差があったけどな。けどそれだけならどっちも甲乙付け難かった筈だ。にも関わらず選ばれたのは公爵令嬢より身分の低い侯爵令嬢だった。じゃあ、何で公爵令嬢が選ばれなかったのか、分かるか?
血が近いから?
いや、違う。血の問題なら王太子の婚約者は伯爵家以下から選ばれたろうよ。何せ血の遠近は公爵家も侯爵家もそう変わらんからな。だったら思い付かんか?
ははっ、答えはな、その公爵令嬢は公爵の養女だったからなんだよ。元は男爵令嬢だった処、下位の令嬢とは思えない、王族以上の類まれな魔力を見込まれて、娘が居なかった公爵家に引き取られたのさ。で、直ぐに王太子の婚約者候補になったんだが……、マナー教育が追い付かなくてな、魔力は同等でも血筋に劣り、魔力以外の能力も侯爵令嬢に敵わない、って事で侯爵令嬢が婚約者になった訳だ。
で、それ等が覆った。
魔力が政略の第一条件だったんだ、婚約が解消されるのも、新しく婚約が結ばれるのも分かるわな。けど、さっきも言ったけど、そんな形では終わらなかった。
侯爵令嬢と公爵令嬢は扱う魔法ジャンルが違った。侯爵令嬢が扱うのは主に土属性だったんだが、公爵令嬢が扱うのは回復属性だったんだわな。
ーー王家と王太子はな、王太子を治療したのは公爵令嬢の回復魔法だと正式に発表しやがったのさ。
更に公爵令嬢は聖女だと称号まで与えられた。そしてーー、そんな公爵令嬢に不満を持った侯爵令嬢が、元々は男爵令嬢だったと言う事実を以て、公爵令嬢を貶めたと言う不敬罪により裁かれ、婚約解消ではなく、侯爵令嬢有責で婚約破棄となった。
彼女の両親は彼女が王太子を治療したにも関わらず、それを認めず、寧ろ愚かな事をした、とばかりに彼女を責め立てた。そして修道院送りにしました!
彼女はそこで王太子を治療した事を後悔し、王太子に恋した事を後悔し、序に両親や未来の家族となる王家を信頼していた事を後悔した。それらは人生の汚点、則ち黒歴史だと彼女は自身を蔑み、最後は王太子の病が再発する事に確信を持って、自害した。
……どうだ? 面白かっただろ? え?? 王太子はどうなったかだって?? そりゃあ勿論、彼女の確信通りに病が再発ーー、
「しなかった」。……ははっ、バレたか。そりゃあ悪魔の話だもんな。絡繰には気付いた訳だ。そうさ、侯爵令嬢は確かに王太子の治療法を見付けた。「悪魔との契約」って方法でな。で、そんな方法が真っ当な訳がねえ。「悪魔との契約」にはキッっつい代償が付きモンだ。
けどな、侯爵令嬢の魔力が無くなったのは代償のせいじゃねぇ。分かるよな、所詮は余剰分なんだ、ウンなもんじゃ軽過ぎる。
侯爵令嬢はな、「自分は一生、魔法が使えなくなっても良いから、自分の魔力を使って王太子の病を治してくれ」と願った。だから、俺はそれを叶えた。「代償に魔力の恩恵を貰う」と言ってな。くくくっ!
で、侯爵令嬢は勘違いした訳だ。
自分の魔力を代償に、王太子を治療したんだってな。馬鹿だよなぁ。魔力を貰ったんじゃねえ。魔力の恩恵ーー魔力を持っていたからこそ、受けていた恩恵を貰ったのさ。王太子の婚約者の座、其処に纏る権力や未来をな。けど本来ならそれだけで終わる筈だったんだぜ?
終わらなかったのは、侯爵令嬢がダダを捏ねたからさ。
婚約解消に納得行かないとゴネにゴネた。要は商品を先に受け取り、いざ迎えた支払いの場で「払えん!」って言ってる様なもんさ。そんな事すりゃあ、そりゃ問題だって起こるってもんよ、悪魔との契約を不履行にしようってんだからな。
けど悪魔は契約不履行なんて認めない。だから彼女は悪魔から罰を下された。
結果、王家は婚約解消ではなく、婚約破棄と成す為に色々事実を捻じ曲げた現実を彼女に突き付け、家名に傷を付けられた侯爵夫妻もまた、それに追従したのさ。
ん? 別に俺は関係者達を操ったりはしてねーよ。全ては侯爵令嬢の願いを中心にした因果さ。もし操ったとしたなら、犯人は侯爵令嬢自身さ。もし悪魔の意図が介入していたら、真っ直ぐに処刑だったろうさ。けどそうはならなかった。それが、侯爵令嬢に対する敬愛や罪悪、そして愛情が、悪魔の介入で操られなかった証さ。修道院送りは侯爵令嬢を冷静にさせる為で、何れ熱りが冷めたら呼び戻させる積りだったし、王家の責任で縁談を探す予定だったんだがなぁ。侯爵令嬢にもそれを何度も説明した筈だったんだが……、はは、恋は盲目って訳だ。違うかな?
ま、何にせよ、それで自殺までしたんだから、正に黒歴史だわな!
しかも王家に呪いの言葉まで吐いてな〜。侯爵令嬢は「自身の魔力を犠牲にして王太子の病を治療する」事を願ったから、俺はその方法で王太子の病を治しただけなんだがなー。まあ、だからこそ王太子は彼女の余剰魔力を丸々貰い受ける形で回復した訳だが。
侯爵令嬢は「一生魔法を使えなくなっても良いから」と抜かしていたが、確かに願いを叶えた結果はそうなったが、別に「侯爵令嬢が一生魔法を使えなくなる」事自体は願いに無関係だったんだがなぁ……。
彼女、勝手に「自身の一生分の余剰生命力を代償に、王太子の病を治療した」と思ってたからなぁ。だから自身が早々に死んだら、王太子の病も再発すると思い込んでたんだよな〜。
いやあ、実際にそうだったとしても、契約不履行させない為に契約項目も変わってただろうから、侯爵令嬢が望まぬ形の結果にしかならん筈だがなぁ。
……まあ、そんな侯爵令嬢が王妃にならなくて良かったのかもしれんがね。どう考えても器じゃない。力量不足だ。
って言うのは王族の言い分だがな〜。けどしょうがねーよな、思う処があっても、国を守る高位貴族が感傷に浸って止まる事なんか出来ねーもんな。
ん? 元男爵令嬢の公爵令嬢は大丈夫かって? ははっ、何か「真実の愛に目覚めた王太子と男爵令嬢」って感じの恋物語のモデルになってるくらいだから、大丈夫なんじゃね? あ、序でにその恋物語で悪役の侯爵令嬢は、悪役令嬢って呼び名で定着したみてーだったわな。
はははははっ!!!
んじゃ、この辺で。ん? 話してくれた礼? 良いって事よ。そんじゃあな、行き摺りの神さんよ。…………アンタ相手に契約する程の力量、俺にはねーからなー……。
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