プロローグ
爆音が鳴り響く。
最強と最強の戦いだ。周りの被害などお構い無しである。
響く鳴き声。大きな翼、巨大な体躯、鋭い目付きと牙、爪、全身を覆う鋼鉄よりも強固な鱗、その圧倒的な存在感の前には何者も敵わない。
そう―――彼らは龍。いや、どちらかと言えばドラゴンと言った方が耳馴染みがいいだろう。しかし、彼らにとっての誇りなのだ。己はドラゴンでは無い。龍なのだ、という誇りが。
一方の龍は紅蓮の炎を吐き、もう一方の龍は白銀に輝く雷光を放つ。誇り高き龍である彼らは戦う。
一方は龍の誇りを、掟を破りしものを裁くため、一方は大切な家族を守るため、その命をもって戦うのだ。
「何故掟を破った!!人間を拾い育てるなど!!龍に有るまじき最低の行いを!!」
憤慨し声を荒らげる赤き鱗を持ち、熱き龍、炎神龍ヒュオーラ。
「…!我はあの子を見捨てることなど不可能だった!あの子はきっと龍と人との橋渡しとなれると思ったのだ!」
猛攻に耐えつつ、家族を守ろうとする白銀に輝く龍、雷神龍サンベーラ。
そしてサンベーラの後ろ、離れたところから見ている少年が1人、彼の名はレオ。前世で死んで、この世界へ転生を果たした人間。そして雷神龍サンベーラに拾われ、育てられた者。
「サンベーラ!!そんなやつ早くぶっ倒せよ!!ぶっ倒して、また旅をしようよ!!」
レオの悲痛な叫びが響く。叫ぶレオの表情は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。何故ならば、サンベーラは傷だらけで、レオの目から見ても危険であると、死んでしまいそうであると分かっているからだ。
「全く…!我が息子よ!なんて顔をしておるか!この誇り高き我の、雷神龍サンベーラの子ならば!我の勝利を信じ、どっしりと構えて待っておれ!」
子に言われてしまっては、親としてかっこ悪い姿は見せられない。しかし、そんな親としての意地も長くは続かなかった。
「いい加減に眠るがいい!サンベーラよ!」
親としての意地を見せるサンベーラを無情にもヒュオーラは攻撃叩き込んでゆく。
「我は強くあるためだけに生きてきたのだ!人間を育てるような軟弱者に負けはせんのだ!!」
ヒュオーラの炎をまとった鉤爪がサンベーラを切り裂いた。
「サンベーラァァーーー!!!!」
レオの悲痛な叫びが夜の闇の中で響いた。
気がつけば既に炎神龍は居なくなっていた。既に雷神龍が虫の息だからだ。
「う…ぁぁぁ…ぁああぁぁーー!!!」
泣きじゃくるレオ。そして彼の目の前には、自身の血で真っ赤に染った白銀の龍サンベーラが居た。
「我…の…命も…ここまで…か…」
声を出すのもやっとである。もはや彼が助かる道はない。
「レ…オ…すまない…な…お前には…我のちから…の…基本しか…叩き込んで…やれなかっ…た…」
「そんなのいいよ!!これからも教えてくれよ!!死なないでよ!!もっと…!これからも俺と…!色んなところを見て…!旅をじようよおぉ!」
涙が止まらない。ほとんど見えなくなるくらいの涙が、息が苦しくなるほどの鼻水が、溢れて溢れて止まらない。大切な家族が、父が、息絶えようとしているから。しかしレオの今の力では救えない。それを自覚しているからなお、自分への怒りも相まって。
「我…は…お前を…見た時…初めは…見捨てよう…と…思ったのだ…。龍は人と深く干渉しては…ならないからだ…それでもお前を…何故助けたのか…今でもよく…分からぬ…。ただ…これだけは…言える…!我は…お主を…愛しているということだ…!!」
龍が人間を愛する。それは未だかつてない事だった。龍からすれば人間などゴミ虫同様、いてもうっと惜しいだけの存在なのだ。しかしサンベーラはレオを愛した。サンベーラ自身にもなぜ助けたのか理由はよく分かっていない。ただ、心のどこかで人と龍との橋渡しとなって欲しい。そういう思いがあったのかもしれない。
「サンベーラ…!!俺も!俺もだよ!!サンベーラ!大好きだよ!!父ちゃん!!」
もう、サンベーラの瞳は閉じていた。しかしきっとこの言葉は聞こえていただろう。
「父ちゃん…!俺、強くなるよ…!
強くなって…!炎神龍ヒュオーラをぶっ殺してやるんだ!!」
これは、龍に拾われた少年が、亡き父の仇を討つべく力を求め、強くあろうとする愛と復讐の物語。