招待
……えっと、なんの話をしてたんだっけ?
トシが、俺を無視した理由を聞こうとしたのに……。
それが、なんで好きな人が藤本さんってことになるんだ?
「……ごめん、よくわからないんだけど」
「さ、流石に! はしょりすぎたな! ま、まあ……醜い男の嫉妬ってやつだ……これ以上は、勘弁してくれると助かる……」
嫉妬……何か嫉妬するようなことって……あっ——。
「俺が……お昼ご飯一緒に食べてるから?」
「そ……そういうことだ。すまん! 小さい男で!」
「い、いや……そんなことは思わないよ」
逆の立場に立ってみたら……うん、俺も嫉妬するなぁ。
「そ、そうか……聞いても良いのか?」
「うん? ……ああ、どんな関係かってこと?」
……いや、良いタイミングなのかもしれない。
トシには伝える気でいたし……。
というか、伝えたかったけど無視されてたし。
「とりあえず恋人とか、好き合ってるわけじゃないから安心して良いよ」
「なるほど……じゃあ、なおさらのこと変じゃね?」
「まあ、実は……俺も、よくはわかってないんだけど……」
藤本さんが誘ってくる意味とか、静香さんの態度とか。
「はぁ? どういうことだ?」
「その前に、こっちの事情を説明しとくよ」
実は継母に連れ子がいて……それが静香さんであることを伝えた。
もちろん、俺が好きだったとか、振られたとかは言っていない。
「……すまん……本当の話だな?」
「うん、本当なんだ。今まで黙ってて、ごめん」
「いや……当然のことだな。そんなの、人に言うもんじゃない。悪いことは何もしてないけど……面白おかしく言う奴は絶対いるし」
「そうなんだよね……俺も、隠したくて隠してるわけじゃないから。あと、女の子と男とは色々違うと思うし」
そのせいで、静香さんが虐められたとか……由美さんに合わす顔がないよ。
「あぁ〜中村さん、人気あるけど……立ち回りが上手いわけじゃないから、嫉妬もされてるしなぁ……余計なこと言い出す奴はいるだろうな」
「やっぱり、そう思う?」
「ああ、何人か言いそうな奴らがいる。ギャルグループの横澤とか、佐々木とか……」
「誰だっけ?」
「……相変わらず、他人に興味がない奴」
「すみません……」
話を聞くと、髪を染めて服装が緩い感じの人達らしい。
「ああ、いつも大声で話してる人達?」
「それだ、それ。俺も仲良いわけじゃないが……あまり、面白い話はしてないな。誰かの悪口とか、親の悪口とか……もっと、楽しい話をしろってんだ」
「そっか……じゃあ、気をつけないとね。妹を守るのは兄の役目だし」
「おっ、そういう感じか。じゃあ、何かあれば頼ってくれ。こう見えても、顔は広い」
トシはコミュ力も高いし、友人も多い。
何より、俺が信頼している友達だ。
「ありがとう、トシ」
「なに、良いってことよ。お前のそういうところ……いいと思うぜ。自分じゃなくて、相手のことを考られるところが」
「そ、そうかな? 」
「ただ……そのせいで、自分を押し殺すのが心配だな」
「えっ?」
「いや、なんでもない。俺とは違うわな……おっと! 食おうぜ!」
「やばいっ! 昼休み終わっちゃうよ!」
俺たちは、急いで弁当をかきこむのだった……。
そして、放課後を迎え……。
トシを、我が家に連れてくる。
「は、入る?」
「お、おう」
何かわからないけど、二人共緊張している。
もしかしたら、非日常的な感じなのかもしれない。
「兄さん? 何をしてるの?」
二人でわたわたしている間に、いつの間にか扉が開いていた。
すでに帰っていた静香さんが、私服姿で出迎えてくれる。
「ほ、ほんとだ……中村さんがいるぜ」
「こんにちは、鈴木君。兄さん、上がってもらわないの?」
「う、うん、そうだね」
あれ? 静香さんが、全然緊張してない?
男の人が苦手とか言ってたけど……い、いや、何を複雑な気分になってるんだ。
信頼するトシが良い奴ってことじゃないか……はぁ、我ながら器が小さい。
ひとまず、リビングに通して……テーブルに着く。
「はい、鈴木君」
「ど、どうも……」
「兄さんも」
「どうもです」
「ふふ……なんで、二人が緊張してるの?」
いや、そっちこそ……なんで、そんなに余裕があるの?
「い、いや、別に。と、トシ、部屋に行こうか」
「お、おう。これ飲んだら行くか」
「変な二人ね……鈴木君、兄さんをよろしくお願いします」
「あ、ああ……あと、中村さんもね。何かあったら相談して」
そうなんだよなぁ……実際、トシのが頼りになるんだよなぁ。
「ありがとう……ふふ、兄さんの言う通りね」
「へっ?」
「兄さんが、鈴木君のことをすっごく良い人だって」
「そ、そうですか……おい、照れるじゃんか」
「いや……照れるのは俺じゃない?」
「ふふ……じゃあ、ごゆっくりどうぞ。私は、買い物行ってくるね」
静香さんが出て行ったあと……部屋に移動する。
「なんか、雰囲気違うな?」
「そうかな?」
「ああ、いつもは無愛想な感じで……まあ、クール系っていうか……あんなに笑うんだな」
「人見知りらしいからね」
「なるほどねぇ……」
「さすがはトシだよ。静香さんが、全然警戒してないもん」
本当に……少し嫉妬するくらいに。
俺にだけ見せるなんて、変な勘違いをするところだった。
やっぱり、俺は兄さんってことだよな……。
「何言ってんだ? お前が信頼されてるからだろ?」
「へっ?」
「どう見たって、お前を信頼してる目をしてたぞ? だから、俺のことも警戒してなかったんじゃないか? 年頃の男二人と一緒にいたのにさ。彼女くらいの女の子だったら、普通警戒するぜ?」
……そういうことなのか?
俺を信頼してるから……トシへの態度が柔らかいのか?
「なあ、それより……藤本さんがお前と昼飯を食う意味は?」
「あ、ああ……詳しくはわからないけど、静香さんのことを心配してのことだと思う。親友の兄がどんな奴か、気になってるんだと思うよ」
「なるほど……そういや、仲が良いって言ってたな」
「うん?」
仲が良い? 誰から聞いたんだろ?
「い、いや……ほ、ほら、勉強しようぜ! お前のせいで、全然出来てないんだよ!」
「それ、俺のせいなの?」
「そうだよ。だから、責任持って教えてくれ」
「はいはい、わかったよ」
「そんで……終わったら、色々と話を聞いてくれるか?」
「ん? ……ああ、もちろんだよ」
話はそこで終わり、勉強に集中する。
ここで悪い点を取ったら、バイト先にも迷惑かけるし。
色々と気になる点はあるけど……ひとまず、テストを終えてからだな。




