デート?
食事を終えたら、一度ホテルに戻って商店街を歩く。
俺たちは、親父と由美さんを二人きりにするため、別行動をとる。
「ふぅ……これで良しと」
「ふふ、そうね。二人して、私達と一緒にいようとするのよね」
「親父達も気にしなくて良いのになぁ」
(元々、二人で行かせる予定だったし……まあ、それはそれで俺の精神が死ぬけど)
「そうだね。家だと二人っきりには中々なれないもんね」
「そういうこと。だから、旅行くらいは気を使わなくて良いんだよ」
「ところで……兄さん、あれって何?」
静香さんが指差す店の中には、とある台が置いてある。
(というか……あそこってもしかして……)
「ん? ああ、スマートボールだね」
「……すまーとぼーる?」
静香さんが、首を傾げながら棒読みで言う……可愛いんですけど?
「あぁー……やってみる?」
「子供でもできるの? あれ、パチンコみたいだけど……」
「ププッ!? へ、平気だよ……あははっ!」
「兄さん?」
冷たい視線が、俺に突き刺さる。
「ごめんなさい」
「むぅ……笑うことないじゃない」
「すみません」
「もう、良いわよ。ほら、いこ」
ひとまず中に入り、席に着く。
すると、腰の曲がったお婆さんが話しかけてくる。
「あら〜随分と若い子が来たわねぇ〜」
「こ、こんにちは」
「どうもです」
「……春馬君かい?」
「お久しぶりです、中田さん」
(道理で見覚えがあるわけだ。幼い頃、爺ちゃんに連れてってもらった店だ)
「知り合いなの?」
「どうやら、小さい頃に来たことある場所だったみたい」
「もう、八年くらい前かねぇ……あの子が、彼女を連れてくるなんて」
「か、か、彼女!?」
(なんつーことを言うんだ!?)
「そう見えますか?」
「ああ、お似合いじゃよ」
「ふふ、ありがとうございます」
「へっ?」
(ドユコト!?)
「ちょっと、まっとてえな……確か……」
中田のお婆さんは、棚から何かを探している。
その隙に……耳打ちをする。
「ど、どういうこと?」
「お婆さんは、色々な事情を知ってるの?」
「……知らないや。爺ちゃんが死んだことも、親が離婚したことも……」
「なら、このままが良いわよ。気を遣わせちゃダメよ」
(静香さんの言う通りだ……)
「それもそうだね。やっぱり、静香さんは優しいね」
「そ、そんなことないわ……」
「おやおや、若いもんは良いわねぇ」
俺たちは、今更ながら接近し過ぎてたことに気づく。
「っ〜!」
「ご、ごめん!」
「う、うんん……」
「初々しいねぇ……これ、春馬君じゃけえ?」
そこには、小さい俺と生前の爺さんがいた。
「わぁ……可愛い」
「ど、どうも……」
「そうねぇ……せっかくだから……ほら、おふたりさん」
いつの間にか、カメラを構えた中田さんがいる。
「えっと……?」
「ねえねえ、撮ってもらおうよ」
「えっ!?」
「ここなら、誰もいないし……思い出になるかなって……お婆さんのね?」
(そ、そういう意味かぁ……びっくりした)
「そ、そうだね」
「ほら、おふたりさん、もっとくっついて」
「は、春馬君——えい!」
「はい? っ〜!?」
(なんで名前!? なんで腕を組んでるの!? うわぁ……なんだ、これ……柔らか)
「はい、チーズ……もう一枚……はい、チーズ……じゃあ、現像してくるけえ。適当に遊んでてなー」
そう言い、中田さんは店から出て行く。
「な、何を?」
「だ、だって……恋人だって思ってるんだから」
「そ、そりゃ……そうだけど」
「なに? 私じゃ不満?」
「ええっ!?」
「ふふ、冗談よ。それで、どうやってやるの?」
(なんなんだ!? さっきから!? 何か起きてる!?)
好きな子が甘えてきたり、好きな子が腕組んできたり……俺、死ぬのかな?
いや、それとも、夢? いや、そうに違いない。
「そうか、俺はまだ起きてないんだ」
「兄さん? 聞いてるの?」
「イタイ!?」
どうやら、ほっぺをつねられたようです……あれ? 痛い?
「夢じゃないのか……」
「なに言ってるの? ほら、教えて」
「あ、ああ……」
お金を入れると、上の台からビー玉が流れてくる。
「そのレバーを引いて、球を弾くんだよ。こんな風にね」
俺がレバーを引いてから離すと、球がピンボールのように飛んで、打ち込まれたネジに当たりながら下に落ちていく。
「十とか五とか書いてあるでしょ? それに球が入ると、その分の球が出てくるから」
「へぇ……面白そう」
「だいぶ、古いゲームだからね」
そこからはレバーを引くスコーン言う音と、ガラガラというビー玉が流れてくる音と……。
「あぁ! もう少しだったのに!」
「むぅ……! なんで、入らないの!?」
「兄さんのは入ってるのに……」
という、静香さんの言葉が聞こえてくる。
「ハハ……えっと、少し失礼するね」
「ふえっ!?」
「ご、ごめん! 手を触っても平気?」
「う、うん……」
(いかんいかん、俺は本物の彼氏じゃないんだって……)
彼女の手を取り、レバーの勢いを調整する。
「このくらいで……離す」
すると、ビー玉はネジに当たりつつも……。
「わぁ……入ったぁ!」
「こんな感じかな?」
「兄さん、ありがとう!」
「いえいえ」
(うーん……この旅行で大分印象が変わったなぁ)
意外と子供っぽいというか……甘えん坊というか……。
それから、結局一時間くらい遊んでいると……。
「おやおや、まだやってたのかい」
「あれ? もうこんな時間?」
「静香さん、夢中でやってたからね」
「だって、楽しいもん」
「えがったのう……ほら、写真できたえ」
そこには、俺と静香さんのツーショット写真が撮れていた。
俺はもちろん目を逸らしてるし、ガチガチになっているが……。
静香さんも、上目遣いで心なしか顔が赤い気がする。
これじゃ……まるで……。
「初々しい恋人のようじゃのう」
「ふえっ!?」
「えっ!?」
「ほほ、若い子はええの」
その後、お礼を言って店から出る。
「「………」」
「こ、困ったわ」
「そ、そうだね」
「写真……一枚ずつ貰ったよね?」
「ああ、そうだけど……」
「……貰っても良い?」
「そりゃ、もちろん」
俺が彼女に写真を渡すと……。
「えへへ……兄さんとの写真、大事にするね?」
そう言って、写真を宝物のように眺めて微笑むのだった。
「そ、そう……」
俺の心臓は熱を持ち——幸福感に包まれる。
それと同時に——鈍い痛みを伴う。
(……やめてくれ、勘違いしそうになるから)




