第8話 婿候補召喚!
「準備が整いました」
後藤がメガネの中心を二本指でずりあげるようにして鼻の上に戻しながら言った。
「そうか、ありがたい。で、どのようにして集めたのだ」
「SNSで募集しました。そして、いくつもの選考を経て、これはという者を3人選びました。もとの世界に戻れなくなっても苦情や捜索願が出ない者たちばかりです」
王はSNSが何か知らなかったが、要は公募をしたということと理解した。
「陛下、一つ約束をして下さい」
「何だ」
「召喚した若者たちは、姫君と結婚をしなくても、こちらの世界には帰さないで下さい」
「いいのか?」
「はい。これを守っていただけないと、若者をそちらに送ることはできません」
「どうしてだ?」
「こちらの世界では、このような別の世界が存在していることは知られていません。魔王が本当に存在することも、魔法が実在することもです」
「全く知られていなのか? だがお前たちは、すぐに理解して、本当のことだったんだと言っていたではないか」
「実は、エンタメ、つまりおとぎ話としては、有名です。知らない者はいないくらいで、こちらの世界の若者は、異世界とか魔王とか魔法とかが大好きで、その熱狂ぶりはすごいものです。でも誰も本当のことだとは思っていません。もし、こんな世界が実在して行き来できると知ったら大混乱が生じます。世界が変わります。だから今はまだ知られたくないのです」
「そうか」
「それに警察庁の高官である私が、総理の内諾を得て、自衛隊やSATの装備をこちらの世界に横流しして、大量の金を対価として受け取り、総理と警察庁の機密費に当てていることがバレたら、政権が転覆します。日本の危機です。なので、絶対にこちらの世界から召喚した者は、日本に帰さないで下さい」
「分かった。約束しよう」
「約束を反故にされたら、もう弾薬も武器もその他の装備品、さらには女王が大好きなこちらの世界の製品をお渡しすることは出来なく無ると思って下さい」
「大丈夫だ。約束は守る。それで、召喚はいつできる」
「いつでも可能です」
このやり取りが昨日のことだった。
王は召喚した若者たちを見た。
見たことのない服を着ている。
一人の若者のズボンはホロボロで膝が破れて抜けていた。帆布のような青い生地のズボンだった。何度も洗ったせいなのか脱色して色が薄れていた。
(かわいそうに、貧困にあえいでいるのだろうか)
だが、その割には血色はよく、肌も色艶があり栄養は足りているようだった。また高価そうな装飾品を身につけていた。
(異世界人は謎だな)
「諸君、ようこそエアンデールに」
「どうやってここに移動した?」
一人の若者がいぶかしげに訊いた。
「転移魔法の魔法陣を使った」
「はいはい。設定はそういうことね。それはいいから、ここどこ?」
「だからエアンデール王国だ。諸君らは異世界から召喚されたんだ」
「そこのコスプレおっさん、日本語、間違っているよ。俺らは異世界から召喚されたんじゃなくて、異世界に召喚されるんだ。そいう設定だろう。そんな台詞回しだと、あとで監督からNGくらうぞ」
王は戸惑った。いくら異世界人とは言え、王に対して何たる口のききようだ。
「後藤さんから何も聞いていないのか?」
「だれそれ?」
「お前たちは、何と言われてここに来た?」
「『異世界転移をして異世界で活躍する若者募集、姫様と結婚のイベントあり』というSNSの告知を見てだよ」
「あれだろ、流行りの異世界恋愛ものの実写版のオーディションなんだろう」
「完成したらネットフリスクとかで独占配信するんでしょ?」
「本当に異世界転移するみたいな設定でSNSで公募するなんてなかなか洒落がきいている。話題作りが上手いね」
「西洋中世みたいな異世界のロケ地として、ヨーロッパか、ヨーロッパの元植民地の街で長期ロケするから当分の間日本には帰れないっていう話だろ」
「だけど、どうして一瞬でロケ地に飛んだ?」
「薬で眠らせられたのか?」
三人の若者は口々にそう言った。
王はためいきをついた。
(どうも何か誤解があるようだ……)