エピローグ 東京ディズニーランド、再び
幸田翔子は夫とベンチで座って休んでいた。
「やっぱり、もう歳ね」
「長時間立っているのは疲れるな」
結婚40年目のお祝いに娘夫婦がディズニーランドのペアチケットをくれたので夫と二人で来ていた。
夫とは東京ディズニーランドがオープンした年に結婚した。
思えば、東京ディズニーランドの歴史は、翔子の家族の歴史でもあった。
新婚時代、子供が生まれ、子供たちが大きくなってゆく節目、思い出はいつも東京ディズニーランドと共にあった。
ふと目を前の家族連れに向けた。
今どき珍しい大家族だった。
子供たちの数を数えた。
全部で7人いた。
何か子どもたちが言い争っていた。
今晩の夕食を回転寿司にするかサイゼリアにするかで口論しているようだった。
「何も、せっかくディズニーランドに来たのに、夕食をファミレスや回転寿司で食べなくてもいいのに」
横に座っていた夫が言った。
「しー、聞こえますよ」
「聞こえたりはしないさ」
「大家族だから、きっとお父さんも大変なのよ。子育てはお金がかかるから」
「まあ、そうだな。それにしてもあのお母さん、あんなに子供をたくさん生んでいるのに若くて綺麗だな」
「まあ」
翔子の少し怒った声に夫は黙った。
その家族の男の子の帽子が風に飛ばされて来た。
翔子は帽子を拾うと、その男の子に渡した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
「ぼく、どこから来たの?」
「エアンデール王国」
(あら、外国の観光客なのかしら? それにしては日本語が流暢ね)
「お名前は?」
「エアンデール王国第3王位継承者エドワードです」
「すみませーん」
お父さんが慌てて駆け寄ってきた。
優しそうなお父さんだった。
そして、男の子の手を引いて行った。
「ごっこ遊びだな。どうせ異世界の王子かなにかになったつもりなんだろう。アニメの見過ぎだ」
夫が言った。
「あら、いいじゃないの。ここは夢の国なんだから。それにしても仲が良さそうな良い家族ね」
翔子は、少し不思議な大家族がキャラメル味のポップコーンの売店に向かっていくのを見送りながらそう言った。
完
ここまで、本作品をお読みいただいた読者の皆さん、本当にありがとうございました。
これまで、感想や励ましのイイネや高評価をいただき、とても嬉しかったです。
また、誤字脱字を訂正していただき、ありがたかったです。
書くことが好きで、妄想を小説にしていましたが、ここ『なろう』に投稿するまで、読者のいない片思いの日々を送っていました。自分が書いたものを読んでいただける喜びを、皆様にいただきましたことを厚く御礼申し上げます。
アンとタケルの物語はこれで終わりです。
で、懲りずにさっそく次の物語を連載します。
今度は、ヤクザに射殺されて異世界に転移した武道オタクのリュウジが、魔王が人間とサキュバスのハーフの愛人に産ませた女子高生の新魔王のボディガードをして異世界でスローライフを送る話です。
タイトルは『魔力が枯渇した異世界に転移したら空手有段者の俺は最強だった。そして魔王がサキュバスと人間のハーフに産ませた前魔王の隠し子の女子高生だったのでボディガードになることにしました。』です。
こちらもお楽しみいただけますと幸いです。




