第79話 タケルとアン王女
私は少し休みたいと言って自室に戻った。
そしてタケルを呼び、人払いをした。
タケルが部屋に入るなり、私はタケルに訊いた。
「タケル、あなたは本当にタケルなの?」
「何を言っているんだ。当たり前だろう」
目の前にいるのはタケルだが、あの時の17歳の少年ではなく、立派に成人した大人のタケルだった。舌も左腕もすべて完全に治っている。
あの日、ディズニーランドで離れ離れになってから、こうして元通りになったタケルと二人きりになるのは初めてだった。
見つめ合うと言葉が出てこなかった。
「ねぇ、あの日のこと覚えている?」
私はタケルに訊ねた。
「もちろんだ」
「デートの途中だったよね」
「ああ」
「あの日からずっとお預けになったままだね」
「え、ああ、うん」
タケルの目が泳いだ。
私はそれを見逃さなかった。
「欲しいの」
「今から?」
「ええ。もう待てない」
タケルは私の部屋の中央にある天蓋付きの5人は寝ることができるベッドに素早く視線をやった。
タケルは私の手を取ると、ベッドに連れて行こうとした。
「何をするつもり?」
「だから、その……」
タケルは顔を赤らめた。
「キャラメル味のポップコーン」
「え???」
「お預けのままじゃない」
タケルはがっかりした顔をした。
だがすぐに気を取り直した。
「そうだった。あれは食べてなかったね。確か転移魔法陣がこの王宮にはあるんだよね」
「そうよ」
「じゃあ、これから買いに行こう」
「うん」
私はタケルの腕にぶら下がるようにした。
タケルが立ち止まった。
「どうしたの?」
「いけねぇ。金が無い。日本円を持っていない」
タケルは本当に困り果てた顔をした。
「よかった。タケルだった」
私はタケルにしがみついて声を上げて泣き出した。
「ポップコーンが食べれないからってそんなに泣くなよ。そうだ、最初に実家に寄ればいい。そこでお金を借りてディズニーランドに行けばいい。大丈夫、ポップコーンは買えるから」
「もうタケルの馬鹿!」
タケルは訳が分からないという表情をした。
私は怖かったのだ。
タケルが別人ではないかと。
一度死んで勇者に復活した後のタケルは、もはや人間とは思えない圧倒的な力を有していた。
世界を破壊し尽くす力を持った魔王でさえ、格下の相手と喧嘩をした程度で倒してしまった。
この世にあらざる存在だった。
だから、タケルの形をした別の何かではないかと疑っていたのだ。
仮にタケルの肉体と魂を受け継いでいたとしても、過去のタケルの記憶を失い、人間としての当たり前の感情も持たない者になっている可能性があった。
でも、タケルだった。
少しエッチで、優しくて、いつも私のことを一番に考えてくれるタケルだった。
あの夏の日、二人で過ごした日々のことも覚えていた。
私のタケル。
私が愛したタケルだった。
「なあ、そんなに泣くなよ。キャラメル味だけでなく、ミルクチョコレート味も買ってあげるから、そうだ、抹茶ホワイトチョコ味もつけるからさ」
「もう、本当に馬鹿! 馬鹿! 馬鹿!」
私はタケルの胸をげんこつで叩いた。
私の勢いに後ずさりをするタケルをそのままベッドまで押した。
「どうしたんだよ」
驚くタケルをベッドに押し倒した。
「愛している」
私はタケルの唇に唇を重ねた。
「どうして泣くんだよ」
タケルが心配そうに私に訊いた。
「嬉しいからよ」
私はタケルに抱かれながらそう答えた。
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