第77話 逆襲
タケルがついに魔王を倒した。
私はタケルの元に駆けて行こうとした。
その次の瞬間、身体が浮いた。
(なに?)
胴体を何者かに掴まれていた。
皮膚に爪が食い込む。
見ると翼を広げたガーゴールだった。
「魔王の肉片がガーゴールに再生して王女を拐ったぞ!」
近衛兵が叫んだ。
ガーゴールが笑った。
「チェックメイトだ。王女さえ亡き者にすれば王族の跡継ぎは生まれない。あと50年もすればワシの天下だ」
「離しなさい!」
私はもがいた。
でも動けなかった。
「無駄だ」
「タケルが助けてくれるわ」
「人間である勇者が空を飛べるわけないだろう」
ガーゴールは上昇し始めた。
「どうするつもり」
「天高くに行く。そこは空気が無く、しかも寒い。何もしなくても、飛んでいるだけでお前は死ぬ」
私は逃げようと必死に動いた。
しかし、ガーゴールの鈎のような爪がついた手で抱えられて身動きができない。
「タケル! 助けて!」
「無駄だ。この高度まで人間が上がってくることはできない」
息をしているのに、息が止まったように身体が苦しい。
寒いのに、太陽の光りが当たっている部分だけやけどしそうに熱い。
(もう、このまま死ぬしかないのね。タケルにやっと再会できて、しかもタケルが復活したというのに……)
意識が薄れて来た。
「何!」
魔王が叫んだ。
何かが下から上に突き抜けた。
身体が傾いた。
振り向くとガーゴールの右の翼が斬られていた。
「今度は上か!」
ガーゴールが頭を上げた。
太陽を背にして剣を振りかざし、白銀の鎧を輝かせてタケルが落ちてきた。
ガーゴールの左の翼も斬り落とされた。
私をつかんでいる力が緩んだ。
ガーゴールに肘打ちを食らわすと身体を捻った。
私はガーゴールから抜け出すことができた。
けれども真っ逆さまに地上に墜落してゆく。
ものすごい風圧と風切り音だった。
身体がバラバラになりそうだった。
下は王宮前広場だった。
広場の石畳に墜落すれば、身体はぐちゃぐちゃになるだろう。
広場にいる人の姿が見えてきた。
走馬灯のようにタケルとの異世界での楽しかった思い出が蘇ってきた。
こうやって落下してゆくのはタケルとの最後のデートで乗った遊園地のアトラクションのようだった。
私は目をつぶった。
不意に風切り音が消えた。
あたりが急に静かになり、海の上で浮いているような感覚を覚えた。
私は空中を浮遊していた。
(死んだのかしら)
肉体が死ぬと魂が肉体から抜け出て、天井の上から自分の死体を見ることがあると聞いたことがある。
私は自分の手を見た。
まだ自分の肉体の中にいた。
私は空中をゆっくりと下降していた。
だんだん広場の群衆の顔が見えてくる。
みんな上を見上げている。
身体を持ち上げられた。
私は空中でお姫様抱っこをされた。
「タケル!」
「もう大丈夫だよ。魔王は完全に始末した」
「でもどうやって」
「魔法を使って跳躍力をアップして、飛び上がって魔王の翼を斬った。落下する時にもう一撃入れた。そのあと、さらに魔法で破片を全部焼き払った」
「でも私達はどうして空に浮いているの」
「重力無効化魔法だよ」
タケルにお姫様抱っこされたままゆっくりと王宮前広場の中央に下降した。
広場にはどんどん人が集まってきていた。
父と母もその中にいた。
「見ろ、勇者様と王女様だ」
「無事だったんだ」
「魔王を倒したんだ」
王宮前広場の中央に私達が降りると大歓声に迎えられた。
「お父様、お母様」
王は私を抱きしめた。
「万歳、万歳」
民衆の歓呼が響いた。




