第6話 王女は異世界恋愛ものにはまっています
「で、どうだったのだ」
王はアーリンに間者が調べた結果を訊いた。
「実は……」
アーリンは言いにくそうだった。
「どうした?」
「王女様は、異世界恋愛ものの小説がお好きのようです」
「何だそれは?」
「古より伝わる英雄譚を現代風に書き直したものであります」
「うむ。もう少し具体的に教えてもらえないか」
「この世界の娘が、異世界の殿君と恋に落ちるという話であります」
「そういう話が流行っておるのか」
「1000年間の平和の結果、もう魔王と勇者が戦う話は飽きられて、今は異世界人と恋をする話が乙女たちの間で流行っており、姫はそういう話を好まれているそうです」
「だから何だというのだ」
王家の一族は唯一異世界人を召喚できる能力がある。その血を引いた姫が異世界人に興味を持ったとしておかしいことではない。
「ただ、のめり込み方が尋常ではないとのことです。武術や射撃の訓練をしていない時は、ほぼ異世界恋愛ものを読まれているそうです。そして時々、本を横に置かれて、窓の外を見ては深いため息をつかれているそうです」
「つまりは……」
「王女は異世界人との恋に恋しているとでもいいましょうか」
「異世界人が好みだというわけだな」
「御意。そのとおりであります」
「うーむ」
王は腕組みをして考えた。
「つまりは、王女は異世界人となら付き合い、結婚するかもしれないということか……」
実は王は1000年前に魔王を倒した異世界の勇者の子孫だった。勇者は魔王を倒すと、王女と結婚し、その子孫が今の王族なのだ。だから異世界人の血は既に王家に入っている。というより現在に至るまでの1000年にわたる王家の支配の正当性は魔王を倒した異世界人の勇者の業績に起因するのだ。だから、王女が異世界人と結婚しても何の不都合もない。むしろ原点に帰ることだとも言える。
「よし、決めた」
「はい!?」
「直ちに御前会議を招集せよ」
「はっ。ただ、その招集の議題は?」
「異世界人の召喚だ。異世界人の若者を召喚するぞ」
「ははっ」
王は異世界から娘の結婚相手を召喚することにした。
その前に例の異世界人に相談してみよと思った。
数年前に誤って召喚してしまい、異世界に戻したが、その後も連絡を取り合い、異世界の武器などを供給してもらっている後藤だ。
王は一人で王宮の奥の魔法陣に行くと、魔法陣を発動させて後藤を召喚した。