第67話 魔王との戦い その1
「あれが魔王なのか」
陸自の舘野が言った。
「そうよ」
「なんだ、思ったよりも小さいじゃないか。あれなら人間と変わらない。あいつが大将で、あれを倒せば雑魚の魔物も消滅するんだな」
「そうです」
「じゃあ、行くか」
「はい」
SATの田中も96式装甲車を降りると銃を構えた。
「私たちは、勇者の援護に回る。いいか、この戦いで魔王を仕留めるのだ」
私は無線で隊員たちに命じた。
舘野と田中はそれぞれライフルを構えて前進してゆく。
彼らは異世界の武器で魔王を倒すつもりのようだった。
だが、それは不可能だ。
魔族には銃弾や剣などの物理攻撃は効かない。
魔族を浄化して燃やし尽くす魔法だけが有効だ。
あの二人は後藤から勇者になる条件を聞いているのだろうかと思った。
勇者は、魔王に殺され、その後、復活して初めて勇者となる。
だから彼らは殺されに行くのだ。
すべては復活するかどうかにかかっている。
復活して誕生した勇者は無敵だ。
魔王と言えど、歯が立たない。
問題は、どうしたら復活するのかがよく分かっていないことだ。
前に魔王が攻めて来たのは1000年前で、しかもその時に魔道士や魔法学校の生徒まで皆殺しになり、最後に異世界から来た若者が勇者に復活してかろうじて勝ったのだ。
復活した勇者は王となり、伝説となったが、なぜ、復活したのかについては明確ではなかった。
それに、魔王に殺されることが条件だから、仮説を立て、実験して、検証することもできない。
私がそんなことを考えているうちに、舘野たちは魔王のそばまで近づいていた。
パパパパン。
乾いた炸裂音がする。
舘野の小銃から連射された弾が魔王に吸い込まれてゆく。
私もアサルトライフルを構えて、援護射撃をする。
魔王が手を前に出した。
雷が落ちたような爆音がして、魔弾が魔王の手から発した。
舘野の体が消し飛んだ。
「どうだ」
私は双眼鏡で舘野を注視しているまどかに訊いた。
私の場所からでは煙でよく見えない。
「だめです、動きません」
「勇者復活の兆候は」
「ありません」
「やりやがったな!」
警視庁のSAT隊員の田中が叫び、銃を撃った。
だが魔王はびくともしない。
「このバケモノめ」
魔王が田中に近づく。
田中は凍りついたようになり、動けないでいる。
「オクトパス、撃て」
オクトパスが榴弾を撃つ。
命中。
だが、魔王は止まらない。
「ぎゃああああああああああああああああああああ」
魔王が田中の右手をもぎ取った。
「ひ、ひいいいいいいいい」
血を肩の付け根から吹き出しながら、田中が逃げようとする。
魔王は手刀で田中の首をはらった。
田中の首が飛んだ。
「まどか、舘野はどうした」
「復活はもう無理のようです」
「そうか」
後は田中に賭けるしか無かった。