第5話 王の悩み
「陛下、姫様が帰ってまいりました」
「おおそうか。で、事件は」
「無事解決したそうです。ナイフを持った男は銃で制圧したそうです」
「人質は?」
「無事です」
何はともあれだった。もっとも異世界の武器に、この世界の人間が太刀打ちできるとは毛頭思ってはいなかったので、王女のことは案じてはいなかった。
王が案じているのは世継のことだった。
「アーリンはいるか」
「陛下、何でごさいましょう」
アーリンが姿を現した。
アーリンは王の相談役だった。
「どうしたらいい。ライアン公から婚約を破棄されてしまった」
「なんと!」
「私とアンだけなんだ。この世界であの魔法陣を使うことができるのは。もし、私やアンに何かあれば、誰もあの魔法陣を使えない。だから早くアンには子をもうけてほしいのだ」
「お気持ちは察します」
「1000年だ」
「はい?」
「1000年間、平安な時代が続いた。しかし、平和は永遠には続かないというのは歴史の真実だ。王族たるもの、来たるべき時に常に備えてなければならない」
「それは、魔王の復活ということですか」
「そうだ」
「王は魔王が復活するとでも」
「分からない。しかし、魔王征伐はこの世界から魔王を追い払っただけで、存在自体を消すことはできない。知っての通り、世界は一つではない。我々と同じ平行世界の異世界がある。さらに異世界だって一つではないはずだ。いつまた襲ってくるのはかはわからないのだよ」
「確かにその通りです」
「前の大戦で魔王軍に魔道士のみならず魔法学校の学生まで魔法を使える者はすべて殺された。図書館は焼かれ、魔法陣は壊され、魔法は失伝した。今や、我々は魔界や異世界からの襲来に対抗するすべはない」
「異世界から勇者を召還できる王宮魔法陣がまだ残っているではないですか」
「そこだよ。アーリン。だからこそ、王家の血を絶やしてはならない。最後の魔道士アルギサンダーが魔法陣を残し、それを発動する鍵を我が王族の血筋とした。これだけは守らなくてはならないのだ。だから王女に早く結婚してもらいたい。なあ、どうしたらいい」
「それは、兵法で言いますれば、敵を知ることです」
「敵を知るだと?」
「つまり、王女のことをもっと知る必要があります」
「王女は私の娘だ。私は、娘のことはよく知っている」
「本当にそうでありますか。陛下は、王女の好みの男性をおわかりですか」
「好みの男性か……」
確かに王女が何を考えているのかを実のところ王はよくわからなかった。しかし、年頃の娘を持つ父親というのは皆そのようなものではないだろうか。
「どうしたらいい」
「間者を使うのです」
「何、間者とな」
「そうです。間者に王女の好みの男性を徹底的に探らせ、そして、王女の好みのタイプの男性を近づければよいのです」
「なるほど、それも一理あるな。よし、間者にその旨を命じよ」
「御意」
こうして王は王女の好みの男性を間者を使って調べることにした。