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第44話 異世界の王女、剣道の試合に出場する。 その4



「くそう。これは反則みたいなもんだ」


 一回戦は昨年の県大会の準優勝校の松戸西高等学校だった。


 しかも先鋒の鎌谷選手は昨日の女子個人戦の優勝者だった。


 ウチの先鋒から中堅まで一気に3人抜きをされた。


「めえぇええええんー」


「一本!」


 赤の旗が立った。


 あっという間に副将の神崎までやられた。


「これまでだな。せっかくアンさんに協力してもらったが、一回戦で敗退だ」


 顧問が残念そうに言った。


「アンさん、無理しなくてもいいから、立っているだけでいいぞ」


 顧問は王女にそう声をかけた。


 王女が所定の位置についた。


「始め!」


 審判の声が響いた。


「エィアアアアー」


 怪鳥音と共に王女の体が前に飛び出した。


 鎌谷選手がのけぞるような姿勢で場外に吹っ飛んだ。


 竹刀が手から離れ、仰向けに倒れたまま動かない。


 試合はいったん中断した。


 救護班が来て、鎌谷選手の面や防具をはずし、人工呼吸を行った。


 鎌谷選手は息を吹き返した。


 その間、王女は試合場で正座をして待っていた。


 審判が協議を始めた。


 鎌谷選手が防具をはずした状態で試合場に戻ってきた。


 主審がマイクを片手に試合上の中央に来た。


「ただいまの試合の審判団の協議の結果を述べます。白の新浦安高等学校の大将の突きを有効と認め、一本とします。よって、白の新浦安高校の勝利となります」


 会場からまばらな拍手が起きた。


 次の松戸西高等学校の次鋒はあきらかにビビっていた。


 個人戦の優勝者が目の前で瞬殺されたのだ。


 しかも防具をつけて打ち合う剣道の試合では、空手やボクシングと違いKOシーンは無い。


 それが喉への突きで、鎌谷選手がKOされて呼吸が一時止まってしまったのだ。


 次鋒は完全に腰が引けていた。


「始め!」


 また、開始の合図と同時に王女が斬り込んで行く。


 今度はメンだ。


 ヘビー級のキックボクサーがサンドバックをくの字に曲げたような打撃音がした。


 次鋒はメンを撃たれて杭打ち機にでも叩かれたかのように床に沈んだ。


 今度もKOだ。


「一本!」


 審判全員が白の審判旗を挙げた。


 その後も王女の圧勝だった。


 試合が終わると、松戸西高校の選手は皆、泣き出した。


 負けたのが悔しいのか、王女が怖かったのか、それとも打たれたところが痛いのか、どれなのか分からないが、子供のように泣いていた。


「よくやったぞ」


 顧問が歓喜の笑顔で王女を迎えた。


 王女は面を取ると、上気した顔を僕に向けた。


「タケル、そんなに防具は臭くなかったよ。やっぱりあの時のー」


(もう、その話はいいってば)


 僕は、その先を言わせないために、思わず王女の唇を自分の唇で塞いだ。


 王女は僕に身をまかせた。


「お前ら!」


 顧問の怒鳴り声がして、我に返り、慌てて体を離した。


「いや、そのヨーロッパの王室ではキスは挨拶の代わりでして……。つまり健闘を讃えようと……、ハハハハ」


 苦しい言い訳だった。


 負けた松戸西高の選手は泣き止んでポカンとした顔で僕たちのことを見ていた。


(ヤバイ。失敗した)


 そんな風にしてまずは一回戦を勝ち抜いた。




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