第42話 異世界の王女、剣道の試合に出場する。 その2
「すごい」
顧問の先生はため息混じりに言った。
王女の型は、予想外に素晴らしかった。
今の剣道の型とは異なるけど、その演武が練磨された修行の成果であることはひと目でわかった。
そう言えば、王女は一子相伝の剣術をマスターしており、その剣術というのは1000年前の異世界から来た勇者から伝承を得たもので、その異世界の勇者というのは日本の武士だという話を思い出した。
「いったい、どこでこんな型を……」
顧問が興奮して言った。
「君は、その型を誰に習ったのかね」
「異世界の勇者からよ」
「なんだと、異世界の勇者からだと」
顧問がすっとんきょうな声を上げた。
「いやいや、先生、それは聞き間違えですよ。彼女は伊勢界隈の優勝者からと言ったんです」
「伊勢界隈の優勝者?」
「実は彼女の母は日本人です。ここだけの話ですが王の第二夫人です。ほら、似た例ではデヴィ夫人とかもいるでしょう」
「あ、ああ、そうか……」
「その母の実家が伊勢市なんですよ」
「おう……」
「その実家の祖父が古流剣術の師範で、伊勢神宮での奉納試合で優勝したことがあるそうなんです」
「それはすごい。伊勢神宮での古流の神前試合というのは伝統があって、それは素晴らしいものと聞いている」
「それです、それ。で、彼女はその祖父から古流剣術の型を習っていたということなんですよ」
「ほお、そうか。確かにあの型は江戸時代以降のもではない。伊勢由来と聞くと納得する。何というか剣道の源流のまた源流のような……。しかし、異国で、そんな古い剣術の型をマスターしているとは驚いた」
僕は声をひそめた。
「だから、先生、彼女は王族だって言っているでしょ。我々庶民の常識が通じない相手ですよ。あ、それからこの話は絶対秘密にしておいてくださいね。公にすると外交問題ですよ。先生には守秘義務がありますからね」
「わ、わかった」
苦しい言い訳だったが、僕のでっち上げの嘘を顧問は信じたようだった。
「いや、それにしてもすごい。型だけの審査なら3段、いや4段だと言っても通用する」
顧問はいたく感心した。
「ところで、アンさん、剣道の試合に出てみる気はないかな」
「えええええええ」
そう叫んだのは僕の方だった。