第41話 異世界の王女、剣道の試合に出場する。 その1
「先生、どういうことですか」
僕の目の前で、剣道部の女子部員の4人が泣いていた。
「高樹が高熱を出したんだ」
「えっ、じゃあ……」
「そうだ。高樹が出られない以上、女子は団体戦に出場できない」
今日開かれている夏の団体戦の県大会のためにこの1ヶ月の間、毎日早朝から朝稽古をしてきた。
女子部員は全員2年生なので、夏の県大会に出場できるのはこれが最後の機会だった。
それが、試合もできずに終わってしまうのだ。
彼女たちにかける言葉が無かった。
「初心者でも、何でもいいから、あと一人いればな。ただ立っているだけでいいんだ」
悔しそうに顧問の先生が言った。
剣道の団体戦は勝ち抜き戦だ。
例えば最初に戦う先鋒が相手の大将までの5人を一人で破ってしまうと、先鋒一人だけでも団体戦を勝ててしまう。
だからとりあえず5人いさえすればいいのだ。
試合の方は弱い選手は大将にして最後にまわし、ほかの4人が頑張ればいいのだ。
だが、剣道はいまどきの女子には不人気で、引退した3年生を除くと女子部員は5人しかいない。
一人欠けるともう団体戦には出れない。
彼女たちの夏は終わってしまった。
「おい、あの娘は誰だ。お前と親しそうに話をしていたな」
顧問が僕の木刀を玩具にして遊んでいる王女を見て言った。
「ああ、あれは我が家でホームスティをしている外国人です」
「ちょっと、連れてきてもらえないか」
「はい」
(顧問はいったい何を考えているのだろう)
「来て」
僕は王女に声をかけた。
王女を連れてくると顧問はしげしげと王女のことを見た。
「日本語は通じるのか?」
不安そうに僕を見て言った。
(顧問は英語の先生じゃないか。英語で喋れないのかよ)
そう思いながらも僕は「平気です。彼女は日本語ペラペラです」と答えた。
「君、名前は?」
「エアンデール王国、第一王位継承者アン王女です」
僕は途中から「ああああああああああ」と言って言葉を遮った。
そして顧問の先生を引っ張って柱の陰に連れて行った。
「先生、僕の父が外交官だって知っていますよね」
「ああ」
「実は、彼女はお忍びで日本に来ているヨーロッパのとある小国の王族なんです」
「なに、王族だと? それがどうして日本に」
「先生だって、今日本は海外では、富士山、芸者より、鳥山明や鬼滅の刃の方が有名だって知っているでしょ。彼女は日本文化や日本語の勉強をしているうちに、アニメオタクになってしまい。どうしても夏休みに日本に遊びに来たいということで外交筋からの依頼で父が預かっているんですよ。でも王族が日本のアニメ狂いだというのは体裁が悪いから、極秘で来ているんです。ですから、先生も彼女がさっき本名を名乗ったのは聞かなかったことにして下さい。下手すると外交問題に発展しかねませんから」
「わ、分かった」
僕は顧問の先生を再び彼女の前に連れてきた。
「ええと、何とお呼びしたらいいのかな」
「アンです」
「それで、君は剣道はやったことはあるかな。さっき見たらいい太刀筋をしていたようだが」
「いいえ」
「やっぱりそうか……」
顧問の先生は肩を落とした。
「でも剣術なら少々たしなんでいます。型をお見せしまようか」
そう言うと王女は木刀を握り、おもむろに型を始めた。




