第38話 異世界の王女、ネットフリックスにはまる
目が覚めると窓の外は薄暗くなっていた。
夜になるまで眠ってしまったようだ。
リビングに行くと、王女は数時間前と同じ格好でテレビを見ていた。
おはようと言うのも変なので、「やあ」とだけ声をかけた。
「タケル、目を覚ましたの」
王女は画面を見ながら僕に言った。
(えっ!?)
いきなり名前を呼び捨てにされ、なんか数時間前と雰囲気が違うなと思った。
王女が見ている画面を見ると、恋愛もののドラマのようだった。
ヒロインの女優がアップになった。
「ねぇ、ヒロ、どうして昨日は連絡くれなかったの」
「スマホの電池が切れていたんだ」
「嘘よ、インスタに投稿していたじゃない。ねぇ、ヒロ、どうしてそんな嘘を私につくの」
僕はピンと来た。
王女は、僕が寝ている間、ずっと恋愛ドラマを観ていて、ヒロイン役が、彼氏を名前で呼び捨てにしている口調がそのまま伝染ったのだ。
(案外、影響されやすいんだな)
王女は食い入るような目でドラマを観ている。
「ずっと観てたのか?」
「うん」
「何本くらい観たのか?」
「分からない」
「ちょっと止めてもいい」
「ええ」
僕はドラマを止めると、視聴履歴を見た。
結構、王女は見ていた。
映画やドラマなど何本も見ていた。
いわゆるトレンディドラマ系のものや、悲恋ものなど様々だ。
だがどれも、年頃の男女の恋愛ものだ。
(やばい。すっかりネットフリックスにはまっている)
もう一度ドラマを再生した。
操作の時に、少しスキップしてしまったようで、場面は変わり、主人公たちが回転寿司にいるシーンになった。
ヒロインがレーンから皿を取って、寿司を食べた。
「ねぇ、タケル、あれは何?」
「回転寿司だよ」
「どういうお店なの」
「お寿司がレーンから流れてくるんだ」
「面白そう」
「今晩の夕食、それにする?」
「えっ、行けるの?」
「ああ」
「行きたい!」
王女が顔を輝かせた。
今夜のディナーは『はま寿司』に決まった。