第37話 異世界の王女、異世界転生アニメを見る その2
アニメが始まった。
まずは異世界もののテンプレのイベントだ。
主人公が、道路に迷い出た幼児を救おうとしてトラックにはねられる。
王女は主人公がトラックにひかれるシーンに思わず声を上げた。
次は神様が出てきて、チートな力を付与されて、異世界にレッツゴーだ。
主人公が異世界に転生すると序盤から魔法を使って無双状態だ。
僕は王女の表情を伺った。
何を考えているのか読めない表情をしていた。
3話くらい観たので、休憩にして、僕は冷蔵庫からハーゲンダッツを2個取ってきた。
「夏と言えば、アイスだよね」
そう言って、クッキークリームを王女に渡した。
一口食べて、王女は目を細めた。
ミルクを飲んだ子猫のような表情だ。
「何、やだ。美味しい」
(やった。また『美味しい』、いただきました)
いや、そんなことに喜んでいる場合ではなかった。
異世界転生ものの感想を聞かなくてはならない。
アニメの続きをスタートさせた。
「これはどう?」
「どうって?」
「このお話だよ」
「そうね……」
「実はこのお話は君のいた世界を模したものなんだ。主人公が死んで転生した先は君のいた世界なんだよ」
「そうなの?」
王女は不思議そうな顔をした。
そして、テレビに視線を戻すとアニメの続きを王女は観た。
「どう? 君のいた世界と同じ?」
そこからはダメ出しの連続だった。
魔法はあんな風に簡単には使えないとか、服装が違うとか、魔王があんな姿なわけがないなど、批判ばかりだった。
(どうやら、本物の異世界は、なろう系のテンプレの異世界とは違うらしい)
王女は異世界ものはお気に召さないようだった。
だが、なんとなくそれは予想できていた。
父の兄は弁護士だが、家では決して弁護士もののドラマとかは観ないと言っていた。
現実と違うフィクションの部分には「そんなわけないだろう!」と馬鹿らしくなるらしい。
一方現実と同じリアルな描写は、仕事を思い出してストレスになるので楽しめないのだという。
多分王女も同じなのだろう。
話を面白くするための嘘の部分は、本当のことを知っているので楽しめなくて、妙にリアルな部分は帰れなくなった自分の故郷を思いして悲しくなったりするのだろう。
僕はリモコンを手にすると、異世界もののアニメを止めた。
「ねぇ、それを使うと、他にもいろんなお話を観ることができるの?」
王女はリモコンを不思議そうに見た。
「そうだよ」
王女は異世界もののアニメより、僕が手にしているリモコンの操作と、ネットフリックスそのものに興味をいだいたようだ。
僕は王女にリモコンの使い方と、ネットフリックスのコンテンツを観るやり方を教えた。
朝が早かったので眠くなってきた。
少し昼寝をすることにして、王女にリモンコンを与えたまま、僕は自室に戻り横になった。




