第34話 異世界の王女、初のお泊りをする
「その……」
王女が何だか消え入りそうな声になった。
「何だい」
「私はどうしたらいいの」
「どうしたらって?」
「異世界に転移してきたばかりだし、ここには知り合いはいないし……」
「だから?」
「泊まるところが無いの」
「なら、ここに泊まればいいじゃないか」
一瞬、王女の顔がほころびかけたが、すぐに曇った。
「それはダメ」
「どうして?」
「だって、この家には私達二人だけなんでしょ……」
王女の言わんとすることはよく分かった。
いや、そもそも最初の出会いが、裸で自己発電中の僕の上に落ちてきたのだ。
あの僕の姿を見て、その晩に、その男と二人きりで一つ屋根の下でお泊りしようという神経の方がおかしい。
「じゃあ、どうする? どこか他所に行くあてはあるの?」
「それは……」
王女は本当に困った様子になった。
なんだか僕が王女を苛めているようなうしろめたい気持ちになった。
「よかったら、しばらくの間、ここで暮らしなよ」
そんな言葉が思わず出てきてしまった。
自分で言って、自分に驚いていた。
「いいの? でも……」
僕は最後まで言わせなかった。
「もちろん、寝室は別々だよ。今、両親が外国にいるんだ。君は両親の部屋を使えばいい。内側からドアに鍵もかかるから安心して」
僕は王女を両親の部屋に連れて行った。
そして、ドアが内側から施錠できることも教えた。
「あなたに迷惑をかけちゃうけどいいの?」
「構わないよ」
「ありがとう」
それから、僕らはマンションのすぐそばにあるコンビニに買い物にでかけた。
王女の歯ブラシや身の回りの小物と明日の朝食の買い出しをした。
遅い時間なのに昼間のように明るく、色んな種類の商品が並んでいるコンビニを見て、王女は目を丸くした。
歯ブラシや食品などを買い込み、部屋に戻ると、寝る準備を始めた。
王女はちゃんとユニクロで部屋着も買っていた。
それに歯ブラシとかの使い方も問題なく知っていた。
シャワーは交代で浴びることにした。
シャワーというものは初めてだというので、僕はパンツをはいたまま、使ってお手本を見せた。
王女は熱い湯がノズルからたくさん出てくるのを驚いて見ていたが、それで身体を洗える便利さはすぐに理解したようだった。
王女が両親の寝室に行った後、僕はパンツを脱いで、普通にシャワーを浴びた。
寝間着に着替えると、王女の部屋をノックして、自分が終わったのでシャワーを使えることを告げた。
部屋に戻ると、ベッドの上に大の字になって寝そべった。
今日は本当にいろんなことがありすぎた。
僕は目を閉じた。
そのまま眠りにつくはずだった。
だが、突然の悲鳴に起こされた。
悲鳴は風呂場からだった。
僕は風呂場に行った。
すりガラスの扉の向こうに王女の裸の身体がぼんやりと映っている。
迷ったが、僕は風呂場のドアを開いた。