第33話 異世界の王女、サイゼが美味しいわけを語る
「ごうちそうさま。本当に美味しかったわ」
家に帰ってきてからもサイゼの話題で持ちきりだった。
僕は疑問に思った。
確かにサイゼは美味しい。
それは僕も認める(それに安いし)。
でも彼女は異世界の王女だ。
いくらナメクジ料理が盛んな世界から来たとしても、その世界で一番マシなものを食べているはずだ。
それが、あんなにサイゼに感動するだろうか。
僕は違和感を覚えた。
「サイゼのどこがそんなによかったの?」
「うーん」
そう訊かれると、王女も何に感激しているのか自覚していなかったようで考え込んだ。
「分かった。お料理が温かったからよ」
その一言で僕も分かった。
僕の父は外交官だ。
幼少の頃から、世界のVIPや王侯貴族のことは食卓で話題になり、耳学問で知っていた。
やんごとない方は温かい料理を食べることはない。
毒味のせいだ。
料理は、作られてから、毒味役が同じ鍋から作ったものを食べて、その後、泡を吹いて倒れたりしないか時間を置いて様子を見て、安全を確かめ、それから広い宮殿内を移動して、やっと食される。
もともと固い肉なら冷えればもっと固くなる。
ピザとかドリアが冷えれば不味いのは言うまでもない。
唯一、冷えて美味しいのは小エビのサラダくらいだが、これは逆にぬるくなるはずだ。
(本当に高貴な生まれだったんだ)
僕は彼女がサイゼに感動した理由を聞いて、ただの腹ぺこ娘ではなく、本物の異世界の王女だと確信した。
(ということは彼女はこの世界では行くところが無いのか)
王女はソファーでテレビのニュースを物珍しげに見ていた。
(今晩はどこに泊まるつもりだ?)
そう考えたとたん、ドキドキしてきた。
時計を見ると午後10時になるところだった。
明日は早朝から剣道部の朝稽古があるので早く寝なければならない。
「もう、そろそろ寝る支度をしないと」
そう言う僕の声はうわずっていた。