第32話 異世界の王女、サイゼで食す その3
次は定番のミラノドリアだ。
これは何も言うことはない。
王女は無言であっという間に完食した。
そして、僕のまだ手をつけていないミラノドリアを物欲しげに見るので、「これも食べていいよ」と言うと、王女は喜んで食べた。
最後にマルゲリータが来た時には、さすがに王女は満腹になったらしく「もういいわ」と言ったが、試しに1切れだけ味見しないかと勧めたら、結局3切れも食べた。
「ああ、もうお腹いっぱい」
そういう王女を尻目に、僕はティラミスを2つ注文した。
「まだ食べるの?」
王女はあきれていたが、そもそも王女は僕の倍近く食べている。
僕にはまだ余裕があった。
しかし、ティラミスを見ると王女は、さっきまでの態度とうってかわり、フォークを手にするとすぐに食べ始めた。
やはりスイーツは別腹だった。
ティラミスも完食し、王女はいたく満足した様子だった。
「ここは上流階級の人が来る店なの?」
僕は返答に困った。
「こんな美味しいものを食べたのは生まれて初めてよ。こんな店に普段から来られるような人は、さぞかし高貴な生まれの方々なのでしょうね」
コメントに困った。
(今日のところはそういうことにしておくか)
とにかく王女が満足したということが大事だった。
会計を済ませて、外に出ると太陽は落ち、すっかり夜になっていた。
すると花火の音が遠くから聞こえて来た。
「あの音は何? まさか戦でもしているの?」
僕は笑った。
「花火だよ。この時間になるとディズニーランドで打ち上げているんだ」
「ディズニーランド?」
「ネズミが主役の夢の国だよ」
「ネズミの夢の国なんてあるの!」
これも説明するのが難しかった。
「今度、連れて行ってあげるよ」
「やだ。ネズミの国なんて行きたくない」
もしかすると王女はネズミが怖いのかもしれない。
「大丈夫。とっても楽しいから」
「ネズミの国が楽しい? やっぱり異世界ね。私達とは住む世界が違うわ」
それを聞いて笑い転げる僕に王女は怖ろしいものでも見るかのような視線を向けた。
(ディズニーランドに連れて行った時のリアクションが楽しみだな)
僕は王女の誤解はそのままにして、バイクを停めているところに行った。
そして、僕は王女をバイクの後ろに乗せると家路についた。
夜風が気持ち良かった。