第29話 異世界の王女、ユニクロに行く その2
待つこと5分、王女が出てきた。
花柄模様のキャミソール・フレアワンピースにベージュのパンプスを履いていた。
ユニクロの安物のプリント柄のワンピースなのに、僕にはドレスを着た本物の王女が出てきたように感じた。
「どうかしら」
王女が恥ずかしそうに訊いた。
キャミソール・ワンピースなので肩はあらわで、王女の透き通るような白い肌が見えた。
「素敵だよ」
僕は溜息まじりに言った。
さっきの店員が出てきた。
「本当にお似合いですよ。ウチのモデルにしたいくらいです」
名札を見ると店長という肩書がついていた。
このままいると本当にチラシ広告のモデルにされてしまいそうなので、僕は王女の手を引いて店を出た。
駅前の広場に出た。
夏なので日が長く、外はまだ明るかった。
だが、バス停には帰宅する勤め人の長い列ができていた。
時計を見るともう午後6時を過ぎていた。
「この後、どうする?」
そう訊いても、異世界から来たばかりの王女はなんと答えていいのかわからない様子だった。
その時、王女のお腹が鳴った。
「ヤダ……」
王女は恥ずかしそうな顔をした。
(よし、決まった。次は食事だ)
だが、異世界の王女様というのは、いったい何を召し上がるのだろろう。
僕はどこに連れてゆくか迷った。
新浦安の駅前にはディズニーリゾートに来る旅行者向けのシティホテルが立ち並んでいる。
その中には割といいレストランが何軒か入っている。
父が帰国した時に家族で地元で外食する時など、そのホテルの京懐石料理や中華料理を食べに行った。
しかし、京懐石や中華が異世界の王女様の口にあうかは分からなかった。
なによりもディナーはコースで1万円はする。
ユニクロで散財した上に、ディナーに数万円使ったら、母はカードの利用を止めかねない。
(じゃあ、駅前のマックにするか)
いやいやと僕は首を振った。
さすがに異世界の王女様に初日のディナーからマックでは失礼だ。
(回転寿司はどうかな?)
近くには『はま寿司』があつた。
「ねぇ、お寿司って知っている?」
「いいえ。それは、お洋服のこと?」
寿司はまだハードルが高いようだった。
それに異世界では生の魚は食べないかもしれない。
僕は異世界もののテンプレで登場人物が何を食べていたかを必死で思い出した。
異世界というのは多くの場合、こちらの世界の西洋中世に近い。
食卓に並ぶのはパン、焼いた肉、それにシチューとか温野菜だ。
だとするとこの王女様が来た世界も似たような所かもしれない。
うってつけの店が閃いた。
(そうだ、『サイゼ』に行こう)
しかも、サイゼなら財布にもやさしい。
僕は異世界の王女様をサイゼに連れて行くことにした。




