第27話 異世界の王女、海辺の街をスクータでドライブする
僕は王女とマンションの一階にエレベーターで降りた。
王女はエレベーターを不思議がり、魔法で動いているのかと訊ねた。
「これは魔法でなくて、電気で動いているんだよ」
「電気?」
「雷の一種のだよ。そのパワーでモーターを回しているんだ」
王女はよく理解できなかったようだが、やっぱり雷系の魔法だと勝手に納得したみたいだった。
駐輪場に行くと、僕はメットを王女に渡した。
「これは何?」
「かぶって」
僕もメットをかぶるとスクーターにまたがった。
125ccなので余裕で二人乗りできる。
「乗馬のようにこの鉄の馬にまたがり僕の身体に腕をまわして」
馬の例えは適切だったようで、王女は迷うこと無く後ろに乗った。
エンジンをかけた。
「キャッ」
王女が驚いた。
「大丈夫。これも異世界の魔法みたいなもので、馬のように走るんだ。落ちないようにしっかりつかまって」
僕はアクセルを捻った。
バイクで走り出した。
「すごい」
王女が後ろで驚嘆の声を上げた。
僕はマンションの駐車場から公道に出た。
家は千葉県新浦安にあった。
東京デズニーリゾートの隣の街だ。
南カルフォルニアのような街路樹が立ち並ぶ広い道路が縦横に走る臨海都市だった。
広い道路をスクーターで走った。
風が気持ちいい。
潮風を含み、すこしだけ海の香りがする。
王女は怖いのか身体を押し付けてくる。
僕は背中に王女の胸の膨らみを感じた。
初夏の街は、熱く、乾いていた。
僕も何だか喉の奥が乾いて来た。
新浦安駅前に着くと商業施設の駐車場にバイクを停めた。
「着いたよ」
新浦安の駅前を歩きながら、王女は立ち並ぶビルをまるで異世界に来たかのように物珍しげに見回した。
いや、違った、王女にとってはここは異世界そのものだった。