第25話 異世界の王女に選ばれし者の恍惚
「疑うならもう一度やるわ」
上半身に一糸もまとわぬ姿で、手をかざした。
まず風でロウソクの火が消えた。
「風系の魔法よ」
そのまま手をかざして彼女はロウソクに火をつけた。
「どう?」
種も仕掛けも見破れなかった。
「でも、どうして?」
「何?」
「どうして脱いだ? 見られるのが嫌だったんだろう」
「王族にとっては名誉の方が大事なの」
そう言うとティシャツをまた着た。
「他に何ができるの」
「後は、水系と土系」
彼女は僕の方に手をかざした。
「やめろ」
とっさに僕は手で顔をガードしたが遅かった。
子供がプールで遊ぶ水鉄砲で撃たれた感じで顔に水が飛んだ。
その後、鳥の糞が落ちてきたような感じで土塊が額に落ちてきた。
「これだけ?」
彼女は黙って頷いた。
とりあえず、魔法は使えるようだが、これでは魔王どころか近所のワルガキも倒せないレベルだった。
「これで私のことを信じてくれた?」
信じるしかないようだが、僕にはまだ疑問があった。
「どうして魔法が使える?」
「えっ? だって、あなたさっきは、転移魔法でここに来れるなら魔法が使えるはずだと言ったじゃない」
「それはそうだが、君は魔法が全て失伝したと言っていた。なのに魔法を使えるのはおかしくないか」
「失伝したからあのレベルの魔法しか使えないの。しかもあのレベルの魔法でさえ使えるのは王族である私くらいなの」
「どうして王族だと魔法が使える?」
「それは1000年前に魔王を倒した勇者の子孫だからよ。勇者は生まれながらに魔法を使えるの」
「つまり遺伝で魔法を使えるような素地はあるけど、それを伸ばしたりする方法はすべて無くしてしまったということか」
「そういうことね」
僕は腕組みをした。
(一応話の筋は通っている。それにさっきのは、手品じゃない。彼女が言っていることは嘘ではないのかもしれない)
「分かった。君の言うことを信じよう」
「嬉しい」
彼女が初めて笑顔を見せた。
可愛かった。
胸がドキドキした。
「ねぇ、お願いがあるの」
彼女が真剣な眼差しで僕を見た。
(お願いって何だ? 彼女がもし本当に異世界の王女だとすると、まさか……)
中二病患者の僕の脳裏に、おなじみの王女様が異世界の勇者にクエストを依頼するシーンが再生された。
(つ、ついに、僕にも世界を救うという崇高な使命を果たすときが来たのか)
芽生えたばかりの嬉し恥ずかし恋心と、中二病患者真っ盛りの選ばれし者の恍惚と不安で、僕は頭の芯がクラクラしてきた。