第18話 夏の始まり
アン王女が17歳の時に異世界に転移した時の過去に遡ります。
もっとも、異世界というのは新浦安ですが……
視点人物は新浦安に住む17歳の男子高校生となります。
ここからが本当の異世界恋愛ものになります。
王女の異世界体験と恋の物語が始まります。
「渉、どうしたんだよ」
僕は渉が死んだように教室で机に突っ伏しているのをみて言った。
「俺のことは放っておいてくれ」
完全に目が死んでいた。
「もうすぐ夏休みだ。梅雨もあけたというのに、どうしてそんなにブルーなんだよ」
和樹や祥たちも来た。
「渉が死んでるぜ」
「マジか?」
「女にでも振られたのか」
「それだったらまだましだ」
「財布でも落としたか」
「馬鹿、そんなんじゃない」
「じゃあ、なにがあったんだよ」
渉は泣きそうになった。
「絶対誰にも言わないから。俺達仲間だろう。悩みがあるなら言えよ」
「お前ら、絶対に他人に言わないか」
「ああ」
「それに絶対に笑わないし、馬鹿にもしないか」
「当たり前だ」
「実は、親に○○を見られた」
「何? 聞こえない」
「だから……だ」
「聞こえないよ」
「だから自家発電をしているところを家族に見られた」
「はあ?」
渉の目がまた泣きそうになった。
「なあ、何があったのか詳しく話してくれよ」
僕は優しく問いかけた。
渉がぼそぼそと語り始めた。
要は自分の部屋でスマホでエロ動画を見ながら、マスをかいていたらしい。
しかも、音声をイヤホンで聞いていたので、母親がドアをノックして入ってくるのを気が付かなかったという。
その上、母親がそれを見て悲鳴を上げたので、妹が何事かと部屋に来たそうだ。
そして、一部始終を母親と妹に見られたのだという。
それ以来、妹にはド変態扱いされて口をきいてもらえず、母親とは超気まずい雰囲気らしい。
なので、渉はもう死にたいと嘆いていたのだ。
僕は吹き出しそうになったが我慢した。
和樹を見た。
和樹も目を泳がせて必死に笑いをこらえていた。
「なあ、こんなことありえないだろう」
渉が言った。
「いや、よくあることだよ。みんな経験している」
祥が取り繕うように言った。
「本当か?」
渉が顔を上げた。
「もちろんだよ。僕だってそうだ」
僕は心の中で絶対に無いと思ったが友のためなので嘘をついた。
「じゃあ、祥も、和樹も、皆なのか」
「まあな」
「本当なんだな」
「そうだよ」
急に渉が顔をそむけた。
「いや、違う。みんな嘘つきだ。目が笑っている」
そう叫ぶと、渉は泣きながら教室を出ていってしまった。
渉の姿が見えなくなると、僕はこらえていた笑いを解放した。
祥と和樹もだった。
「でも、笑いごとじゃないよな」
「他人事だから笑えるけど、自分に起きたら最悪だ」
「家にいられないよな」
「みじめすぎる」
僕らは家でエロ動画を見ながら自家放電をする時はくれぐれも注意すべきだと話し合った。
渉には悪いが、家にいる機会が多い夏休みに入る前に、よい教訓を得たと言えるだろう。
そんな風にして僕らの高校2年生の夏休みが始まろうとしていた。
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