第16話 アン王女の秘密
「どういうことだ」
王は臣下に言った。
「分かりません」
襲撃者の正体は分からずじまいだった。
復活しないように、飛び散った肉片も全て集めて焼き払った。
その後、治安部隊の総力を挙げて襲撃者の正体を調査したが、どこから来たのか、何者なのか、何の目的で舞踏会を襲撃したのかは判明しなかった。
御前会議には異世界から来た3人の若者も参加していた。
「もし、魔王が復活した場合に備えて、貴殿らにも協力してもらう」
王が厳かに言った。
「しかし、先日の件を見ても分かるように僕らには力がありません。魔法も使えません」
「君たちに本当のことを言おう。異世界からの勇者というのは、召喚されただけでは何も特別な力は有していないのだよ」
「なら、どうして僕らを勇者と呼び、魔王を倒せるなどというのですか」
「1000年前もそうだった。異世界の若者は魔王と戦う時に、その秘められ力が目覚め、一度その力が発動すると無双の力を発揮し、あらゆる究極の魔法も無詠唱で使えるようになるのだ。訓練などいらぬ。ただ、目覚めるかどうかだけなのだ」
「すると、僕らも……」
「そうだ。魔王と対峙した時に、勇者として目覚めし者は、地上最強となる」
「でも、もし目覚めなければ?」
「今のままだ」
「そんな……」
「いいか、世界が危機の時に勇者となれるのは、君たち異世界人だけのだ。それを覚えておいてほしい。あと、いずれ勇者となる者として、武器と鎧を本日より支給する」
結局、異世界から来た若者に勇者らしい格好をさせるということ以外は特に何も進展のないまま御前会議は終わった。
会議の後、王はアン王女を呼び出した。
「アン王女、そなたと二人で話をしたい」
「父上何でしょう」
「あの異世界人たちはどうだ」
「どうだと言われますと」
「結婚してもいいという相手はいるか」
アン王女は顔をそむけた。
「彼らは異世界人だぞ。それでも駄目なのか」
「異世界人なら誰でもいいというわけではありません」
「なあ、アン、お前もしやあの時に……」
アン王女は何も言わなかった。
「あの1ヶ月あまり、何があったのだ」
「それは申し上げた通りで……」
「親切な異世界人の世話になって、食事と寝る場所の提供を得て無事だったとしか聞いていない」
「そのとおりです」
「まさか、その時に誰か好きな相手ができたのか」
「その話はしたくありません」
アン王女が席を立った。
「まて、決まった相手がいるのなら、その者を呼べばいいではないか。会ってみないと分からないが、お前が決めた相手ならば、一方的に反対したはりしない」
すると、驚いたことにアン王女は父に涙を見せた。
「父上に内緒で転移魔法陣を使い、何度も探したのです。でも……。いないのです。異世界のどこにも彼が見当たらないのです」
アン王女が泣き出した。
「よい、よい。分かった。泣くのではない」
アン王女は泣き止まなかった。
「なあ、あの時、何があったのか、ワシに聞かせてくれないか」
「父上……」
事件が起きたのはアン王女が17歳の誕生日を迎えた日のことだった。